ニュースのポイント
先日の「今日の朝刊」で、
「東ロボくん、東大断念!AIにできない仕事見えた!?」と紹介したように、東京大学合格を目指す人工知能(AI)「東ロボくん」の挑戦が終わりました。
プロジェクトリーダーの新井紀子・国立情報学研究所教授=写真=が朝日新聞に寄稿し、「東大に合格する日は永遠に来ないだろう」と敗北宣言をしました。
一方で、人工知能の強さと弱さは分かってきました。人工知能は難しい問題を解く力はあります。ただ、その意味は分かっていません。つまり、人間が人工知能に勝てるところは「意味を理解できること」だというのです。みなさんがこれからの人工知能社会で必要とされる人間になるためには、意味を理解して人に説明できる能力を磨くことだと思います。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色 清)
今日取り上げるのは、29面の「AIの弱点は『意味の理解』 仕事奪われぬため 人間こその力磨け」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
人工知能の発達が話題の年
2016年の大きな話題のひとつが、人工知能の発達です。春には、囲碁で世界最強ともいわれる韓国のプロ棋士とグーグルが開発した人工知能「アルファ碁」が対戦しました=写真。
結果はアルファ碁が4勝1敗で完勝。秋には、日本の研究者たちが開発した人工知能「ZEN」が、日本囲碁界のレジェンド趙治勲名誉名人と対戦しました。こちらは2勝1敗で趙名人が勝ちましたが、人工知能がプロの最高峰と互角の戦いをするまでになっていることを示しました。
偶然に頼らない知的ゲームのうち、将棋、チェスなどはすでに人工知能の軍門に下っていました。囲碁は無限に近い変化のあるゲームで、経験による大局観が大事と言われます。そのため、「まだ人間のほうが強いだろう」という予想があったため、こうした結果は世界を驚かせました。
今ある職業の半分はなくなる?
自動車の自動運転も今年、実現に向かって進みました。公道での無人運転の実験があちこちで行われました。最も進んでいるアメリカでは10月、無人運転のトラックが高速道路を190キロ走り、積み荷のビールを目的地に届けました。
2020年代初めには、無人運転の車が走り始めるという予想もあります。そうなると、運転手という職業は徐々になくなります。運転免許もいらなくなりますから、自動車教習所もいらなくなります。自動車保険もなくなるのではないでしょうか。
こうして今ある仕事がなくなっていきます。シンクタンクなどは、今ある職業の半分くらいは人工知能が肩代わりするとみています。
意味の分かる人になるために
なかなか厳しい時代になりますね。人間同士の競争に加え、人工知能とも競争しないといけません。そんな時代を生き抜くためのヒントが新井教授の寄稿にあります。新井教授は「AIには弱点がある」と言います。それは「まるで意味がわかっていない」ということです。数学の問題を解いても、雑談につきあってくれても、珍しい白血病を言い当てても、意味は分かっていないのだそうです。ただ、数式に膨大なデータを入れて答えを導いているだけで、どうしてそうなったのかは人工知能にはわからないし、人に説明することもできません。
一方で、人間は答えを導けば、どうしてそうなったかを説明できますし、その答えが何に役立つかもわかります。意味が分かるのです。そこが決定的な違いです。
少し難しい言い方をすると、人工知能は、相関関係は分かりますが、因果関係は分からないのです。つまり「こうすればそうなる」ことは分かっても、「どうしてそうなるのか」はわからないのです。
ただ、人間にも意味を理解できない人もいます。そういう人は、人工知能が出した答えに従って動く、いわゆる人工知能のしもべになるしかありません。みなさんは、意味の分かる人になってください。そのためには、いい本をたくさん読んだり、いい映画をたくさん見たり、いい友人と人生についてたくさん語り合ったりするといいと思います。