あきのエンジェルルーム 略歴

2015年07月02日

「ノー残業デー」の社食メニューはガッツリ系!?  ♡Vol.42

 いつも心にエンジェルを。

 「ノー残業デー」があると聞くと、「いい会社だな~」と思ってしまう私。我が社に「ノー残業デー」なるものが存在しないのでうらやましいだけなのですが、たくさんのエンジェル企業を取材していると、「ノー残業デー」くらいで喜んでいてはいけないことがよーくわかります。
 確かに「ノー残業デーがある職場」=「残業がある状態が通常」ということです。だれもが定時退社できる職場なら、あえて残業をしてはいけない日を決める必要などありませんよね。
 とはいえ、なんでも一足飛びにはいきません。日本には「雨だれ石を穿(うが)つ」(水も当たり続ければ硬い石に穴を作ることができるという意味)ということわざもあります。長時間労働がどんなに堅牢な「城壁」でも、ただ指をくわえて見ているだけでは何も変わりません。

 どのエンジェル企業も、最初は「雨だれ」からスタートしています。社員のワークライフバランスの充実のために制度を整え、その制度を使いやすいように工夫をし、そして、社員の意識改革にも継続的に取り組む。一朝一夕にエンジェル企業は生まれません。
 今回紹介するのは製薬で国内最大手の武田薬品工業です。社員数(単体)は6781人、女性社員は3割弱です。女性管理職はまだ2014年度末で4%台と決して高くありません。2015年度末までに女性管理職比率5%達成を目指しています。

 同社コーポレートビジネスセンターで採用・研修グループマネジャーを務める佐久間文恵さん(写真左)はこう話します。「『2015年度末で5%』の目標は2011年に発表したのですが、社内には『そんな低い数値目標を“公開”する意味があるのか。世間に対してどうなのか』という意見もありました。でも数値目標があることで『ビジネス戦略』であるという方向性を社内で共有できたと思います」

 製薬業界は研究職であれば創薬(新しい薬をつくること)のための実験に日夜いそしみ、営業職(MR)であれば、医師などの都合にあわせて、アポイントを取る必要があります。ワークライフバランスとはやや「相性のよくない」職場といえるかもしれません。同社でも1990年代以前には女性の営業職での定期採用はなかなか進まなかったそうです。
 しかし、1991年から本格的に新卒で女性MRを採用するようになり、その女性社員たちが2000年前後に「出産」というライフイベントを迎えたことから、徐々に、「両立支援」への対応が整っていきました。
 さらに2008年からは、「長く働ける環境づくり」という段階から、「活躍できる環境づくり」という段階に移行してきました。具体的には「Takeda Women's Network」を立ち上げ、どうすれば女性が活躍できるのか、改善ポイントを女性社員の目線で手上げ方式で提案してもらうようにしました(右写真は女性活躍推進プログラム「WILL」での研修)。
 もともと研究職では出産後も働き続ける女性社員が多かったこともあり、研究所の移転を機に、2011年、湘南研究所に事業所内保育施設「タケダキッズ」も整備しています(下写真)。 
 武田薬品工業がダイバーシティーをスピーディーに浸透できたのには、他のエンジェル企業と同じように、やはりトップのコミットメントが大きかったといいます。2003年に同社社長に就任し、経済同友会代表幹事も務めた長谷川閑史(やすちか)現会長は、海外の同業他社とのM&Aを積極的に進めてきたトップとして知られています。欧米の同業者から登用した人材を主要部門の責任者にあて、2014年には英製薬大手出身のフランス人に社長を禅譲し、大きな話題になりました。
 
 国内市場だけでは頭打ちという経済環境を打破するためにグローバル化が不可欠なことは社員も理解しています。長谷川会長には「外国人の仲間たちと一緒にがんばろう、のその前に、我が社の場合は男女の格差をなんとかしなくては」という思いがあったそうです。
 もちろん簡単なことではありませんでした。佐久間さんによると、ダイバーシティーの専任部署ができた当初、2010年ごろは、「女性に活躍してもらうための施策に理解を求めようと社内をまわると、女性が活躍すると何かいいことあるのか、それは証明できるものはあるのか、と問い詰められることもありました(笑)。でも今は、女性活躍と企業業績の相関関係も示しやすくなり、素直に受け入れてもらえるようになりました」。
 
 同社の人事部門の一つ、グローバルHRでタレントマネジメント主席部員の田辺幸晴さん(写真左・社員のリフレッシュスペース、同社東京本社屋上にて)も言います。
 「社内で新任管理職の研修などがあると、同席した長谷川社長(当時)が、毎回のように『なんだ、女性は○名だけか』というんです。インフォーマルではありますが、社内に『企業中枢に女性がいない我が社はマズいのではないか』というトップのメッセージが男性管理職にも広まり、徐々に社内に伝わっていった面もあると思います」 
 同社はワークライフバランスの充実にも積極的です。何時間働いたかではなく、どのような成果をあげたかを評価することが重要だとして、1997年に成果主義を導入。結果として長時間労働が評価されない社内風土に変わりつつあったのも、ダイバーシティー推進の追い風になりました。

 定時退社を推奨する日も、「ノー残業デー」でなく、同社では「パワーアップデー」と呼ばれています。週1回だったのが2011年7月から週2回に増えました。
 「リフレッシュするためというより、フィットネスでもボランティアでも、なんでもいいので、“ワーク(仕事)以外のこと”を元気にがんばろう、という日なんです。導入当時は社食のランチメニューもガッツリお肉など、メッセージをこめて工夫したりしました」と佐久間さん。
 
 残業する社員に夜食を提供、なんていうのより残業しない日の社員にこそ「パワーを」という発想、素敵だと思いませんか。