2017年07月20日

芥川賞、直木賞ってどう違う?文学賞の「基本のき」

テーマ:文化

ニュースのポイント

 日本を代表する文学賞である第157回芥川賞と直木賞の受賞作品が決まりました。2015年に芥川賞を受賞したお笑い芸人の又吉直樹さんの「火花」が大ベストセラーになるなど、たびたび話題になる両賞ですが、それぞれどんな賞か知っていますか? 最近よく聞く「本屋大賞」との違いは? こうした文学賞はマスコミを目指す人には必須の知識です。それ以外の人もどこかで話題に出るかもしれませんよ。「基本のき」を押さえておきましょう。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、総合面(2面)の「いちからわかる! 芥川賞と直木賞 選考対象が違うの?/芸術性が高い純文学か、エンターテインメント作品か」、社会面(38面)の「芥川賞 沼田真佑(しんすけ)さん『影裏』/直木賞 佐藤正午さん」、2面の「ひと」です(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)。
(写真は、芥川賞の受賞が決まった沼田真佑さん)

そもそも

 出版社・文芸春秋の創業者菊池寛が、友人の作家、芥川龍之介直木三十五(さんじゅうご)の名をとって1935(昭和10)年に両賞を制定しました。今は公益財団法人・日本文学振興会が主催ですが、実質的には文芸春秋が運営しています。1月と7月の年2回、受賞作が決まります。正賞は懐中時計、副賞は100万円。賞金1000万円という文学賞もありますが、この両賞は歴史と重みが違います。

 いずれの賞も、文芸春秋の編集者たちが5~7作に絞った中から、芥川賞は10人、直木賞は9人のベテラン作家が、東京・築地の料亭「新喜楽(しんきらく)」で何時間も議論して決めます。
(写真は、直木賞の受賞が決まった佐藤正午さん)

どう違うの?

 芥川賞は、「純文学」と呼ばれる芸術性の高い作品が対象で、「新潮」「すばる」「文学界」「群像」「文芸」といった文芸雑誌などに載った新進作家の短編・中編約100作から選びます。古くは元東京都知事の石原慎太郎さんは1955年に「太陽の季節」で受賞。2016年は村田沙耶香(さやか)さんの「コンビニ人間」が受賞して話題になりました。

 直木賞は、ミステリーや時代小説などのエンターテインメント作品が対象で、新進・中堅作家の単行本250~300作から選びます。就活生の葛藤を描き、映画化もされた朝井リョウさんの「何者」は2012年に受賞しています。

 芥川賞は、今回、沼田さんがデビュー作で受賞したように、若手が初候補作で受賞することが珍しくありません。直木賞は、すでに実力が認められた作家が受賞する傾向があります。

本屋大賞は?

 一方で、最近話題になることが多い「本屋大賞」は、読者の感覚に近い書店員が「売りたい本」を投票で決めるのが特徴です。14回目は、全国464書店の564人が1次投票で10作に絞り、2次投票で今年4月、恩田陸(おんだ・りく)さんの「蜜蜂と遠雷」に決まりました。この作品は1月に直木賞も受賞していて、初めてのダブル受賞となりました。

 本屋大賞は2004年に「売りたい本が直木賞で選ばれない」という書店員の不満から生まれました。それだけに「本屋大賞が直木賞の対抗馬として生まれたことを知らない書店員が増えた」「本屋大賞が成長した証し」「作品がそれほど素晴らしかった」「直木賞が売れる本を選ぶようになった」などさまざまな意見が出ています。

出版不況の中ますます重要に?

 芥川賞は純文学の新人作家の登竜門、直木賞は大衆文学の人気作家をさらに売れる流行作家にする役割がありますが、それだけではありません。日本に文学賞は数百ありますが、他に有名な三島由紀夫賞、山本周五郎賞は新潮社系、野間文芸新人賞、吉川英治文学新人賞は講談社系で、いずれも出版社が主導しています。芥川賞・直木賞をつくった菊池寛はかつて「半分は(受賞作を発表する)雑誌の宣伝にやっている」と書いています。賞には「本を売るためのPR」という目的もあるわけです。「出版不況」が続き、本が年々売れなくなる中、文学賞での話題づくりは、出版社、出版業界にとってますます重要になっているとも言えそうです。

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