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今回は、「労働分配率」というキーワードを取り上げます。経済専攻の人以外は聞き慣れない単語かもしれませんが、みなさんが会社から受け取る給料に関連する大事な数字です。
労働分配率とは、ざっくり言えば企業が人件費にどれくらいお金をまわしているかを示す比率です。先日の朝日新聞によると、大企業の労働分配率がこの50年で最低水準に落ち込んでいることがわかったそうです(記事はこちらから、下のリンクからも読めます)。コロナ禍を脱し、業績が上向いている企業も増えていますが、そのもうけは給料には反映されていないということです。「なんでやねん!」と言いたくなりますね。一方、中小企業は大企業より一般的に労働分配率が高く、また大企業ほど分配率も下がっていません。大企業よりも中小企業のほうがいいんじゃないか、と言いたくなりますが、これもそう単純な話ではありません。
給料は、みなさんが企業を選ぶ上でとても大事な要素だと思います。初任給などの数値も大事ですが、これからその企業で給料があがっていくかどうかも会社選択の上では重要な判断基準になるでしょう。業界、企業個別の事情はもちろん大きいですが、日本全体の経済の流れも知っておくと判断がよりクリアになるでしょう。今回の記事を機にぜひ「労働分配率」という言葉と、いま日本の企業がどういう状況なのかをぜひ知ってください。(編集部・福井洋平)
(写真・労働組合「連合」の賃上げパレード出発式=2023年2月、東京都港区)
労働分配率とは、ざっくり言えば企業が人件費にどれくらいお金をまわしているかを示す比率です。先日の朝日新聞によると、大企業の労働分配率がこの50年で最低水準に落ち込んでいることがわかったそうです(記事はこちらから、下のリンクからも読めます)。コロナ禍を脱し、業績が上向いている企業も増えていますが、そのもうけは給料には反映されていないということです。「なんでやねん!」と言いたくなりますね。一方、中小企業は大企業より一般的に労働分配率が高く、また大企業ほど分配率も下がっていません。大企業よりも中小企業のほうがいいんじゃないか、と言いたくなりますが、これもそう単純な話ではありません。
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(写真・労働組合「連合」の賃上げパレード出発式=2023年2月、東京都港区)
大企業の労働分配率は過去最低
改めて、労働分配率と記事の要点についてまとめます。・労働分配率……先に書いたように、ざっくり言えば企業がどれくらい人件費にお金を回しているかを示す比率です。細かくいいますと、企業がその活動で生み出した製品やサービスの価値≒「付加価値」のうち人件費がしめる割合のことで、付加価値には人件費のほか経常利益、賃借料、税金や利払い費、減価償却費などが含まれます。労働分配率の値が高いほど、企業で働いている人に対して厚く配分しているということになります。
・大企業の労働分配率は過去50年で最低……朝日新聞が財務省統計をもとに算出したところ、金融・保険業を除く全産業の労働分配率は53.7%で前年度から1.0ポイント下がりました(金融業界は多額の設備投資が必要なため、労働分配率が他の業界に比べて大きく下がる傾向にあります)。資本金10億円以上の大企業をみると、労働分配率は2008年のリーマン・ショック以降はほぼ右肩下がりで、2022年度は前年度から2.0ポイント低い36.6%。大企業の過去の平均(44.4%)を大きく下回り、この50年で最低でした。
・お金はどこに回っているのか……コロナなどで景気も悪いからしょうがない、ということではありません。2022年度、大企業の経常利益は前年度から15.8%あがって57.3兆円にのぼり、過去最高となっているのです。にもかかわらず、人件費は0.7%増の53.8兆円にとどまっています。これは、企業の株を持っている株主への「配当」や社内に利益をためておく「内部留保」にお金が回っているためです。事実、2022年度の大企業の内部留保は280兆円とこちらも過去最高を記録しています。
大企業は賃上げの余力あり
企業はもうかるときもあれば、赤字になってしまうときもあり、コロナ禍のように業界全体が大きな逆風にあうことだってあります。そういった事態に備えるために内部留保を確保しておくことは企業経営のうえでとても重要なことですし、内部留保 がしっかりある企業は簡単に倒産しないという意味で優良企業といえます。また、280兆円の内部留保のなかには、すでに設備投資などに使われた金額も含まれており、すべてを人件費に回せるわけでもありません(「内部留保」=「預貯金」と勘違いされやすいですが、内部留保は過去に蓄えた利益の総額を表しているので、貯金のように使った分が減るような数字ではありません)。しかし、人件費が頭打ちになっているなか、内部留保だけが過去最高の勢いで積み上がっていることは、はたしてバランスが取れているといえるでしょうか。いま物価が上がっている中、物価高を考慮した「実質賃金」は下がり続けています。朝日新聞の記事では伊藤忠総研・武田淳氏の「バブル崩壊後、大企業はリストラで利益を確保するようになり、人にお金を回してこなかった」というコメントを紹介しています。今年の「春闘」では平均の賃上げ率が30年ぶりの高水準となりましたが、武田氏は大企業はまだ来年度以降も高水準の賃上げができるはずとみています。もちろん企業、業界個別の事情はありますが、全体的な流れについてはぜひ知っておいてください。
●春闘についてくわしくはこちら
「春闘」「ベア」ってなんだ? 賃金の決まり方を知ろう【今週のイチ押しニュース】
中小企業は賃上げが進まず
一方の中小企業はどうでしょうか。朝日新聞の記事によれば、資本金1億円未満の企業の労働分配率は66.3%で、前年度より0.3ポイント下がっています。過去20年の平均(68.8%)との差も大企業ほどはありません。日本では中小企業はもともと、大企業に比べて分母となる利益の水準が低いです。また、人手がかかる事業を営んでいることも多く、労働分配率が大企業よりも高くなるのです。このため労働分配率は簡単に上がったり下がったりしない傾向にあります。物価高で賃上げへの期待が高まっていますが、中小企業は大企業ほど簡単に賃上げをできない、という構造になっているのです。
伸びしろある中小企業を見つけよう
大企業が余力をつぎこんで大きな賃上げを実現すると、中小企業との格差が広がることが予想されます。人手不足に悩む企業が多い中、この流れは中小企業にとって歓迎すべきことではないでしょう。大企業に対抗するためにはなんとか効率化をはかったりして、少ない人手でも高い付加価値を生み出していくことが必要なのです。
記事で武田淳氏は、「中小企業の魅力をもっと発信し、人に頼らず生産性を上げる」ことも大切と指摘しています。日本の企業の9割以上は中小企業。高い技術力やサービスをもち、元気な中小企業もたくさんあります。人が少なく宣伝に力を入れられないため、広く世に知られていないだけなのです。そういった企業は「伸びしろ」も期待できます。
公益社団法人中小企業研究センターが全国の中小企業から優れた成果をあげている企業を表彰する「グッドカンパニー大賞」や、中小企業省が選定する「はばたく中小企業・小規模事業者300社」など、輝く中小企業を選定するさまざまなサイトがありますので、企業研究の参考にするのもよいでしょう。経済全体の流れと志望する企業の状況をよく把握したうえで、自分にとって最適な選択肢をみつけてください。
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