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日本アニメの市場は約3兆円に達し、その半数は海外市場が占めています(2022年)。アニメをはじめとする日本発IP(知的財産)が世界に飛躍するきっかけを作ったひとつが鳥山明作品であることに間違いはありません。学生のみなさんにとってはあまりなじみのない作家かもしれませんが、鳥山明さんの功績とドラゴンボール制作時の秘話を振り返りながら、強いIPを作るとはどういうことかについて考えてみましょう。(編集部・福井洋平)
(写真・鳥山明さんにゆかりのある学校に飾られた「ドラゴンボール」の絵とサイン=愛知県(画像の一部を加工)/写真はすべて朝日新聞社)
漫画、ゲーム界に大きな功績
「ドラゴンボール」の連載は1984年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)ではじまり、1995年に終了しました。すでに連載終了から約30年がたっていますが、今年秋からは新たなアニメシリーズ「ドラゴンボールDAIMA」が始まる予定で、人気は衰えていません。7つそろうとどんな願いも叶うという「ドラゴンボール」をめぐり、怪力で超元気な主人公「孫悟空」が仲間たちと出会い、やがて家族をつくり、宇宙や時空をまたにかけた大冒険を繰り広げていくストーリーです。悟空をはじめとする個性的なキャラクターたち、敵キャラが強大化していき先が読めないストーリー展開にくわえ、同業者も脱帽する圧倒的な画力で日本だけでなく世界でも人気を博しました。やはり世界で人気のモンスターコミックを生み出した「ONE PIECE」作者の尾田栄一郎さん 、「NARUTO」作者の岸本斉史さんが「ドラゴンボールチルドレン」を名乗り、ほかにも「銀魂」の空知英秋さん、「SPY×FAMILY」の遠藤達哉さんなどたくさんの漫画家が鳥山さんからの影響を語り追悼しています。漫画だけではなく名作RPG「ドラゴンクエスト」シリーズのキャラクターデザインを手がけるなどゲーム界にも大きな功績を残し、影響力の大きさでは「漫画の神様」手塚治虫やスタジオジブリの宮崎駿にも匹敵するでしょう。
(写真・2025年の愛知県清須市市制20周年に向けて鳥山明さんが作画したロゴを持つ永田純夫市長 =2024年3月8日)
近作の映画では脚本も担当
約30年前に漫画連載が終了したにもかかわらず人気が継続した理由は、ドラゴンボールのIPが漫画だけでなくアニメ、ゲーム、おもちゃなど幅広く展開されたことも一因でしょう。1996年からはオリジナルストーリーのアニメ「ドラゴンボールGT」がスタート。ドラゴンボールのキャラクターを使った格闘ゲームも毎年のように登場、IPの人気を継続させ、世界に発展する素地もつくりました。2022年公開の映画「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」は、8月に全米でも公開され初登場1位を記録、全世界興行収入も138億円を突破しています。フィギュアやカードゲームといった映像以外の形でも広く愛されました。鳥山さんは2013年、17年ぶりのドラゴンボール映画「ドラゴンボールZ 神と神」で初めてアニメの脚本にかかわり、以降映画3作の脚本を担当しました。「神と神」公開時の朝日新聞のインタビューで、鳥山さんは2009年のハリウッド版「ドラゴンボール」で意見が受け入れられず納得のいく出来にならなかったことに触れ、「原作者にしか描けない世界観とストーリーで意地を見せたい部分もあった」と語っています。原作終了後も作者がこだわりと愛情を注ぎ続けてきたからこそ、ドラゴンボールは長く世界で愛されるIPでありつづけたのでしょう。
(写真・JR秋葉原駅近くの店頭に並ぶドラゴンボールのフィギュア=2024年3月8日)
ドラゴンボールは「好みじゃない」
そんな「ドラゴンボール」ですが、鳥山さんにとっては出世作の「Dr.スランプ」とともに「自分の好みじゃない」作品だったそうです。2作の大ヒットは、鳥山さんを担当していた編集者・鳥嶋和彦さんの存在が欠かせませんでした。「Dr.スランプ」の主役はロボット少女のアラレちゃんですが、鳥山さんの構想ではアラレちゃんを作った発明家の則巻千兵衛が主役でした。しかし鳥嶋さんがアラレちゃんを主人公にしてくれと主張し、押し切った そうです。次回作の「ドラゴンボール」も鳥嶋さんがカンフー漫画を提案し、鳥山さんは「格闘ものは苦手」「悪いやつが描けない」と抵抗。初期はギャグ、ファンタジー色が強い作品でしたが、人気が出ずテコ入れのためスピーディーなアクション漫画に移行し、絵柄もそれにあわせて換え、大ヒットにつなげました。本人は「戦闘シーンより、くだらない笑いを描いている方が、ずっと好き」「好みなのは地味目で軽い内容」だったそうです。
鳥山さんのセンスと画力なくしては、ドラゴンボールがここまで成長することはありませんでした。しかし一方で、鳥山さんの才能をみつけ売れるための方策を考えて伴走した編集者がいたからこそ、ドラゴンボールはここまで強いIPに成長したともいえます。
(写真・鳥取砂丘で平井伸治・鳥取県知事(右)とポーズをとる、鳥山明さん原作の映画作品「SAND LAND 」(2023年公開)主人公のベルゼブブ=2023年8月5日、鳥取市)
クリエイターと意見違うときは「逆にチャンス」
編集者は、漫画家や作家たちクリエイターが生み出す作品を世の中に伝える仕事を担っています。自分の表現したいことがあるクリエイターと、世の中にどうすれば伝わるかを考えている編集者とは、ときには作品のあり方をめぐって対立することもあります。クリエイターの表現したいことが編集者にとって面白いと思えないこともあるのです。ある大手出版社の採用担当者は、こんなことを語ってくれました。
「もし興味が持てないテーマだったとしても、自分なりに面白いと思えるポイントを探して最大化することができれば、新たなファンを増やすことができるかもしれません。逆にチャンス――と考えられる人がいいですね」
IPビジネスのあり方に興味もって
鳥山さんがドラゴンボールを生み出したころから時代もかわり、インターネットによってメディアのあり方も多様化。クリエイターが作品を直接ユーザーに届けられるようになったことで、編集者とクリエイターとの関係性も変化しています。しかし、世間に広く知られるような作品はクリエイターの力だけでは作ることが難しいことも多く、クリエイターと伴走する編集者の役割はいまも消えていないと思います。
出版社に限らずどんな企業でも、ユーザーに愛されるコンテンツ、IPを作り出すことは大きなビジネスチャンスにつながります。鳥山さんのような圧倒的な画力とセンスをもったクリエイターに出会うことは簡単ではないでしょうが、情熱をもったクリエイターと組んで世間を巻き込むようなIPを育てる、編集者のような立場になる可能性はこれから十分にあります。様々なIPビジネスのあり方について興味関心を深めてみてください。
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