ニュースのポイント
日立製作所と住友商事グループが、尿から乳がんや大腸がんを見つける方法を開発しました。実用化されれば、多くの人のがん早期発見につながる画期的な技術です。開発したのが医療系の会社ではなく、大手電機メーカーと総合商社の子会社であることにも注目してください。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、総合面(5面)の「大腸・乳がん 尿から発見/日立など方法開発/含まれる老廃物、分析」
記事の内容は――日立製作所と住友商事などは14日、尿に含まれる糖や脂質など老廃物の分析から乳がんや大腸ガンを見つける方法を開発したと発表した。自宅で採取した尿を検査機関に送ってもらい、がんの早期発見につなげる試みで、数年以内の実用化を目指す。健康な人、乳がん患者、大腸がん患者各15人の尿を分析し、約1300種類の糖や脂質のうち健康な人とがん患者で含まれる量に違いがあるものを探した結果、約10種類を比較すれば見分けられることがわかった。日立・基礎研究センタの坂入実チーフサイエンティストは「現在のがん検査は医療機関で受ける必要があるが、尿からがんを見つけることができれば負担も少なく、検査機会も増やすことができる」と話している。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
現在、早期発見のためのがん検査は血液検査が主流ですが、病院に出向かなければならず、医療機関の少ない地域では受ける機会が限られます。自分で尿を取って送るだけなら、誰でも簡単にがん検査を受けられるようになります。がんは死因のトップですから、実用化されれば多くの人の命を救うことになるでしょう。
今回の研究は、まず日立が尿によるがん検査に着目して基礎技術の研究を推進。さらに住商グループが協力して尿検体の解析を進めたそうです。なぜ大手電機メーカーと商社なのでしょう。
医療機器市場に日立、ソニー、三菱重工といった電機・重工メーカーが進出していることは前にも書きました。収益の柱だった家電が大きな成長を見込めない一方、医療機器は先進国の高齢化や新興国の経済成長で市場規模が拡大し、2013年の40兆円弱から2018年には約50兆円になるとみられているからです。不正会計問題で経営立て直しを迫られた東芝が、高収益をあげていた医療機器子会社「東芝メディカルシステムズ」のキヤノンへの売却を決めたのは記憶に新しいところです(3月10日の今日の朝刊「東芝の医療子会社をキヤノンが買収へ 業界地図の変化に注目!」参照)。
日立は機器の開発にとどまらず、医療の研究までしているんですね。日立のHPを見ると、研究開発グループの研究者は2600人。その中に「基礎研究センタ」があり「物性科学、情報科学、生命科学、フロンティア」の研究に取り組んでいることがわかります。
一方の住商グループで中心になったのは、100%子会社の住商ファーマインターナショナル。同社の採用HPにはこう書いてあります。
「グローバルネットワークを駆使し、国内外の製薬企業・ベンチャー企業・研究機関に対して、創薬研究から医薬品生産段階まで一貫した質の高いサービスを提供し、医薬品産業に寄与することを目指す専門商社です。当社のビジネスは、薬を必要とする方々や、医療従事者と直接、接する機会は殆どありません。しかし私達は、薬を開発する研究所、製造する企業、生命の神秘を解き明かそうとする研究者の皆様のサポートを通じて、医薬品業界、医療業界全体の発展に貢献すること、それは『人類の健康』の実現につながる……そのように信じ、日々『ワクワク』とした思いで仕事をしている専門家集団です」
商社は実に多様な事業を手がけていますが、医薬系への取り組みの一端を知ることができます。
今日のような記事から業界研究を進めると、新たな発見があって視野が広がるとともに、企業への理解が一気に深まりますよ。
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