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香港で200万人近い市民による大きなデモがありました。刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡せるようにする「逃亡犯条例」の改正に反対するもので、全人口の3割に迫る香港人が参加。過去最大規模に膨れあがりました。大学生はもちろん中高生も多く、10代が目立ったのも特徴です。デモを受け、香港政府トップは改正案は事実上廃案になるとの見通しを示しましたが、香港の人たちはなぜこんなに怒ったのでしょうか。影の主役は中国。キーワードは「自由」です。すぐ隣の国で起きている歴史的な出来事に注目してください。(編集長・木之本敬介)
(写真は、「逃亡犯条例」改正案の撤回などを訴え歩くデモ参加者。若い世代の姿が目立った=6月16日、香港)
(写真は、「逃亡犯条例」改正案の撤回などを訴え歩くデモ参加者。若い世代の姿が目立った=6月16日、香港)
中国本土に連行される!?
「逃亡犯条例」は、香港で捕まった刑事事件の容疑者を香港以外の地域に引き渡すケースについて定める条例で、改正されると中国本土へ移送できるようになります。中国政府は改正案について「完全支持」を表明しました。英国の植民地だったときの制度が引き継がれている香港では司法は独立しています。しかし中国本土は、検察も裁判所も共産党の指導下にある独裁体制です。中国に批判的な言動をすると、当局が事件をでっち上げて本土に移送されるのではないか、共産党ににらまれたら誰でもいつでも連行されかねない――という不安が広がったのです。(写真は、200万人デモの翌日も多くの若者が集まった=6月17日、香港)
どうなる「一国二制度」
香港は1997年に英国から中国に返還されましたが、その際、中国は50年間、「高度の自治」と「一国二制度」を守ると内外に約束しました。ところが近年、中国共産党に都合の悪い本を扱っていた香港の書店関係者らの失踪が相次ぎ、後に中国で拘束されていたことがわかったり、政府に批判的な外国人の就労ビザを認めなかったり、中国による香港統制が強まっています。香港では5年前にも大規模な街頭運動がありました。民主的な選挙の実現を求める若者らが79日間にわたって香港中心部の道路を占拠。警察の催涙弾に抵抗して雨傘を広げたため、「雨傘運動」と呼ばれます。しかし香港政府は一切譲歩しませんでした。後ろ盾の中国政府が民主化運動の飛び火を警戒し、譲歩を許さなかったからです。この挫折で民主化をめぐる香港の世論は冷めたといわれてきましが、今回は中国本土とのビジネスを重視する香港の経済界も「ビジネス上のトラブルで拘束されかねない」と懸念を表明。親中派で保守的な立場の人たちにも反対が広がりました。デモを呼びかけている民主派団体のリーダーは「英国の植民地時代から、香港には民主主義はなくても自由はあった。その自由すら失われるかも知れないという危機感が、香港社会を動かしている」と語っています。
日本人の人権にも影響?
日本も無関係ではありません。雨傘運動の中心メンバーの一人、周庭(アグネス・チョウ)さん(写真)は10日、都内の日本記者クラブで会見し「香港には在留日本人、企業、観光客、ビジネスマンなどたくさんいます。改正案が可決されたら、香港に住んでいる、香港に来る日本人の人権も影響を受けます」と訴えました。これを機に、志望する企業が中国や香港とどんな関わりがあるか、調べてみましょう。国際社会も黙っていません。米国、欧州連合(EU)、英国、カナダなどの政府が条例改正への懸念を表明しました。中国政府が「事実上の改正案廃案」を認めた背景には、月末に大阪で開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議を控えて国際的な批判を避けた事情もあります。香港のデモは、来年1月に行われる台湾の総統選挙にも影響を与えています。親中派、現状維持派、独立派がせめぎ合う台湾でも、統一を迫る中国に対する有権者の危機感が高まったといわれているからです。香港の行方に加え、台湾の総統選からも目を離さないでください。
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