2016年06月16日

舛添都知事辞職で考えるメディアの力と役割

テーマ:メディア

ニュースのポイント

 東京都の舛添要一知事が政治資金の公私混同疑惑で辞職を表明しました。豪勢な海外出張を問題視する新聞報道のあと週刊誌が疑惑を報じると、新聞やテレビには舛添氏関連のニュースがあふれました。テレビ番組で人気者になった舛添氏はメディアによって追い込まれた形です。メディアの力と役割について考えます。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、オピニオン面(15面)の「耕論・舛添氏だけが悪いのか」です。1面の「舛添氏『自らの不徳』/都知事21日付辞職」「転落 公私混同の果て㊤/語るほど世論反発 相次ぐ誤算」、2面の「時時刻刻・不信任案 断たれた延命」なども関連記事です。
「耕論」では、3人の識者が舛添氏だけの問題なのかとして問題提起しています。概要をまとめます。
◆「議会と政党も責任明確に」神戸大学准教授・砂原庸介さん 前回選挙で舛添氏を支援した自民党も公明党も責任をとろうとしていない。政党の責任があいまいになる原因は、首長と議員を別々に選ぶ二元代表制にもある。衆院、参院、首長、地方議員をまとめて選挙制度審議会などで議論すべきだ。今の制度では首長を支えてきた議会と政党の責任を明確にできず、新都知事になっても変わらない。
◆「『祭り』騒ぎ 報道は反省を」ジャーナリスト・江川紹子さん 舛添氏のクビをとることが目的になり正義漢ぶってたたきまくるテレビや新聞の報道にはげんなり。公私混同批判は当然だが、一刻も早く辞めさせなければならない問題なら、大手メディアはなぜ週刊誌の前に大きく報道できなかったのか。メディアの役割が権力監視というなら、それを果たせなかったことを反省すべきだ。
◆「人気投票にせず 政策見て」元東京都副知事・青山佾(やすし)さん 政治資金規正法はザル法。違反でなくても世の中(の意識)は変わる。舛添氏の意識も追いついていなかった。世界最大の自治体ともいえる東京のリーダー選びでは政策と人格を見極めることが大切。小さな県と同じ選挙期間では短すぎる。米大統領選は1年近くかける。都知事選も2、3カ月かければ都民も人柄と政策を理解できる。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

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 3人の意見は多様な視点を示してくれています。中でもメディアの役割に関する考え方に注目してみます。江川さんの批判を、朝日新聞を含む大手マスコミは真摯(しんし)に受け止めなければなりません。青山さんは、都知事選に2、3カ月かければメディアは候補者の「身体検査」(金銭トラブルなど適格性を調べること)ができ、「有権者は新聞やテレビ、ラジオなどのメディアを通じて候補者の政策と人柄を知ることができます。メディアの役割は重大です」と指摘しました。今まさに民主党のクリントン氏や共和党のトランプ氏の過去の言動や人柄が詳細に伝えられる米大統領選報道に接しているだけに、なるほどと思える意見です。

 一連の疑惑は民放のワイドショーが連日大きく取り上げました。1面の記事には「舛添氏の報道を一度やめたら、同時間帯の他局の番組に視聴率を奪われた。視聴率が取れる話題だった」という民放関係者の発言が紹介されています。政治家の疑惑について報じるのはメディアの大事な役割ですが、都民をはじめとする国民の関心が非常に高く、テレビにとっては「視聴率が取れるネタ」だったために過熱した面もあります。別の見方をすれば、視聴率に表れるようにメディアの力の源泉は国民の関心ですから、世論の高い関心、批判が舛添氏を辞職に導いたとも言えます。

 もともと舛添氏が世間で有名になったきっかけは、東大助教授時代に国際政治学者として出演したテレビ朝日の討論番組「朝まで生テレビ」でした。舌鋒鋭い論客として人気を博し、参院議員、厚生労働相を務め、都知事に転じました。世論調査で「首相にしたい政治家」のトップになったこともありました。メディアの力で世に出てメディアに追い込まれた舛添氏の辞職を機に、みなさんもマスコミやメディアの重要さや役割についても考えてみてください。
 なお、猪瀬直樹前都知事の辞職につながった医療法人グループからの資金提供問題は朝日新聞のスクープで発覚。この報道で朝日新聞社は2014年度の日本新聞協会賞を受賞しました。

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