2017年12月08日

「エルサレム首都」宣言が就活を揺さぶる!?【今週のイチ押しニュース】

テーマ:国際

 またまたトランプ米大統領が世界を揺るがす言動に出ました。「エルサレムをイスラエルの首都と公式に認める」と宣言し、今は商都テルアビブにある米国の大使館をエルサレムに移転するよう指示しました。そもそも何が問題で、なぜ今承認し、これから何が起きるのか。やさしく解説します。遠い中東の出来事ですが、みなさんの就活に影響するかもしれませんよ。(編集長・木之本敬介)

(写真は、マニラから帰国の途に就くトランプ米大統領=11月14日、代表撮影)

エルサレムって?

 エルサレムの1キロ四方の壁に囲まれた旧市街には、古代ユダヤ王国の神殿の一部とされる「嘆きの壁」、イスラム教の預言者ムハンマドが昇天したとされる「岩のドーム」、キリストの墓とされる場所に建てられた「聖墳墓(せいふんぼ)教会」があり、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地があります。

 ざっと歴史を振り返ります。紀元前の昔、ユダヤ人はエルサレムを中心とするパレスチナの地に王国を築いていましたが、その後ローマ帝国などに滅ぼされ世界各地に離散しました。ヨーロッパなどで長く迫害されてきたユダヤ人の間で19世紀末、パレスチナの地に帰ってユダヤ国家をつくろうという運動「シオニズム」が起こります。その地に長年暮らしてきたアラブ民族であるパレスチナ人との紛争の始まりです。イスラエルは1948年の第1次中東戦争で西エルサレムを獲得し建国を宣言、多くのパレスチナ人が難民になりました。1967年の第3次中東戦争後には東エルサレムを占領し、市全域を「首都」と宣言しました。しかし国際社会は認めず、「エルサレムの地位はイスラエルとパレスチナの和平交渉で決めるべきだ」として、日米を含む各国の大使館はテルアビブに置いています。一方でパレスチナは東エルサレムを将来の独立国家の首都にするとしています。

今なぜ宣言?

 そんな複雑な歴史をもつエルサレムを、トランプ大統領はなぜ今「首都」と認めたのでしょうか。トランプ氏は昨年の大統領選で大使館移転を選挙公約に掲げ、ユダヤ系米国人や親イスラエルのキリスト教保守派の支持を得ました。実は米国では1995年にエルサレムの首都承認と大使館移転を決めた法律ができました。米国内には500万人のユダヤ系米国人が住み、政治や経済に大きな影響力を持っているからです。しかし、法律には大統領が半年おきに移転を延期できる条項があり、歴代大統領は中東和平を損なわないよう実施を延期してきました。トランプ氏も今年6月には先送りの署名をしています。

 そんな中、トランプ氏が宣言に踏み切った理由は、支持率の低迷や、中東和平交渉が進展しないことに業を煮やしたためではないかとみられています。就任以来、環太平洋経済連携協定(TPP)や地球温暖化対策の新ルール「パリ協定」からの離脱は表明しましたが、メキシコ国境の壁建設、医療保険制度改革(オバマケア)撤廃など多くの選挙公約が実現していません。「エルサレム首都」宣言は自分1人の決断で実行できる数少ない公約だったのです。

世界各国が非難

 アラブ諸国は猛反発しています。パレスチナ自治政府のアッバス議長は「和平を達成するための全ての努力を台無しにし、過去数十年の仲介者としての役割を放棄するものだ」と非難。親米の国も含め、アラブ各国は一斉に批判の声をあげました。英国、フランス、ドイツの首脳も不支持を表明。国連安全保障理事会はこの問題で緊急会合を開きます。

 トランプ氏は中東和平に向けた「新たなアプローチだ」と主張していますが、具体的な道筋は示していません。米国は長年、中東和平の仲介役を務めてきましたが、もうその役割を果たせず、和平協議の枠組みが崩れてしまうかもしれません。

これからどうなる? 就活に暗雲?

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの最高幹部は、対イスラエルの民衆蜂起(インティファーダ)を呼びかけました。過去に起きたインティファーダでは、イスラエル軍との衝突で多くの犠牲者が出ました。今回も緊張が高まる可能性があります。

 トランプ氏が首都宣言をするとの方針が事前に伝わった6日、中東情勢への警戒感から日本企業の株価は大幅安となり、日経平均株価は前日より445円34銭安の2万2177円04銭と今年最大の下げ幅となりました。7日には株価は上がりましたが、世界情勢が不安定になると「安全資産」といわれる円が買われて「円高・株安」になる傾向があります。輸出でもうける企業が多い日本経済にはマイナス要因です。日本が中東から輸入している原油などエネルギー価格が急騰することも考えられます。「中東情勢が不安定になる→日本の企業業績が悪化→企業が採用数を減らす」となり、みなさんの就活に影響するかもしれません。

 ティラーソン米国務長官は「すぐに移転させるわけではない」と述べ、反米感情の沈静化をはかりました。インティファーダが広がるのか、大使館移転はいつ始まるのかなど、今後のニュースに注目してください。

(写真は、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラで7日、トランプ米大統領の演説に抗議する人々)

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから

アーカイブ

テーマ別

月別