ニュースのポイント
東レが米航空機大手ボーイングの大型機「777X」(イメージ図=ボーイング提供)に使う炭素繊維を独占的に納めることで基本合意しました。東レは炭素繊維の世界シェア3割を占め、トップを独走しています。その陰には、半世紀にわたる苦難の歴史もありました。
今日取り上げるのは、経済面(8面)の「東レ、B777Xに炭素繊維/独占納入に基本合意」です。
記事の内容は――東レはボーイングが2020年の就航を目指している「777X」に使う炭素繊の独占納入に基本合意した。すでに納入している中型機「787」向けも合わせて、販売額は今後10年間で1兆円規模になる。炭素繊維は強度があって軽いという特徴があり、航空機では主翼などに使う。東レは主翼の開発にも参加する。米国に新工場をつくる予定。777X製造には日本企業が多く参加し部品全体の約2割を受け持つ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
炭素繊維をボーイング社に売り込み、主力事業の一つに育て上げたのは、日本の経済界の中心的団体である経団連会長を務める東レ会長の榊原定征さん(70)です。高校生のときに科学雑誌に炭素繊維が紹介されているのを読み、開発に関わりたくて名古屋大学で化学を専攻。1967年に技術者として東レに入社しました。東レの社長に就任したのは2002年。当時、東レの業績はどん底でしたが、炭素繊維のほか、衣料品大手ユニクロとヒット商品「ヒートテック」を共同開発し高機能素材というジャンルを確立。経営を軌道に乗せました。
アクリル繊維を高温で焼いてできる炭素繊維は、鉄より10倍硬く、重さは4分の1で「夢の素材」と言われます。1961年に当時の通商産業省が開発。1971年に東レが世界で初めて量産を始めました。ところが、炭素繊維は製造工程に時間と人手がかかりすぎ、鉄やアルミと比べて数倍、数十倍のコストがかかります。巨額の設備投資のわりに市場が育たず、欧米のメーカーが相次いで撤退する中、ゴルフシャフトや釣り竿をつくってメーカーに持ち込み、売り込みました。1990年ごろからボーイングの旅客機に本格的に採用されるようになり、一気に道が開けました。開発開始から約50年、「炭素繊維で世界は変わる」との確信とこだわりが東レを世界一の炭素繊維メーカーに押し上げたのです。
炭素繊維は、ボーイングの旅客機のほか、三菱航空機の小型ジェット旅客機「MRJ」にも採用。自動車のボディーにも使われ始め、用途が広がっています。製造コストの削減とともに、世の中の鉄製品は次々に炭素繊維に置き換わっていくかもしれません。
東レのホームページには炭素繊維開発の歴史が載っています。会社の歴史、製品開発の経緯を知るのは企業研究の基本。興味のある企業のホームページで、その会社の沿革や製品情報を見るところから企業研究を始めてみてください。炭素繊維の世界シェア2位は、帝人の子会社の東邦テナックス、3位が三菱レイヨンと、トップ3を日本企業が独占。世界シェアは半分を超えます。東レに興味を持った人は、ライバル社についても調べてみましょう。
炭素繊維については、「ボーイング新型機、部品の2割が三菱重工など日本製に」(2014年6月13日の今日の朝刊)、「軽くて丈夫!炭素繊維開発競う化学メーカーに注目」(2014年8月21日)でも書きました。こちらも読んでみてください。
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