2017年02月21日

子どもを事故から守れ! 製品づくりの国際規格「ガイド50」

テーマ:医療・健康

ニュースのポイント

 赤ちゃんや小さな子どもは、ふと目を離したすきに思わぬことをします。おもちゃを口に入れて誤って飲み込んでしまったり、ベッドの柵を乗り越えて床に落ちてしまったり。昨日の「今日の朝刊ニュース★あらもーど」でも取りあげた「ヒヤリ・ハット」経験は、子育てにはつきもの。どんなに気をつけていても四六時中見張っているわけにもいかず、リスクを完全にゼロにすることはできません。
 最近では、子どもの事故防止のため、製品の安全基準を強化しようとする動きが出ています。昨年末は、子どもを守るための国際規格「ガイド50」が、日本国内基準のJIS(日本工業規格)にも採用されました。ガイド50はまだ認知度が低いですが、今後はJISを通じて浸透していくかもしれません。育児用品・玩具メーカー、教育・保育関係への就職を考えている人は、製品・サービスの安全基準がどうなっているか、考えるきっかけにしてみてください。(あさがくナビ副編集長・山口 真矢子)

 今日取り上げるのは、生活面(29面)の「子ども守れ 製品づくりに新規格/発達に応じ、大人と異なる対策を」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。

子どもの事故、成長ごとにリスク増

 子どもの事故は、成長にしたがってリスクが増えていきます。生まれた頃はねんねだけだった赤ちゃんも、生後4カ月ぐらいになると手に触れるものを握ってなめるようになります。やがて寝返り、ハイハイ、つかまり立ちができるように。この頃は寝具などによる「窒息」や、ベビーベッドなどからの「転落」が怖いです。1歳過ぎて歩けるようになるとさらに行動範囲が広がり、階段やいすから「転落」したり、「転倒」して家具に頭をぶつけたり。歯ブラシをくわえたまま走って転び、喉やほおに刺さる例も報告されています。小さな子どもは「誤飲」も多いです。おもちゃの付属品、ボタン電池、硬貨、小さなボール・・・もし気管に詰まったら命に関わります。国民生活センターの調査によると、0~2歳の「誤飲」事故の原因は、電池、たばこ、医薬品類が多いそうです(図参照)。
 小学校になれば大丈夫かと思うと、そうでもありません。2015年にはドラム式洗濯機の中に入った7歳の男の子が窒息死するという痛ましい事故があり、メーカー側の責任が議論になりました。

製品の安全基準が見直された例

 日本語では「不慮の事故」という言葉を使いますが、この言葉は「防ぐのが難しい」というニュアンスが強いですね。でも欧米では、子どもの事故は「科学的に分析し対策を講じれば予防できる」という考え方が定着してきています。ガイド50にも同じ考え方が含まれています。ということは、製品によって起きる事故の場合は、原因を正しく分析し、製品を改良すれば防げるということです。
 実際に、日本でも製品の安全基準が見直された例がいくつもあります。たとえば赤ちゃんを抱っこする時に大人が使う「抱っこひも」。大人が前かがみになった時などに、赤ちゃんが抱っこひもからずり落ちる事故が多発しました。そのため、2015年に安全を保証するSGマークの基準が改定され、商品化の条件が厳しくなりました(図参照)。
 ちょっと前ですが、2011年には、「使い捨てライター」の安全基準が厳しくなりました。それまで子どもの火遊びによる火事が後を絶たず、繰り返し注意を呼びかけても一向に減らなかったためです。最近の使い捨てライターは、点火レバーが固かったり、同時に二つ以上の操作をしないと使えなかったりと、子どもの力では簡単に点火できない設計になっています。

「傷害の防止は社会全体の責任」

 ガイド50では「傷害の防止は社会全体で共有すべき責任」という考えが示されています。子どもの事故が起きると、親や家族は「自分の不注意のせい」と罪悪感を持ち、誰にも言わないので情報が家庭内に埋もれてしまいがち。しかし、予防のためには情報も「社会全体で共有するべき」なのです。
 日本は今まで子どもの事故死の情報を、複数の官庁がバラバラに集約していましたが、今後は消費者庁に一元化して情報を解析し、予防策を講じていこうとしています(図参照)。
 また、ガイド50では「子どもは体の小さな大人ではない」「子どもの年齢や発達に応じた行動について知ることが大事」とも示しています。たとえば0歳から3歳までは何でも口に入れ、1歳から4歳になると物を投げることを覚えます。洗濯機などの狭いスペースに入りたがるのも子どもの特性です。子ども目線に立ち、大人の事故防止策とは別の対策を考えねばならないのです。

子ども向けだけではなく、あらゆる製品に配慮を

 ガイド50では、こんなことも指摘しています。「子どもの安全は、子ども用品に限定して考えるのではなく、子どもが接触する可能性がある全ての製品・サービスを対象にするべきだ」と。つまり、この問題に関係あるのは、子ども向け製品のメーカーや保育・教育関係だけではなく、あらゆる業界が含まれるとうことですね。安全対策のために製品を改良すれば、当然コストがかかり価格も高くなります。製品を開発する側は「安ければ安いほど売れるからいい」ではなく、「多少コストをかけても安全で付加価値の高いものをつくろう」というマインドが必要です。命より大切なものはないのですから。


※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから。

アーカイブ

テーマ別

月別