
日本の企業による月着陸船が今年の年末に打ち上げられることになりました。月探査計画「HAKUTO-R」を進める宇宙ベンチャーispace(アイスペース)が発表しました。就活生のみなさんに注目してほしいのは、プロジェクトに参加している企業です。
三井住友海上火災保険、
日本特殊陶業、
シチズン時計、
高砂熱学工業、
三井住友フィナンシャルグループ(FG)など、多様な業界の日本を代表する企業が名を連ねています。一見、宇宙開発には関係なさそうな会社もありますが、いったいどんな役割を担っているのでしょう。月探査計画から企業研究を深めましょう。(編集長・木之本敬介)
(写真は、HAKUTO-Rの月着陸船のイメージ=ispace提供)
「月を生活圏に。」の第一歩

「西暦2020年。HAKUTO-R、月へ。」
1月26日の朝日新聞朝刊に、紙面をいっぱいに使ったカラフルな全面広告が掲載されました。「人々を熱狂させてきたSFアニメの世界が現実になる。地球から月、月を拠点にその先の火星へ」など壮大な言葉が並ぶHAKUTO-RのPRです。
HAKUTO-Rは、「月を生活圏に。」を掲げるispaceによる民間月面探査プログラムです。米国の宇宙企業スペースXのファルコン9ロケットで、2022年の年末に着陸船を打ち上げ、数カ月後に月面に着陸。さらに2024年には月面探査車を打ち上げ、実証を行う予定です。ispaceは、数年前に米国の財団の月面探査レースに参戦した「
HAKUTO」の運営会社。このときは実らなかった挑戦を「再起動(Reboot)」する意味を込めて「HAKUTO-R」と名付けました。ispaceは月着陸を成功させた後、水資源の探査や月と地球を結ぶ物資輸送サービスを確立して、月面生活圏の構築をめざします。
(写真は、HAKUTO-Rの管制室=2020年12月、東京都中央区)
銀行や損保会社の役割は?
HAKUTO-Rには、コーポレートパートナーとして日本航空(JAL)、三井住友海上火災保険、日本特殊陶業、シチズン時計、スズキ、住友商事、高砂熱学工業、三井住友銀行、SMBC日興証券が参加。メディアパートナーには、TBSホールディングス、朝日新聞社、小学館が名を連ねています。
今回の広告に登場したのは5社。見出しを見ると、各社の役回りが分かります。
◆シチズン時計「軽くて、強い、独自素材スーパーチタニウム 月着陸船の着陸脚に採用」
◆高砂熱学工業「月での水素エネルギー生成に向けた、世界初の実証実験」
◆日本特殊陶業「世界初! 月でも使える固体電池」
◆三井住友FG「月資源産業の育成と月着陸船のペイロード事業(月への物資の輸送事業)の推進」
◆三井住友海上火災保険「月保険。新しい挑戦には、新しい保険が必要だ」
メーカー各社はそれぞれの得意分野をいかして、宇宙や月面の過酷な環境でも耐えられる素材や装置を提供します。三井住友FGは資金面で事業を支え、三井住友海上は新たな「月保険」でリスクを管理し今後さまざまな企業が宇宙ビジネスに参入できる環境をつくる、としています。
月探査で各国競う

月面の探査は、1950~70年代の米国とソ連による競争が一段落し下火になっていましたが、近年再び中国、インドを含め各国が競い始めました。1990年代からの米航空宇宙局(
NASA)の探査で、月の南極や北極に多くの水があることが分かり、月の埋蔵資源が有望視されるようになってきたためです。日本の
JAXA(宇宙航空研究開発機構)も2000年代に探査機「
かぐや」で月を周回させ、詳しい月の地図をつくりました。月で水を確保できれば、飲み水になり野菜も栽培できます。水を電気で水素と酸素に分解すればロケットの燃料としても使えます。将来、火星や小惑星といった遠い星を探査する際、燃料を月で補給できれば効率的です。
宇宙ビジネスに関わる日本企業は

米国は
アポロ計画以来となる有人月探査「
アルテミス計画」を掲げており、NASAが開発する新型ロケットSLSが2022年春にも初飛行する見通し。JAXAや東京大学が開発した超小型探査機「OMOTENASHI(おもてなし)」と「EQUULEUS(エクレウス)」も搭載し、おもてなしは月面への着陸にも挑みます。JAXAが本格的な月探査をめざす「
SLIM」も2022年度に打ち上げ予定で、約5カ月かけて月へ到達し着陸。その2年後には月の極域に探査車を降ろし、水や氷がありそうな場所を掘って埋蔵量や水がどこから来たのかなどを調べる予定です。2026年度には水を含む石などを月から持ち帰ることを構想しています。JAXAは月探査で得た技術や経験を火星探査につなげるシナリオを描いています。
宇宙ビジネスをめぐっては、
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「2021年宇宙の旅」が実現 宇宙ビジネスの今とこれから【時事まとめ】
も読んでみてください。関わっている日本企業がたくさん登場しますよ。
(写真は、月面で探査する宇宙飛行士のイメージ=NASA提供)
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