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ソニーグループが自動車づくりに本格的に参入します。複雑な構造のエンジンを積んだ車から電気自動車(EV)の時代になり、次世代の車は「走るスマホ」とも呼ばれます。ソニーは人工知能(AI)や自動運転技術の開発に向けてEVの試作車をつくり、公道での実験を進めています。米国のアップルもEVづくりに乗り出すとみられています。自動車産業は「100年に一度の変革期」にあります。自動車メーカーや部品メーカーだけでなく、電機メーカー、電子部品メーカー、IT企業も入り乱れての協業と競争が始まっています。トヨタ自動車やホンダといった大手自動車メーカーを頂点としたピラミッド型の産業構造も変わりそうです。各業界の勢力図が塗り変わるほどの大きな変化が起きるかもしれませんよ。(編集長・木之本敬介)
(写真は、ソニーが試作した電気自動車「VISION-S」=2020年7月、東京都港区のソニー本社)
(写真は、ソニーが試作した電気自動車「VISION-S」=2020年7月、東京都港区のソニー本社)
ソニーの車、乗ってみたい?
「ソニーの車、かっこいいですね。乗ってみたいです」2020年夏、ソニーが公開したEV「VISION-S」(ビジョンエス)を見た人がテレビのニュースで興奮気味に語っていました。これまで欧州で公道実験を進めてきましたが、国内でも年内をめどに始める方針です。試作車は、ソニーのイヌ型ロボット「aibo」(アイボ)の開発チームが中心になって、設計は自社で担う一方、モーターや電池は外部から調達し、組み立ては欧州の生産受託会社に委ねました。運転席には、大画面のディスプレーが並び、スマホのように指先で操作して音楽や映像を楽しめます。ソニーが得意とするセンサーが33個も付けられていて、ディスプレーの映像で全周囲を確認。高速通信規格「5G」を備え、自動で車線変更などができる運転支援機能を持っています。完全な自動運転が実現すれば、車は「動くリビング」となり、ゲームや音楽などソニーのエンタメを楽しみながら移動できるようになるわけです。
ソニーは自動車部品の販売につなげる狙いを強調していますが、将来、EVそのものを売り出す可能性も否定していません。EV開発責任者の川西泉執行役員は朝日新聞の記事で、開発の狙いについて「クルマの電動化が進み電気部品が増えれば、IT技術が導入される。ソニーの強みを発揮できる」と述べ、EVの量産についても「軽はずみなことは言えないが、その可能性は考えていくべきだ。量産にはまだ完成度を上げる期間が必要だが、しない、と宣言しているわけではない」と語っています。
(写真は、ソニー「VISION-S」の車内はスマホのようなディスプレーで操作できる=2020年7月、東京都港区)
キーワードは「CASE」
ソニー参入のキーワードは、「CASE」(ケース)と称される自動車の次世代技術です。インターネットとつなぐコネクテッド(C)、自動運転(A)、シェアリング(S)、電動化(E)。CとAとEは、電機メーカーやIT企業の得意分野です。従来の自動車はガソリンを効率的に燃やすエンジンづくりに精緻な技術が必要で、他の業界からの参入は容易ではありませんでした。しかし、EVの構造はそれほど複雑ではありません。ガソリン車にはエンジンだけで1万点、全部で3万点もの部品が使われていますが、EVは半分以下といわれます。電気モーターや電池を中心に、様々な部品を組み合わせればつくれます。自動運転では、車と車、車と信号機などが通信する機器が必要で、周辺状況を正確にとらえるカメラやセンサーが欠かせません。これまで自動車とは無縁だった電機メーカーや電子部品メーカー、IT企業にとっては追い風なのです。さらに、「走るスマホ」と呼ばれる次世代車から集められる膨大なデータは、人の移動や街づくりにかかわる新たなビジネスにもつながります。
「脱エンジン」のホンダ、「水素エンジン」もつくるトヨタ
守勢の自動車メーカーの対応にも特徴があります。ホンダは4月下旬、世界で売る新車すべてを2040年までにEVかFCV(燃料電池車)にすると発表しました。ガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車(HV)は扱わない「脱エンジン」宣言です。これに対し、トヨタはEVやFCVの販売を増やしつつHVも含めた「全方位」を続ける方針。二酸化炭素(CO₂)を出さない「水素エンジン車」の開発にも取り組みます。ガソリンの代わりに水素を燃やす仕組みで、エンジンの部品の大半を流用できます。豊田章男社長は「いまは技術を限定して選択肢を狭める時ではない」と話しています。「脱ガソリン」シフトが急速に進むと中小のエンジン部品メーカーの経営を直撃するため、その影響を抑える狙いもあるようです。
(写真は、耐久レースで水素を補給するトヨタの水素エンジン車「カローラH2コンセプト」=2021年5月、静岡県小山町の富士スピードウェイ)
ケイレツからパートナーへ
自動車産業は裾野が広く、大手完成車メーカーを頂点にピラミッド型に部品会社が連なり、下請けやタクシー、ガソリンスタンドなども含めると、全就業者の1割近い550万人が働いています。トヨタ系、日産系など「ケイレツ(系列)」と呼ばれる強固な上下関係を築いてきました。EVへの転換は、多くの部品メーカーにとって厳しい時代を意味します。一方で、CASEに対応できる先進技術をもった自動車部品や電子部品のメーカーにとっては、ケイレツとは無関係に国際的にも事業を広げるチャンス到来です。上下関係のピラミッド型から、「開発パートナー」となる水平分業に変わっていくとの見方もあります。モーター世界最大手で、2030年のEV用モーターの世界シェア4割を目標に掲げる日本電産は、世界の自動車メーカーとの対等な関係をめざしています。すでにモーターとギアをセットにした部品を中国でつくり、現地の車メーカーに相次いで採用されています。永守重信会長は「車メーカーの系列に関係なく納めていく」と話します。
自動車産業の大変革は幅広い業界に及び、多くのみなさんの就活、そして将来の仕事を左右します。注目してください。
(写真は、来年春発売予定の中国初となるホンダブランドの電気自動車=2021年4月19日、上海市)
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