あきのエンジェルルーム 略歴

2015年02月12日

やったらできた! 男性育休取得率100%を達成した大企業って?  ♡Vol.23

 いつも心にエンジェルを。

 前回、子育て中の女性に対する夫、男性の「共感力」不足について少し触れましたが、そもそも、男性はなぜ子育て中の妻や、子育てと仕事を両立している女性社員に、配慮に欠ける振る舞いをしてしまうのでしょうか。「家事や子育ては妻(女性)の仕事」という固定観念もあるでしょうが、もう一つ、自宅にいる時間が短く、妻の苦労を「目撃」「体験」することが少ない、という理由が考えられます。
 そういった分析からスタートしたわけでもないでしょうが、女性の働き方への理解を深めるために、男性の育児休業取得を、全社を挙げて推進している会社があります。今回紹介するのは日本生命保険相互会社です。

 日本企業全体では、男性社員の育休取得率はわずか2%程度ですが、同社では、育休の対象となった男性社員全員が育休を取っています。なんと取得率100%です。
 「対象となる男性社員が少ないだけでしょ?」。そんなオチではありません。7万人いる社員の約9割が女性ですが、男性も7000人以上います。
 2013年度の場合、育休の取れる期限(子どもが1歳半になる年度末)を迎えた男性社員279人全員が平均1週間程度ではありますが、育休を取得しました。2014年度に期限が来る社員も含めると、約500人が取得しています。10年くらい前までは、「仕事と家庭の両立は難しい」と、女性社員が結婚や出産を機に退職することが多かったという、そんな会社がなぜ変身できたのでしょうか。
 女性社員の働き続けやすい環境づくりを同社が強く意識しはじめたのは2008年。まず人事部に「輝き推進室」を設置し、仕事と家庭の両立に成功している女性社員や、キャリアアップしている女性社員を「輝きウーマン」と命名、ロールモデルとして社内ネットで紹介したり、女性がキャリアを考えるきっかけになるセミナーを開いたりしてきました。

 輝き推進室室長の浜口知実さん(右写真)は三代目。「でも、女性だけに『頑張れ』というのにどこか違和感がありました。一緒に働く男性が女性の“大変さ”を理解してくれないことには始まらないと思ったんです」と振り返ります。
 
 そこで浮上したのが、男性社員の「イクメン化計画」です。しかし、制度上、男性が育休を取れるということも社内ではほとんど知られておらず、男性の取得者は年に数人程度、2012年度の取得率は1%程度だったといいます。「このままではいけない」と、2012年11月、男性社員に子育ての積極的な参加を促す通称「イクメンハンドブック」(下写真)を作成しました。
 セミナーなども開催しましたが、「座学」だけでは、男性の意識に劇的な変化は期待できないこともわかりました。そして、ついに2012年度末には経営トップが集まる本社経営会議を経て2013年度の全社的な目標として「男性育休100%達成」を掲げることが決定したのです。
 経営層から部長・支社長クラスの管理職向けに「大号令」がかかりました。もちろん、いきなりのトップダウンですから現場は「急に何を言い出したのか」とビックリです。しかし、「目標」を決めたからには「達成」あるのみ、という企業風土が功を奏し、個人的な意識、感情は脇に置いて(?)、「とにかく全員必ず取るんだ!」となっていったそうです。

 人事部が年度初めに、各部署に「対象者リスト」を提供し、所属長に「いつ取らせるのか」を確認、「育休取得計画予定」を提出させます。その計画がちゃんと実行されているかもチェックします。

 一番休みにくいと思われている支社の営業部長クラスや、本社の課長補佐クラスの男性社員が育休を取得した場合、サポートの工夫を共有してもらうため、社内ネットで「イクメンの星★」(下写真)として紹介しました。予定通り休めていないときは所属長あてに人事部から「いつ取るの!?」とプレッシャーがかかるそうですよ。
 「30%といった中途半端な目標でなかったのがかえってよかった。3人に1人なら、育休対象の部下3人のうちだれを休ませるか、となってしまい、現場はもっと混乱したでしょう」と浜口さん。

 実際に2013年度に育休を取得した本社企画部門の課長補佐(33)は2児の父。下の子が1歳のときに土日を含めて育休として9連休を取りました。「自分ではそこそこがんばっているつもりだったけれど、休んで専念してみたら全然違う。妻の苦労が具体的にわかって、それ以降も『できる限り早く帰ろう』と思えるようになった」といいます。
 他の男性社員にも「仕事のほうが気が楽、主婦は大変」「子育て中の女性社員にもっとやさしくしなくちゃ」などと、意識の変化がみられたそうです。
 この取り組みが評価されて、同社は厚生労働省主催「イクメン企業アワード2014」の特別奨励賞や、「均等・両立推進企業表彰」の大阪労働局長優良賞、さらに人材領域で優れた取り組みをしている企業を表彰する「日本HRチャレンジ大賞」の人材マネジメント部門優秀賞を受賞しています。(左写真は日本生命丸の内ビル)
 女性の活躍推進を経営戦略の柱と位置づけ、女性管理職の数も2018年には現状の2割増の520人を目指しています。

 浜口さんはいいます。「外からの評価もうれしいけれど、いろいろ変化していくうえで、若手や中堅の女性社員が、『今までは考えたことがなかったけど、管理職になりたいと思えるようになった』と言ってくれるのが一番うれしい」

 女性の働きやすさは「男性育休100%」といった一つの指標だけでは測れませんが、育休を機に「共感力」のある男性が増えるのはいいですね。「2年連続100%達成!」のよい知らせをお待ちしております。