ニュースのポイント
グローバル化で国内産業や雇用の「空洞化」が進んでいます。グローバル企業は今後、国内でのモノ作り、雇用をどれだけ維持していけるのか。生産台数の8割弱、社員約16万人の85%が海外という日産自動車の志賀俊之最高執行責任者(COO)が、グローバル企業の課題と責任、日本復活の処方箋(しょほうせん)を語りました。
今日取り上げるのは、経済面(4面)のインタビュー記事「限界にっぽん 第3部 超国家企業と雇用/日産・志賀COOに聞く/『空洞化 モノ作りの分水嶺(ぶんすいれい)』」です。
志賀COOインタビューの概要は――いま市場が拡大している新興国は現地生産中心。日本で生産して輸出するのでは難しい。(長く続いた)超円高や現地企業の成長で、下請けまでが海外進出か廃業かの選択を迫られている。日本にモノ作りを残せるかどうかの分水嶺だ。日産は国内100万台生産体制は守る。日本の技術でしか作れない電気自動車のように国内に残すものと海外で作るものを選択する。電機各社はそこがあいまいだった。国内生産を残せるかどうかは、いかに革新的なものが作り出せるかだ。競争力の原点を守るため研究開発投資などは日本が中心。根無し草になるのはまずい。大企業には経験も知識もあるのに仕事がない人材がいる一方で、海外進出を考える中小企業に人材がいない。労働市場の流動化が遅れているからだ。企業が国民経済に貢献すべきは雇用と納税。日本の法人税は競争力を失っており、海外並みに下げるべきだ。何らかの産業が成長を牽引(けんいん)しないと、弱者を支えるための税収も確保できない。今は競争力強化をやらないといけない。日本が復活できるかどうかの最後のチャンスだ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
志賀COOのインタビューには、グローバル化が進んだいま、日本の経済、企業が直面している課題が凝縮されています。背景を整理してみます。
◇日本経済を支えてきた自動車や電機といった製造業は、国際競争の中、製造コストを下げるため賃金が安い中国や東南アジアに工場を移転してきた。
◇2008年秋のリーマン・ショック後の世界同時不況と円高で、海外移転の流れは加速し、下請けの関連会社の海外進出も。
◇コスト削減と国内産業空洞化のため、各企業は正社員を減らして派遣や契約社員などの非正規雇用に置き換えてきた。余剰人員を「追い出し部屋」に追いやる企業も。
◇余剰人員を抱える産業からITや介護・福祉などの成長産業に働き手を移すため、解雇しやすい制度や限定正社員といった雇用制度の改革が検討されている。
◇グローバル企業は税負担を減らそうと租税回避の動きを強めている。各国は企業誘致と雇用確保のために税率引き下げ競争をしており、法人税率が高い日本でも引き下げが議論されている。
◇アベノミクスによる円安で、輸出企業は収益が増し、今は一息ついている。
こうした大きな流れ、枠組みを知っておくと、日々の経済や雇用に関する報道がすっと頭に入ってきます。
志賀COOの話の核心は、日本の企業が「革新的なものを作り出せるか」でしょう。電気自動車のような新しい技術、製品を国内で研究開発できれば、国内にモノ作りの拠点を残すことができ、雇用も確保できます。革新=イノベーションを続けなければ、グローバル時代には生き残れません。企業の将来性をみるときに、「イノベーション」というキーワードを忘れないでください。
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