2020年01月10日

「米VS.イラン」全面衝突は回避 何が起きた?どうして対立?【イチ押しニュース】

テーマ:国際

 一触即発の危機だった米国とイランの関係ですが、とりあえず全面衝突は回避されたようです。でも、両国の対立が解決したわけではなく、いつ何が起こっても不思議ではない状況です。そもそも、イランってどんな国なの? 米国と何でもめているの? どうして仲が悪いの? 私たちにとっても日本の企業にとってもひとごとではない「米国VS.イラン」をやさしく解説します。(編集長・木之本敬介)

(写真は、ホワイトハウスで声明を発表するトランプ大統領〈中央〉=2020年1月8日、ワシントン)

米国が司令官殺害!こんなことしていいの?

 今回の対立の直接のきっかけは、米軍が1月3日にイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を空爆で殺害したことです。戦争中でもないのに、特定の個人を殺していいのでしょうか。トランプ米大統領は司令官を「世界最悪のテロリスト」と呼び、「米国の外交官と軍人を攻撃する計画を進めていた」として殺害を正当化しています。国際法では「差し迫った脅威」がある場合に「自衛的な措置」が認められるといわれますが、今回は根拠について説得力のある説明はありません。米国は2001年に同時多発テロを受けて以降、パキスタンイエメン無人機などを使ってテロリストの殺害を続けてきました。今回も「テロリストの殺害」として同列に並べていますが、米国と交戦状態にないイラン政府要人の殺害に、米国内でも疑問の声が出ています。

 司令官は「国民的英雄」といわれる人物です。イラン国民の反米感情が爆発し、最高指導者ハメネイ師は米国への「厳しい報復」を宣言。8日、米軍が駐留するイラクの基地をミサイルで攻撃しました。

(写真は、イスラム教シーア派組織ヒズボラの追悼集会で飾られたソレイマニ司令官の写真=2020年1月5日、ベイルート)

双方、戦争は望まず

 両国の全面衝突に発展するのではないかと世界中が緊張しましたが、米軍に死者はなく、トランプ大統領はさらなる反撃はしない考えを示しました。実は、双方とも戦争を望んでいるわけではなく、国内向けに強硬な態度や発言を示さなければならない事情もあります。イランは米側に大きな被害が出ないように目標を考えて攻撃したとみられており、報復が連鎖する最悪の事態は避けられました。

 ただ、米軍が駐留するイラクやシリアには親イランのイスラム教シーア派の武装組織がいくつもあります。米軍や米大使館、米国人を標的にした攻撃やテロを起こす可能性はあり、予断を許さない情勢です。

(写真は、米軍が駐留するイラクのアサド空軍基地に対しイランの革命防衛隊が報復攻撃をしたと伝えるイラン国営通信のウェブサイト)

イランってどんな国?

 ところで、イランってどんな国か知っていますか? 紀元前には強大な「ペルシャ帝国」を築いた民族の国で、世界のイスラム教徒の中では少数派のシーア派が多数を占めています。王制時代は親米でしたが、1979年に王制を倒す「イスラム革命」が起きシーア派の指導者が実権を握りました。イランから逃れた国王を米国が受け入れたため、444日間にわたる「在イラン米国大使館人質事件」が起き、1980年に両国は断交。以来、敵対関係が続いています。原油と天然ガスの埋蔵量は世界トップ級の資源大国で、中東では米国の支援を受けるイスラエルや、スンニ派の大国サウジアラビアなどと対立。シリアやイエメンでの紛争では、シーア派のテロ組織を支援しているといわれています。

イランの核開発問題と経済制裁

 そのイランが核施設を建設していることがわかったのが2002年。原発や研究目的だと主張しましたが、国際社会は核兵器をつくろうとしていると疑い、開発をやめさせようと経済制裁をかけました。2015年、米英仏独中ロの6カ国は、イランが核開発を大幅に制限する見返りに経済政策を緩和する合意を結びました。核兵器に転用できる高濃縮ウラン兵器級プルトニウムを15年間は生産しないことや、ウラン濃縮に使われる遠心分離機の大幅削減も盛り込まれました。しかし、核開発の制限に期限が設けられ、弾道ミサイル開発の制限が盛り込まれていないとして、オバマ前米政権の成果を否定するトランプ大統領は「致命的な欠陥がある」と非難。2018年に核合意を一方的に離脱し、イランへの制裁を段階的に再開しました。2019年5月にはイラン産原油の全面禁輸が始まり、イランは国家収入の6割を占めるとされる原油収入が激減して経済は困窮。イランは反発し、核合意の制限を超えてウラン濃縮度を引き上げるなど核合意の制限破りを続けています。

日本企業への影響は?

 かつて日本はイラン最大の原油輸出先でしたが、核疑惑に対する経済制裁で近年は全輸入量の数%にまで減っています。ただ、イスラム革命後に米国と国交断絶した後も日本は友好関係を続けてきました。イランの割合は減りましたが、日本の輸入原油は中東産が9割を占めます。そのほとんどがイランとアラビア半島の間にあるホルムズ海峡を通って運ばれます。プラスチックなどの原料になるナフサ(粗製ガソリン)も輸入の6割が中東から。今回の対立では、イランに現地法人がある商社やメガバンク、石油元売り大手、海運会社、化学メーカーなどが駐在員の国外退避や出張自粛、情報収集などの対応に追われました。事態が悪化して原油価格が高騰すれば、影響はあらゆる業界に広がります。

 日本政府は中東海域への自衛隊派遣を2019年末に決め、今回の事態を受けても予定は変えないとしています。安倍首相は週末からサウジアラビアなど中東3カ国を訪問します。遠い中東の話ですが、私たちの暮らしやみなさんが志望する企業の業績にも関わる問題です。中東情勢のニュースをしっかりチェックするようにしてください。

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