ニュースのポイント
日本銀行は金融政策決定会合で、目標の「物価上昇率2%」の達成時期の見通しを「2019年度ごろ」に1年延ばすことに決めました。達成時期の先送りは、
異次元金融緩和開始から6度目になります。2013年に黒田東彦(はるひこ)総裁(写真)が就任した日銀は
デフレ脱却を目指して、「2年で物価上昇率2%達成」を目標に掲げました。しかし、未だに2%には遠く及ばず、2018年度中の目標達成は不可能な情勢になっています。このため1年先送りしたわけですが、それで達成されるかどうかもわかりません。黒田総裁の任期は2018年3月までですので、任期中の達成が不可能になったことにもなります。
アベノミクスの中心政策がこの金融緩和だったわけで、大きなリスクを膨らませながら突き進んだアベノミクスが成功していないという現実を私たちはもっと深刻に考えるべき時期にきているようです。(朝日新聞教育コーディネーター・一色 清)
今日取り上げるのは、総合面(1面)の「物価2% 6回目見送り/19年度ごろ/日銀の信認低下」、総合面(3面)の「上がらぬ物価 変わる弁明/日銀『2%』先送り/『企業・家計なお慎重』/米欧、緩和『出口』探る」、経済面(9面)の「『2%へ勢いは維持』黒田総裁会見」(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
理論通りにいかない日本
日銀は、ものすごい勢いで
国債などを市場から買って、お金を市中にはき出しています。市中のお金の量が増えると、モノに対するお金の価値が落ちますので、物価が上がるはずです。こうした理論通りにいっていないのが、今の日本の状況です。消費者物価の上昇率を見ますと、異次元緩和をはじめて1年後には1.5%まで上がりましたが、消費税引き上げを境に下がり、横ばいかマイナスが続いています。直近の5月の消費者物価上昇率は0.4%で少し上がり気味ですが、上昇気流に乗ったとはとてもいえない弱さです。
(図表は、消費者物価指数の推移と、物価の伸び悩みに対する黒田総裁の発言です)
将来不安が物価上昇を妨げる
物価が上がらない最大の理由は、人々の将来への不安です。日本の人口はすでに減り始めていて、2053年には1億人を割ると推定されています。しかも人口の構成としては、少子高齢化が続くため、若者が少なく高齢者が多くなります。経済面からみると、ほとんどの分野で国内市場は縮小していくことになります。福祉の分野でも、年金、健康保険、介護保険などは、
国民負担を多くする方向にならざるを得ません。つまり、経済的に明るい未来を描きにくくなっているのです。そのため、現役世代は将来のためにお金を使わずにためておくという選択になります。企業も同じです。将来の市場が縮小することを考えれば、積極的な
設備投資をするより、
内部留保を厚くして企業規模が小さくなっても耐えられる体力を今のうちにつけておこうという判断に傾きがちです。いくら市中のお金を増やしても、お金が使われないのは、将来不安があるからだと考えていいでしょう。
(図表は、日本の人口と出生率の推移です=2017年4月11日朝日新聞朝刊に掲載)
買いたいものがない
他にも理由はありそうです。買いたいものがないというのはどうでしょう。かつての高度成長の時代は、電気製品や自動車などがよく売れました。貧しくてモノを持っていなかった日本人が急速に生活レベルを上げる喜びを味わうことができたのです。でも今は、モノがあり余っている社会です。「断捨離」の喜びを味わう時代です。さらに、家も車もシェアする時代です。シェアリングエコノミーはモノを効率よく使うことになるわけですから、モノは売れなくなります。
国債暴落や金利急騰の心配
物価上昇率がゼロ%近辺でうろうろしているのは、私たちの生活にとって悪いことではありません。問題は、異次元金融緩和で経済のゆがみがとても大きくなっていて、どこかで私たちにそのしっぺ返しが来るのではないかという心配です。国が発行する国債のほとんどを日銀が買うことによって、日銀は金利が上がると大きな損を抱えることになります。一方で、アメリカや欧州は金融緩和から金融引き締めに転換し始めているので、金利が上がっています。このままなら、日本との金利差が大きくなり、急激な円安が起こる可能性があります。それを防ごうと日銀も引き締めるために持っている国債を売り始めると、国債の暴落と金利の急騰の心配があります。こうみると、日銀は動くに動けない状況になっています。日銀の異次元対応が常態化し、本来の日銀の姿が異次元になってきたといってもいいかもしれません。つまり日銀は今の異次元対応を続けないと大きな波乱の心配があり、続けて米欧との金利差が大きくなりすぎても大きな波乱の心配があるというジレンマに陥っています。
将来を考える会社がいい会社
みなさんは就活戦線が売り手市場になっているため、景気の良さを感じているかもしれません。しかし、内実はそんなに明るいわけではありません。安倍政権はアベノミクスという大きな賭けのような経済政策をとり、消費税引き上げも先送りし続けています。それで目先はまずまずの景気になっています。しかし、将来のリスクは膨らんでいるのです。本当は、将来をよくする政策が一番大事で、人々が将来はよくなると思えれば今がよくなるのです。会社も同じで、今だけでなく将来を見通してしっかり考えている会社がいい会社だと思います。
※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから。