あきのエンジェルルーム 略歴

2014年12月25日

まさにショック療法!? グッバイ“結婚退社” ♡Vol.17

 いつも心にエンジェルを。

 女性社員の仕事はお茶くみやコピーなど、男性社員の補助業務。入社してだいたい5年後には、自分の担当業務の後釜に新入社員が配属され、20代後半になっても結婚退職しないと、「お局(つぼね)さま」扱いされてしまう……。
 20代のうちに結婚を決め、最後の出勤日に職場の人たちから花束をもらって退社するのが「OLの花道」と言われていた時代がありました(写真:stock.foto)。
 十数年前まで、そんな社風だった会社が、「あること」をきっかけに生まれ変わりました。今回紹介するのは、2000年代前半から女性活躍を推進してきた「りそなホールディングス(HD)」です。埼玉りそな銀行、りそな銀行、近畿大阪銀行の3行を傘下にもつ国内第4位の金融グループで、従業員数(正社員)は約1万5000人。その4割が女性です。女性管理職(部下のいるマネジャー)比率は2014年3月末で20%を達成、2020年に30%を目標としています。

 この欄ではおなじみ、経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」に傘下のりそな銀行が選ばれ、ホールディングスとしても、昭和女子大学の「女子学生のためのホワイト企業ランキング」(銀行業編)で“バリキャリ追求”型のオススメ企業第1位になっています。
 「あること」……。それが11年前の「りそなショック」です。りそなHDは2003年、巨額の不良債権を抱えて経営に行き詰まり、2兆円規模の公的資金を注入されました。それ以前の注入分を含めると3兆円以上です。実質国有化され、グループ首脳陣は引責辞任。JR東日本副社長だった細谷英二氏が会長に就任しました。金融に携わった経験がまったくない人物が大手行のトップに就くのは異例のできごと。大きな話題になりました。
 細谷会長は1980年代、医者など特殊な専門職以外の女性を採用したことがないという国鉄の「常識」を打ち破り、女子学生の事務系総合職採用に取り組んだ立役者でもあります(2012年に67歳で死去)。
 りそなHD人材サービス部ダイバーシティ推進室室長の宮城典子さんは当時をこう振り返ります。
 「細谷会長が真っ先に言ったのが『なんでこんなに(責任ある立場に)女性がいないのか。家計を握っているのは女性なのに』と。それに加え、今でこそ、公的資金の完済も見えてきましたが、『こんな巨額の資金を返せるわけない』と、若手の男性社員が将来を悲観して辞め、新入社員の採用もストップしたことで、『今まで結婚や出産で辞めていた女性に働き続けてもらうしかない』となったのです。まさに切羽詰まった状態でした」

 新たな経営トップが強く発信した「女性にもっと活躍してほしい」というメッセージ、そして、通常業務に支障が出かねないくらいの人材不足。その二つが、りそなのダイバーシティを一気に加速させたのです。女性を「輝かせる」などという、イメージ先行のキレイ事ではなく、女性に「辞められては困る」という本音ベースでの制度づくりだったからこそ、現場の理解も得やすかったといいます。ちなみに2002年までの女性比率は30%台、男性社員が去ったこと、女性社員の新規採用を増やしたことなどで、女性比率は10年で1割近くアップしました。(右写真は同社キャラクターの「りそにゃ」)
 細谷会長は女性活躍を後押しすると同時に、15時までで横並びだった窓口の営業時間の「17時まで営業」や「待ち時間ゼロ」など、金融界の常識を打ち破る改革を次々手がけました。

 女性の活躍推進の一番の原動力になったのが細谷会長の肝煎りで2005年に発足した「りそなウーマンズカウンシル(WC)」です。女性社員の声を経営に反映させるため、さまざまな部署から人選された女性社員約20人(2年で交代)が月1回第3土曜に、休日を返上(といっても出勤扱いにはならないボランティア)して集まり、「りそなをどう変えるべきか」を語り合い、経営陣に提言してきました。
 単に女性を役職などに抜擢するのではなく、まずロールモデルを増やすため、女性リーダー育成研修や社内のネットワークづくりを支援する懇親会を実施するなど、全体的な底上げに取り組みました。
 一方、キャリアアップを望む女性だけを重用するのではなく、仕事と家庭の両立に不安を感じる女性社員のために先輩ママ社員との交流ができる「りそなママの会」なども立ち上げました。
(右写真は細谷会長の発案でガラス張りになった役員室、通称「金魚鉢」)
 産休育休関連に絞って福利厚生制度や手続きをまとめたガイドブックを作成、妊娠したと女性社員から報告を受けた場合、上司がそのガイドブックを渡す(byイントラネット)ことになっています。「戻って来て」というメッセージが伝わり、復職へのモチベーションがアップするようです。

 短時間勤務をしている約100人のママ社員たちを知恵袋として活用し、どうしたら預ける保育園が見つかりやすいか、何歳から入れるべきか、など復職前の社員が最も不安を感じている「保育園活動」について情報共有するなど、女性が働き続けるための細やかな工夫をしています。
 短時間勤務は子どもが3歳までの制度ですが、その後、フルタイム勤務に戻っても小学校就学前まで「残業免除」という制度が使えます。夫の転勤などで引っ越しするときには、引っ越し先に支店があれば、そこに異動できる場合もあります。
 宮城さんは「制度そのものは法定にちょっと上乗せ程度なのですが、使っている人の絶対数が多いので、有効に活用されていると感じます。環境が整えばこんなに女性って活躍できるんだと、私自身が驚くほど。入社した30年前に比べると隔世の感がありますね」と話す。

 宮城さんは1985年、雇用機会均等法施行前に事務職で、前身の旧協和銀行に入社し、いわゆるお茶くみ、コピーを経験しました。入社したとき、同じ業務をしていた先輩女性社員が「あなたが来たから、早く相手を見つけて結婚しなきゃ」と言っていたのが、忘れられないそうです。
 その後、一般職を経て、総合職に転換。りそなショック後に抜擢された5人の女性支店長のうちの一人として、まさに女性社員のロールモデルになってきました。
「以前はどんな場所でも“紅一点”。今では支店長も含め、女性の所属長が40人以上います。政治の世界ではいまだに女性閣僚なんて表現も使いますけど、りそなの場合、ようやく、“女性○○(役職)”でなく、“△△さん”という固有名詞になれる時代がきたんだ、と思います」

 男性社員の育休取得率が低いなど、「エンジェル」と太鼓判を押すには「過渡期」の部分もありますが、女性が「固有名詞」になれる会社、ちょっとステキだと思いませんか。