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(写真・名人戦に向けてポースをとる藤井聡太さん)
1000年以上親しまれるゲーム
将棋は、2人が将棋盤に向き合って交互に自分の駒を動かし、相手の玉将(王将)を動けなくすれば勝ち、というゲームです。駒は8種類あり、それぞれ動ける方向が異なります。相手の駒をとって自分の駒として使うこともできるため、駒の動かし方は無数にあり、2人の知力や気力がぶつかり合います。日本将棋連盟のウェブサイトによると、将棋の起源は、古代インドのゲームという説が最有力で、平安時代には日本に入っていました。1000年以上も親しまれているのは、将棋はそれだけ面白く、多くの人を引きつける奥深さがあるからでしょう。「レジャー白書」によると、2021年の国内の将棋人口は500万人。実際に指すだけではなく、スマホのアプリで対局したり、対局番組を見たり、様々な形で楽しむ方が増えています。(写真・対局途中の将棋盤と駒)
厳しいプロの世界
藤井聡太さんのようなプロ棋士には、どうやってなるのでしょうか。棋士を目指す人はまず、試験を受けて「奨励会」という会に入ります。幼いころに将棋を覚えた藤井さんは、小学4年の時に入会しています。その後は会員同士で対局し、勝てば昇級、昇段します。そして「三段リーグ」で上位2人に入れば、晴れてプロ入りできます。ただ、このリーグ戦は1年に2回なので、1年間で4人の枠だけです。今は、別ルートとして編入試験もありますが、いずれにせよ狭き門です。さらに、「26歳までにプロにならないと原則退会」という厳しいルールもあります。「聖の青春」という映画では、将棋にすべてをかけながら、年齢制限で夢がかなわず、涙する若者の姿が印象的に描かれています。なお藤井さんは、奨励会の時から非凡な能力を見せ、14歳2カ月でプロ入りし、最年少記録を塗り替えています。年齢制限は一見厳しいですが、見方を変えれば優しいルールといえるかもしれません。26歳であればまだまだ若いので、将棋に打ち込んだ経験をもとに、他の職業で活躍できる可能性が高いからです。
(写真・大勢が競う三段リーグの対局風景=2013年、東京都渋谷区の将棋会館)
格の高い8大タイトル
プロ棋士にとって最大の目標は、大会で優勝してタイトルをとることです。中でも竜王、名人、王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖は「8大タイトル」と呼ばれています。それぞれ仕組みは違いますが、勝者は1人だけです。藤井さんはプロ入り後も勝利を続け、2020年、棋聖になります。この時17歳11カ月で、タイトル獲得最年少記録となりました。さらに快進撃は続き、現在は竜王・王位・叡王・王将・棋聖の「五冠」に輝いています。プロ入りの難関をくぐってきた強者がひしめくなか、20歳の若さで8大タイトルのうち五つを独占することがどれだけすごいことか、なかなかいい表現が思い浮かびません。タイトルのなかで、名人戦は独特の仕組みで、「順位戦」と呼ぶ5段階に分かれたリーグ戦を順に勝ち上がって、初めて名人への挑戦権を得られます。それだけ時間がかかるわけですが、藤井さんは着実に勝ちを重ね、最上位のリーグ戦でトップになり、いまの渡辺明名人への挑戦権を得ました。名人戦は七番勝負(先に4勝すれば勝ち)で、4月5日に始まります。若い名人が誕生するか、あるいは渡辺名人が防衛するか、多くの人が注目する戦いになるのは間違いありません。
(写真・2020年、初タイトルの棋聖を獲得し笑顔を見える藤井さん)
将棋界でもAIが普及
将棋は伝統文化でもありますが、最新鋭の人工知能(AI)が活躍する世界でもあります。藤井さんの強さも、早くからAIをフルに活用して研究した成果と言われています。コンピューターが将棋を指す試みは古くから行われてきました。最初は人間に勝てませんでしたが、2013年には「電王戦」という戦いで将棋ソフトがプロ棋士に勝利。AIが発展する過程では、これまで長年、人間が気づいていなかった新しい手が数多くあることがわかり、話題になりました。そして2017年には、PONANZA(ポナンザ)というソフトが、当時の佐藤天彦名人を下しました。AIが、プロ棋士の最高峰に勝ったことで、人間対コンピューターの対決は決着がつきました。ただ、だからといって人間同士の将棋が人気を失ったわけではありません。むしろ、人間が、進歩し続けるAIをどう生かして戦うのか、という点が注目を集めてきています。そして、将棋盤を舞台として磨かれたAIの技術は、その後、株価の予測や自動運転車の開発など、別の分野で応用され始めています。
(写真・2017年、人工知能が操作するロボットアームと向き合う当時の佐藤天彦名人=兵庫県姫路市の姫路城)
就活や社会人生活で役立つ趣味
さて、一見就活に関係なさそうな将棋の話をしてきたのには、理由があります。一つは、藤井さんの活躍がこれだけ社会的な現象になれば、一般常識として知っておいた方がよいということ。もう一つは、もし皆さんが少しでも将棋のような趣味に興味を持てば、就活や社会人生活で役立つ場面があるかもしれない、と思うからです。
就活に成功した方の話をうかがっていると、「面接で趣味の話になり、盛り上がって場が和んだ」と聞くことがあります。面接では、学生を迎える社員も「うまく話せるかなあ」と緊張しています。そんなときに、たまたま出会った学生が自分と同じ趣味を持っていたら、少しうれしくなるものです。登山、料理、写真撮影、楽器の演奏、武道など、何でもよいのですが、趣味があると話のきっかけになります。中でも将棋は好きな人が多いので、だいたいどんな職場にも1人や2人、愛好家がいます。もちろん、趣味の話で盛り上がったら面接を通るわけではありませんが、少なくともマイナスにはならないでしょう。
また、働き始めてからも、趣味が縁で仕事につながることが多くあります。「釣りバカ日誌」という漫画では、平社員の主人公が、趣味の釣りを通じて、自分の会社の社長と対等に楽しくつきあっています。同じ趣味でつながれば、人の社会的な立場などは関係なくなります。何も釣れなかった社長より、大物を釣った平社員の方が偉いのです。
新聞記者は若手のころ、警察官を取材することが多いのですが、正面から事件の話を聞いても、なかなか微妙な話は教えてくれません。しかし先輩の中には、剣道や囲碁などを一緒にすることで、警察官と信頼関係を築いていた人がいました。長い時間を一緒に過ごすので、直接ネタを教えてくれないとしても、雰囲気や話し方で分かることもあり、仕事の成果につながっていました。
「仕事のために趣味を使う」というと少しいやらしいですが、そうではなく、みなさんが自然に好きになったものが、結果として人脈につながるのであれば、素晴らしいことだと思います。「いまは特に趣味はない」という方は、これから、一生つきあえる何かを探してみるとよいかもしれません。
2024/12/12 更新
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