ニュースのポイント
「共謀罪」法と呼ばれ、反対論も強いなか国会で強行に採決された「改正組織犯罪処罰法」が11日、施行されました。政府に「テロ対策に必要」と言われて「あったほうがいい」と思う人がいます。一方で、私たち一般市民も処罰の対象になる可能性があり、国民への監視が強まるかもと言われて「怖い」と感じる人も多くいます。賛否が対立するこの法律をめぐってモヤモヤしていた部分を整理してみます。「自分ごと」として考えてください。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、
・1面の「『共謀罪』法 施行/計画段階で処罰/監視強まる懸念」
・特集面(5面)の「『共謀罪』恣意的運用に懸念/計画・準備で処罰」
・オピニオン面(15面)の「耕論・実は監視されたい?」
・社会面(38面)の「問う『共謀罪』施行に思う/監視される日常 自分の事と考えて」
(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。
犯罪の準備段階で処罰
どんな法律なのか、簡単におさらいします。日本の刑事法では犯罪を実行した段階から処罰するのが大原則ですが、共謀罪は犯罪を計画し準備を始めた段階で処罰できるようにする法律です。具体的には、法律に明記された277種類の犯罪を、「組織的犯罪集団」が計画しているという情報があれば、捜査当局は実際に犯罪に着手する前にメンバー全員を一網打尽にできるようになりました。
とくに問題だと言われているのは、「組織的犯罪集団」の範囲があいまいなことと、「準備行為」についても日常的な行動と犯罪準備との区別がはっきりしない点です。国会で野党は、
表のB、Cのようなケースも取り締まりの対象になるのでは、と懸念を示しました。一般市民も対象になる心配があるというのです。277の対象犯罪が多すぎるとの指摘もあります。
安全のためなら監視もOK?
安倍首相は、テロ対策に必要で法律ができなければ「東京五輪を開けないと言っても過言ではない」とまで言いました。テロが世界各地に広がる中、そう言われれば、不安に思うのは当然です。
オピニオン面では、コンビニ、現金自動出入機(ATM)、駅、路上、学校など街中のあらゆるところに設置されている監視カメラについて識者が論じています。龍谷大学教授の浜井浩一さん(写真)は、地域や家族の絆が弱まって人間関係での監視がうまく機能しなくなり、その代用として監視カメラが求められるようになったと指摘。「『共謀罪』に賛成する人が多いのも、共通するところがあります。監視カメラや『共謀罪』で、外部から来る犯罪者や不審者を排除できるならいいじゃないか、という感覚」と言っています。
小説家・脚本家の太田愛さんは、「テロに対する不安を含めて、安全を確保するためには監視が必要だという考え方が、社会に浸透しつつある」「監視に気持ち悪さを感じても、
無辜(むこ)の人間が犠牲になることと、自分の気持ち悪さ、どちらを選ぶのかと迫られるようで反対しづらい」と話しました。
決めるのは捜査機関
一方で太田さんは、こうも指摘します。
「『監視されても別にやましいところはない』という感覚もあるでしょう。しかし、何が『やましい』かを決めるのは国民ではなく、かつての『治安』(治安維持法)と同じく国家であるということは、覚えておく必要がある」
政府は「組織的犯罪集団」について、「テロ集団や暴力団、薬物密売組織など犯罪の実行を目的に集まった団体に限られる」と説明しましたが、「正当な目的で結成されても、性質が一変すれば対象になる」とも言っています。つまり、捜査当局の判断次第ということです。
萎縮せず考えて
社会面の記事で、作家の高村薫さん(写真)はこう語っています。
「テロに限らず、あらゆる捜査で国民の日常生活を監視できるようになる。捜査機関による
恣意的(しいてき)な監視が広がります。有権者は監視されているということを忘れないことが大切です。それで萎縮するのではなくて、真剣に自分のこととして考えるべきです」
いずれも、この法律の本質について考えさせられる言葉です。捜査当局がどう運用するかについてはメディアがウォッチしなければなりません。今後のニュースに注目してください。そして、みなさん自身も「安心・安全のために国家による監視が強化されること」について、自分の問題として考え続けてほしいと思います。
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