2018年06月08日

小型機世界一!「ホンダジェット」のブランド戦略【今週のイチ押しニュース】

テーマ:経済

 ビル街の交差点に現れたジェット機が道路から離陸、バックに流れるのはONE OK ROCKの「Change」――。ホンダの小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」(写真=ホンダ提供)のCMを見たことありますか。欧米を中心に売れ行き好調で、2017年は43機を出荷し小型機では米国セスナの主力機を抜いて世界一になりました。このホンダジェットがようやく日本でも販売されます。自動車メーカーの空への挑戦から、企業の個性やブランド戦略について考えます。(編集長・木之本敬介)

ハイヒールから着想

 ホンダジェットは、最大7人乗りで1機525ドル(約5億7700万円)。航続距離は2661キロで羽田空港から中国・北京や台湾・台北までノンストップで飛べます。ふつうは機体の後部にあるエンジンを主翼の上に置く奇抜なデザインをとったことで、空気抵抗が少なくて燃費に優れているうえ、室内が広くて静か。これまでに欧米や中国で86機を納入しました。2018年度も50機以上の出荷を予定しています。

 余談ですが、機首のデザインは、ホンダジェットを手がける子会社ホンダ・エアクラフト・カンパニーの藤野道格(みちまさ)社長(写真)がハワイの免税店に飾られていた高級ブランド「サルヴァトーレ・フェラガモ」のハイヒールを見てひらめいたそうです。「美しさと人間工学を両立させている」と感動し、機体の形状に生かして空気抵抗を低減しました。

「市場規模2倍に」

 自由に移動できるビジネスジェット機は、世界の富裕層や企業幹部による需要が拡大傾向にあります。日本ビジネス航空協会によると、世界に2万244機あるうちの半分以上1万3133機が米国で使われています。ブラジル840機、メキシコ777機、カナダ502機、イギリス589機、ドイツ410機、中国245機などが続きますが、日本はさらに一桁少ない85機でした(2015年3月現在)。

 国内では新幹線などの高速交通網が整備されていることもありますが、ビジネスジェット向けの施設整備が進んでいない事情もありました。ただ、羽田空港でビジネスジェットの優先順位が引き上げられたほか、専用ターミナルの整備などが進み、84空港で離着陸が可能です。地方の空港から中国へも行けます。藤野社長は「国内の市場規模を4~5年で2倍にしたい」と意気込みを語っています。欧米に比べるとまだ小さいアジア市場も中国を中心に間違いなく伸びるでしょう。

(写真はいずれもホンダジェット=ホンダ提供)

「ホンダらしさ」って?

 航空機の製造は、ホンダ創業者・本田宗一郎氏の夢でした。1986年に研究に着手しましたが、計画は何度も中断し、1号機の引き渡しは2015年末。半世紀以上かけてようやく実現しました。航空機生産は一つのモデルを改良しながら数十年にわたって販売を続けることもあるため、量産に入ればもうけを出しやすいビジネスとは言われますが、まだ赤字です。ホンダ幹部は「黒字化はまだ先だが、ブランド力の向上に貢献している」と話します。

 二輪車メーカーとしてスタートしたホンダはこれまで、世界で累計1億台を売った小型バイク「スーパーカブ」、世界一厳しい米国の排ガス規制をクリアした「シビック」など、画期的な製品を出してきました。最近では軽自動車「N-BOX」はヒットしていますが、世界を驚かすような「ホンダらしさ」が薄れたとも指摘されます。復帰した自動車レースF1の戦績も低迷しています。

 そんな中でのホンダジェットの国内販売には、ブランドイメージアップという狙いもあります。八郷隆弘社長は発表の記者会見で「ホンダの本社がある日本に絶対にもっていきたかった。チャレンジしている姿を見せたいという思いもあった」と語りました。

(写真は、1958年発売の初代スーパーカブ=ホンダ提供)

移動手段を提供する会社

 自動車メーカーが航空機を開発するというだけでもチャレンジングですが、機体とエンジンを同じ会社がつくるのは航空業界では極めて珍しいことだそうです。ホンダの正式な社名は「本田技研工業」ですが、トヨタ自動車、日産自動車と違い、「自動車」をうたっていません。2009年の朝日新聞のインタビューで当時の福井威夫社長がこう言っています。
 「ホンダはもうすでに、単なる自動車メーカーではありません。パーソナルモビリティー、個人の移動手段を提供してサービスする会社だと思っています。主力は自動車だが、二輪もある、ロボットの『アシモ』(写真=ホンダ提供)もある、『ホンダジェット』というジェット機もある。本田技研工業が正式社名ですが、ローマ字でHONDAとしたいくらい。でも、自動車とは入れません」

 トヨタの豊田章男社長は今年1月、米ラスベガスで開かれた家電・技術見本市CESで「車をつくる会社からモビリティーの会社へ変えることが私の目標」と宣言しましたが、ホンダはこの考え方をかなり先取りしていたことがわかります。トップの言動や新製品をきっかけに企業について調べれば、方向性や社風を感じ取ることができます。

トヨタが移動サービスの会社に変身!? 変われる企業の強さ【2018年1月12日のイチ押しニュース】

商社がパートナー

 ビジネスジェットをめぐっては3月、ANAホールディングスと双日が定期便の到着先で小型ジェット機に乗り継ぎ、目的に素早く向かえる事業を今年始めると発表しています。北米で日本の企業経営者ら向けにはじめ、欧州などに広げる予定です。今回の日本での販売では、丸紅の子会社が販売代理店となって販売や機体の整備などを担います。航空機ビジネスに常に商社が関わっていることがわかりますね。

(写真は、ホンダジェット日本販売の記者会見後に撮影に応じるホンダの八郷社長=左から2人目=、丸紅の氏家俊明常務執行役員=右から2人目=ら=東京都港区)

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