あきのエンジェルルーム 略歴

2015年04月02日

新卒採用「女性比率30%」で女性管理職が9倍に!? ♡Vol.30

 いつも心にエンジェルを。

 組織を活性化するには、その組織におけるマイノリティの構成比が30%以上必要である、という理論があります。提唱したアメリカの経営学者の名前をとって「カンター理論」と呼ばれています。そんな発想のもと、2000年から新卒で総合職を採用する時、30%以上を女性にするという取り組みを続けている企業があります。もちろん内定辞退などで多少の変動はあります。その結果、取り組みを始めたころは10人しかいなかった女性管理職は、13年後、88人にまで増えていました。実に9倍です。しかも女性管理職の約4割はワーキングマザーです。
 今回紹介するのは、高機能繊維や電子材料、ヘルスケアなど多角経営をしている化学大手、帝人グループです。制度などを共有する主要グループ企業5社の社員数は7550人、そのうち約2割にあたる1443人が女性です。平均勤続年数は男性17年8カ月、女性15年8カ月と男女差は比較的小さく、経済産業省のダイバーシティ経営企業100選にも選ばれています。

 帝人が女性活躍推進に着手したのは1999年。海外の企業と合弁などを検討する話し合いの席上、先方は女性がいるのに、帝人側には女性がいない、という場面にトップ自身が違和感をもったことが大きいといいます。強い組織を作るには国籍や性別に関係なく有能な人を取り立てるべし、とトップダウンで立ち上げたのが「女性活躍委員会」です。
 こういう組織をつくると女性社員ばかり集める傾向がありますが、同社の場合は男女およそ半々、部課長クラスもまじえて、13人の委員を会社側が選抜しました。メンバーが1泊2日の合宿研修で、女性活躍推進を阻む課題について語り合いました。
 2000年には専任組織、2007年に人財部にダイバーシティ推進室ができました。3代目室長の日高乃里子さん(写真)は女性活躍委員会の初代メンバーの一人です。
 「当時の合宿で、女性社員から、『労働時間そのものを短縮しないとダメなんじゃないか』という意見が出たとき、男性社員から『僕らはもっと働きたい』というような反論も出て、まだワークライフバランスについて男性社員は腹落ちしてなかった過渡期でした。しかし、そのときの男性メンバーが執行役員など、発言力のある立場になり、今ではすっかり旗振り役になってくれています。男性も入ってくれていて本当によかった」と日高さん。

 ダイバーシティ推進室では「制度も風土も変えよう」をテーマに女性社員を100人集めて、ロールモデルの女性社員とともに泊まりがけの研修を実施しました。研修所には臨時に会議室に託児所もつくり、子連れでも参加できるように工夫しました。日高さんは長女もすでに大きくなっていましたが、自らの経験から提言した「育児休暇の期限は年度末ではなく4月末まで」といった意見が制度に反映されました。(下写真は同社のダイバーシティの取り組みをまとめた冊子)
 2001年には退職者再雇用制度も作りました。夫の海外転勤などを理由に退社をした女性社員をまた正社員として再雇用する制度です。日本の企業ではいったん退職した女性の再雇用というと非正規扱いになるなど、労働条件が悪くなることが一般的ですが、同社では退職時の労働条件が引き継がれます。再雇用後に管理職になった女性社員もいます。2008年には在宅勤務制度もできました。週2回まで利用できます。男性社員も利用しています。

 もっとも充実しているといわれるのが介護休暇制度です。2010年、これまで1年間だった取得可能期間を2年間、730日に延長しました。介護期間は平均4年といいます。分割取得して、時短勤務も活用することで、介護によって社員が退職を迫られる事態を防いでいます。
 日高さんは言います。「ないのは社内託児所だけ、というくらい制度は整っています。だからどんどん休んでくださいというのではなく、この制度を使って人生をしっかりマネジメントしてほしい。体を休めることもマネジメント、どんなに忙しくても親兄弟とちゃんと仲良く、というのも子育てや介護、老後のためのマネジメントです」

 2003年からは「女性管理職を3年で3倍にする」という施策に着手しました。毎年30~40歳の優秀な女性社員12~15人を選抜し、メンターとして執行役員をつけ直属の部長と1年間のプログラムを実行してもらいます。女性の若手社員がふだん接点の少ない部長と一緒に行動することで管理職の仕事がよくわかり、部長にとっても女性の能力に気付く良い機会になるといいます。社内に女性のロールモデルが少なかった時代には、人事部で社外のロールモデルを見つけて、選抜チームに会いに行かせることもあったそうです。最終的にCEOの前で「リーダーを目指す」ことを宣言してプログラムは終了です。宣言したことで女性社員にも「覚悟」ができるそうです。その他にも、社内外の女性管理職と女性社員との集会を開いてきました。(写真は2007年開催「女性フォーラム」)
 2011年からは女性管理職をさらに現在の「2倍にする」という数値目標を立てました。女性社員向けの育成策だけでなく、役員、部課長自身に「女性を管理職として育成することを常に意識してもらうため」に「サクセッションプラン」を活用しています。「サクセッション」は「継承」「後継」という意味です。
 自分の役職の後釜(後継者)としてどの社員がふさわしいか、「1年後」「3年後」という仮定で1人ずつ名前を挙げます。男性上司というのはどうしても男性の後継者ばかりを思い浮かべがちです。そこに「女性」という欄を作り、自分の役職を任せるにふさわしい女性社員の名前を必ず書かせるようにしました。自分の目で選んだ以上、上司はその女性社員を、責任をもって育成する気持ちになれるそうです。

 日高さんには忘れられないシーンがあります。長女を出産した1992年、産休に入る前日まで大きいお腹で残務を処理し、21時半ごろ、だれに見送られることもなく、一人寂しく荷物を抱え、タクシーに乗って家に帰ったそうです。出産後半年で復帰し、時短勤務で16時半に退社していましたが、常に同僚への後ろめたさがつきまとったといいます。

 「それがいまでは女性社員に“働き続けてもらう”レベルではなく、能力を伸ばし、しっかり“出世してもらう”という取り組みに移行しています。実際に抜擢された女性リーダーが、『BtoBtoC』という消費者ニーズ起点のビジネスモデルを成功させるなど実績もあげています」

 野心もある、仕事で自分も成長したい、そんな女子におすすめです。