あきのエンジェルルーム 略歴

2015年03月26日

“働く喜び”って何だろう? ♡Vol.29

 いつも心にエンジェルを。

 就活における会社選びのポイントは、その会社で働いている自分が具体的にイメージできるかどうかだといいます。学生時代も楽しいけれど、いきいきと笑顔で働いている未来の自分を想像できたら、厳しい就活にもファイトがわきますよね。


 「あの子たちの“働く喜び”を守りたい」。

 先日、「第5回日本でいちばん大切にしたい会社大賞」(人を大切にする経営学会主催)の表彰式(下写真)で素敵な言葉に出合いました。言葉の主は福島市にあるスポーツウェアメーカー、株式会社クラロン社長の田中須美子さん(89)です。今回創設された厚生労働大臣賞の受賞企業です。主に東北六県や新潟県、栃木県、茨城県などの幼稚園や小中高で使われる体操着を作っています。
 この「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」は約7000社の企業をフィールドワークしてきた法政大学大学院の坂本光司教授が、ブラック企業の対極にある、「立場の弱い人を大事にする企業」をきちんと評価したいという発案から5年前にスタートしました。

 企業が大切にすべき「人」を、①従業員とその家族②外注先・仕入れ先③顧客④地域社会⑤株主とし、彼らに対する使命と責任を果たし、人を大切にする経営に取り組んでいる企業を選び、表彰しています。応募するには条件があります。①人員整理、会社都合による解雇をしていない②下請け、仕入れ企業へコストダウンを強制していない③障害者雇用率は法定雇用率以上である④黒字経営である⑤重大な労働災害がない、という五つの基準をクリアしないといけないので企業からするとハードルの高い賞でもあります。
 冒頭の須美子さん(写真)が「あの子たち」「子どもたち」と呼ぶのは、主に知的障害のある社員のことです。多くは成人です。同社は、須美子社長の夫である故・田中善六さんが1956年に創業しました。善六さんは戦争で耳に障害をもったことで、障害者雇用に力を尽くしてきました。善六さんは2002年に亡くなりましたが、その遺志を継いだ須美子さんは、知的障害のある人や高齢者をその後も正規雇用し続けています。全従業員132人のうち障害者が34人、ダブルカウントされる重度障害者も10人いるので、障害者実雇用率は35%以上、法定雇用率(2.0%)を大きく上回っています。

 最初は裏返しの服を表に返すなどの単純作業からスタートし、徐々に断裁やミシン作業などに進みます。いまでは作業のリーダーである「班長」が障害者で、その班長の指示で健常者が作業することも多々あるそう。モットーは「あきらめず、あせらず、あたたかく」。障害のある人にも能力が必ずある、だから、靴(仕事)に足(障害者)を合わせるのではなく、足(障害者)に合わせた靴(仕事)を作っていく、その信念からの言葉です。
 全社員のうち100人が女性で管理職の55%が女性です。定年といわれる65歳になった後も、1年ずつ本人の希望で正社員としての雇用を延長しています。最高齢の女性営業課長はなんと78歳。「死ぬまでここで働いて記録を延ばして」と須美子さんは常々その社員に言っており、ご家族に困った顔をされるそうですよ。
 この連載では、性別、年齢、国籍、障害の有無にかかわらず、だれもが働きやすい職場づくりに取り組んでいるダイバーシティー(多様性)推進企業を紹介しています。子育てや、加齢による体力の低下、あるいは言葉の障壁、さまざまな「制約」があっても能力が生かせる場所は必ずあります。クラロンはまさにそれを50年以上前から実践してきた会社なのです。

 須美子さんが表彰式の後、紹介したのは知的障害のある男性社員とのエピソードです。情緒が不安定で職場で突然奇声を上げることもあるこの社員、経営者側は納得して雇用していますが、他の社員がビックリしたり怯えたりします。そこでまだ存命中だった善六さんはこの社員とときどき倉庫に入り、二人だけで思いっきり大声を出すことを思いつきます。そのうちに職場での奇声は徐々に減っていきました。
 その後、善六さんが亡くなった後、須美子さんが落ち込んでいると、その社員が笑顔で、すれ違いざま、須美子さんの肩をトントンと叩いていったのです。実は善六さんはこの社員をリラックスさせるため、時折肩をたたいていたらしく、それがうれしかったのでしょう、今度は須美子さんに同じことをして励まそうとしてくれたのです(写真は工場)。
 東日本大震災では、福島市も震度6弱の被害を受けました。被災している社員の出社は難しいだろうと思っていたら、翌日には社員らが次々、出社してきました。ガソリンも不足していた時期です。障害のある社員らも社員同士、一台の車に相乗りしてやってきたといいます。
「どうしてこんな大変なときに仕事に来てくれたの」と聞くと「会社に来るのが楽しいから」と即答されたのだそうです。毎年年末に無遅刻無欠勤を1年続けた社員を表彰しているそうですが、ほとんど顔ぶれはいつも同じで、そのうち10人は障害者だといいます。
 須美子さんは言います。
「雇ってあげているという考えは間違いで、自分のほうが支えられ、励まされています。少子化で体操着の売り上げは減っており、経営環境は厳しい。けれども、“あの子たち”の『働く喜び』を守るためにできる限り雇用を続けたい。そのために企業としてきちんと利益を生みたい」

 以前、取材した障害者雇用に積極的な会社の社長も、禅寺の住職に言われた話として、まさに同じことを言っていました。
 「人間の幸せはものやお金ではありません。人間の究極の幸せは、『人に愛されること』『人にほめられること』『人の役に立つこと』『人から必要とされること』の四つ。働きたいと思うことは本当の幸せを求める人間の証しなのです」と。

 「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」には経済産業大臣賞、中小企業庁長官賞、審査委員会特別賞など、たくさんの受賞企業があり、過去の受賞企業の取り組み内容をまとめた本もあります。どのエピソードにも、働く喜びがあふれています。
 就活に煮詰まったらちょっとひと休み。こういった本を読んで、働く喜びについて改めて考えてみてはいかがでしょうか。ランキングだけではわからない「優良企業」が見つかるかもしれませんよ。