ニュースのポイント
イスラム圏の国々の経済成長と人口増加で、イスラム教徒を対象にしたビジネスが世界で注目されています。国内でも観光業、食品メーカー、金融などさまざまな分野で広がる可能性があります。イスラムの戒律に沿った商品やサービスが前提です。
今日取り上げるのは、国際面(10面)の「イスラム圏『ハラール』商戦/戒律に沿った宿泊サービス・金融…/集客狙い次々開発」です。
記事の内容は――アラブ首長国連邦(UAE)の商都ドバイのホテルが「シャリア(イスラム法)に沿ったおもてなし」で人気だ。戒律で禁じられた豚肉や酒類を扱わないのはもちろん、食用油やバター、シャンプーまで、「ハラール」(戒律で許されたとの意)の素材を使う。客室の天井には礼拝を捧げる聖地メッカの方角を示すシール、プールは男女別で、テレビは露出が多い女性が登場する米MTVを映さない。戒律に沿って運用するイスラム金融も人気だ。利子の代わりにリースなどで得た収益を配当するイスラム債「スクーク」は一般投資家に好まれ、需要が急増している。
ハラールブームの背景には、16億人といわれる巨大なイスラム圏市場がある。平均年齢が20代半ばと若く、人口増加のペースも速い。2012年に約165兆円だった世界のイスラム教徒の支出は、18年までに5割近く伸びる見通し。企業がこの成長市場に食い込むには、ハラール化による差別化が不可欠だ。英金融情報会社は戒律に沿った銘柄を選んだ株式指数を開発。欧米や日本の株式市場でもイスラムの視点で銘柄を吟味する動きが強まっている。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
世界のイスラム教徒の数は2030年には22億人に膨らみ、全人口の3割近くを占めるといわれています。イスラム教の戒律では、豚肉や酒の飲食に加え、それらの成分を含む調味料を使う料理も避けないといけません。豚以外の食肉も決まった方法で処理しなければ不浄とされ、1日5回メッカの方角に礼拝する習慣もあります。これらに沿ったものをハラールといい、イスラム系の団体が「ハラール認証」をしています。ハラール関連の市場は、食だけで60兆円規模ともいわれ、これからさらに大きくなるのは間違いありません。記事が取り上げたのは海外の動きですが、イスラム教徒を対象にしたビジネスは日本でも注目されています。
一つは観光。日本政府観光局によると、イスラム教徒が多いマレーシアとインドネシアからの昨年の訪日客は前年より35%増え、過去最多を記録しました。背景には経済発展で中間層の所得が増えたことや、日本政府が昨年7月にマレーシアからの訪日ビザを免除したことなどがあります。このため、ハラールに沿った食事を出すレストランやホテルが全国で急増中。イスラム教徒向けの食品などの普及をめざす「ハラル・ジャパン協会」(東京都)は、2020年の観光客のハラール関連の需要は2011年の4.5倍の1200億円に膨らむとみています。観光庁も、昨春マレーシアで開かれた国際旅行博でイスラム教徒が利用できる東京や大阪の飲食店ガイドを旅行業者に配布するなど、観光客誘致に積極的です。
食品メーカーにとってもイスラム市場は注目です。1969年にインドネシアに進出した味の素は昨年、ハラールに沿う風味調味料「マサコ」の工場を新設しました。鳥や牛の風味を楽しむスープ用などの調味料です。 キユーピーは09年にマレーシアに進出し、ハラールに沿ったマヨネーズ工場をつくりました。13年にはインドネシアにも現地法人を設け、マヨネーズやドレッシングの工場を建設しています。農林水産省は昨夏策定した農林水産物や食品の「国別・品目別輸出戦略」で、重点地域にインドネシアやマレーシア、中東などイスラム圏を挙げました。たとえば牛肉については、イスラム圏などに売り込んで2020年までに輸出額を今の5倍の250億円にする計画です。
記事の表にあるように、日本の金融機関はまだ「スクーク」などのイスラム金融に積極的とは言えませんが、その分、今後の潜在的な可能性は大きいとも言えます。観光業や食品業界では、「イスラム」「ハラール」はキーワードの一つです。志望企業のハラール対応を調べてみましょう。
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