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小惑星探査機「はやぶさ2」が6年、50億キロの旅を経て、小惑星の砂を地球に送り届けました。砂の解析が生命誕生の謎の解明につながると期待されており、日本の高い技術力を示しました。宇宙開発では月や火星の探査が計画されているほか、お金さえ出せば誰でも行ける宇宙旅行も近い未来に実現しそうです。「はやぶさ2」には、大手メーカーから町工場まで100社以上の民間企業が参加しています。宇宙飛行士にはなれなくても、宇宙に関わる会社や仕事はたくさんあります。(編集長・木之本敬介)
(写真は、「はやぶさ2」の模型と津田雄一プロジェクトマネージャ=2020年12月6日、相模原市中央区)
(写真は、「はやぶさ2」の模型と津田雄一プロジェクトマネージャ=2020年12月6日、相模原市中央区)
6年50億キロの旅
2014年に打ち上げられた「はやぶさ2」は、2019年に小惑星リュウグウに着陸して砂を採取する作業をした後、地球に帰還する旅を続け、今年12月5日に砂が入っているとみられるカプセルを分離。オーストラリアの砂漠に落ちたカプセルは8日、無事に日本に到着しました。これから砂の解析が始まります。「はやぶさ2」本体はさらに別の小惑星に向けて旅を続けます。何度もトラブルにみまわれながら地球にたどり着いた初代「はやぶさ」は、「奇跡の帰還」と呼ばれ映画化もされましたが、今回はプロジェクトの責任者が「(100点満点で)1万点」と語るほど順調でした。小惑星との往復を成功させているのは日本だけ。独自の高い技術力を世界に証明しました。(写真は、豪州上空で大気圏に再突入したはやぶさ2のカプセル〈動画から約30秒分を合成〉=2020年12月6日午前2時30分ごろ、豪南部グレンダンボ近郊)
関わった企業は
はやぶさプロジェクトの主体は、政府の関連機関である宇宙航空研究開発機構(JAXA)ですが、多くの民間企業が関わっています。以下は開発に携わった代表的な企業と担当分野です。【NEC】機体の設計・製造、イオンエンジン、小惑星からの熱放射を調べる中間赤外カメラ
【三菱重工業】探査機の姿勢を制御する装置
【富士通】軌道決定システム、地上データ伝送システム
【IHIエアロスペース】小惑星の表面に人工クレーターを作る衝突装置、岩石などのサンプルを入れる特殊カプセル
【住友重機械工業】岩石や砂などの試料採取装置
【古河電池】探査機の電源となるリチウムイオン電池
【明星電気】水や有機物の存在を調査する近赤外線 分光計、衝突実験を撮影する理学観測分離カメラ
【日本工機】クレーターをつくる衝突装置の心臓部にあたる円錐(えんすい)形の「爆薬系」
衛星事業「2強」はNECと三菱電機
日本の人工衛星事業の「2強」はNECと三菱電機です。通信、映像撮影、電波による観測、太陽電池による発電など、たくさんの電気技術が必要なため、電機メーカーが中心を担っています。NECは「はやぶさ」「はやぶさ2」のほか、月探査機「かぐや」や金星探査機「あかつき」など比較的小型で研究目的の衛星を多く手がけています。三菱電機は気象衛星「ひまわり」や通信衛星など、比較的大型で実用目的の衛星が得意です。衛星の組み立てはこの2社が中心ですが、一つひとつの部品は企業や大学、研究機関が開発します。人工衛星は1機あたり数十万個の部品でできているので、下請け企業も含めると数百社が関わっています。「はやぶさ2」を打ち上げたH2Aロケット、次のH3ロケットの開発、打ち上げ業務は三菱重工が担っています。2021年春にはH3が初飛行する予定。H2Aより打ち上げ能力を高め、民生品を多用して費用を半額の約50億円に抑えます。
(写真は、H2Bロケット最後の打ち上げ=2020年5月21日、鹿児島県の種子島宇宙センター、三菱重工業提供)
宇宙プロジェクト続々
米国がアポロ計画以来、半世紀ぶりの有人月探査を目指す「アルテミス計画」には、日本を含む8カ国が参加します。2024年以降、宇宙飛行士を継続的に月に着陸させ、さらに月面に基地を建設して長期滞在する計画です。月を回る宇宙ステーション「ゲートウェー」も建設予定です。日本は生命維持装置や無人補給船や月面車などの開発を担おうとしています。また、日本独自で2022年度に月探査機「SLIM」を初着陸させ、その後、月の南極などにあると考えられている水を探す計画も進んでいます。米国の宇宙プロジェクトの中心はすでに民間企業で、国際宇宙ステーション(ISS)の商業利用も本格化しようとしています。11月にISSに野口聡一さんを送り込んだのは、米宇宙ベンチャー「スペースX」の民間ロケットでした。米航空宇宙局(NASA)は2019年、ISSの民間利用を促進させる商業化計画を発表。一定の健康基準を満たし、事前に訓練を受けることを条件に、複数人が年2回、最長30日滞在できることになりました。旅行で訪れることもでき、1泊約3万5000ドル(約370万円)の宿泊費も公表しました。米企業「アクシオム・スペース」はISSを訪れるツアーを計画していて、早ければ2021年後半にも最初の乗客がISSに8日間滞在する予定です。2024年には宇宙ホテルとして使われる居住施設を打ち上げてISSに取り付ける計画です。
(写真は、日本の無人輸送船〈左〉が、月を回る宇宙ステーション「ゲートウェー」に接近するイメージ=JAXA提供)
「宇宙放送局」開設
日本でも、デジタルコンテンツ開発会社「バスキュール」が今年8月、日本の実験棟「きぼう」に世界初となる宇宙スタジオ「KIBO宇宙放送局」を開設。ISSと地上をリアルタイムで結び、窓越しの地球や太陽が昇る映像を生配信しました。衛星放送会社「スカパーJSAT」も将来、スマートフォンで操作できる4KカメラをISS船外に設置する構想です。ANAホールディングス傘下の「アバターイン」は、ISSだけでなく、月を回る軌道に建設される宇宙ステーションでも使える作業用ロボットを開発しています。地上から遠隔操作することで、飛行士に頼らなくても地上の研究者が植物や生物を育てるような実験をできるようにしたいそうです。(写真は、ISSの日本実験棟「きぼう」。日の丸がある船内実験室の上に機材などを収容する円筒形の保管室がある=JAXA、NASA提供)
宇宙ベンチャーに注目
日本の宇宙ベンチャー「ispace」(アイスペース)が進めている「HAKUTO(ハクト)-R」は、独自に開発した探査機を米スペースX社のロケットで打ち上げて、2022年に月面着陸、2023年に月面探査をする計画です。ispace創業者の袴田武史CEOは2019年、朝日新聞のインタビューにこう語っています。
「地球で人間が豊かな生活を送るためには、もはや宇宙の活用は避けられません。人工衛星を活用したGPSは車のナビやスマートフォンの地図機能を充実させました。映像データによって農作物を監視する取り組みも始まっています」
「2040年には月に街ができて1000人以上が住み、年1万人が訪れる『ムーンバレー構想』を私たちはつくりました。イメージは、研究者らが常駐して観光客も多い今の南極が近いですね。資金繰りや技術面でのハードルはありますが、先頭に立って環境づくりを進めていきたいと思っています」
SF映画の中の世界がもう実現間近です。宇宙に関心がある人は、ベンチャー企業に注目して調べてみましょう。
(写真は、「HAKUTO-R」月着陸機の最終デザイン=ispace提供)
●宇宙ビジネスについては「トヨタが月面探査車開発へ 宇宙ビジネスに関わる会社はここだ!」(業界研究ニュース)も読んでください
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