ニュースのポイント
今年のノーベル医学生理学賞が東京工業大栄誉教授の大隅良典さん(71)=写真=に贈られることが決まりました。日本で25人目のノーベル賞で、受賞理由は「オートファジー(自食作用)の仕組みの発見」。細胞の中でたんぱく質がリサイクルされる仕組みを明らかにした功績です。オートファジーは、がんやアルツハイマー病などの新薬につながる研究です。関連する企業を調べてみましょう。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、1面トップの「大隅氏 ノーベル賞/医学生理学賞/細胞の新陳代謝 解明/病気治療 開発に道」、経済面(9面)の「オートファジー『新薬につなげる』/製薬業界歓迎」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。ほかにも各面に関連記事が載っています。
「オートファジー」って?
まずは「オートファジー」とは何かを押さえましょう。
呼吸や栄養の消化、生殖など生命のあらゆる営みに欠かせないのが、たんぱく質です。食事で補給できますが、それだけでは足りません。細胞が自分自身のたんぱく質を分解し、新しいたんぱく質の材料として再利用する仕組みがオートファジーです。病気の原因になる老朽化したたんぱく質などの不要物を掃除する役割もあります。
ギリシャ語の「オート(自分)」と「ファジー(食べる)」という言葉から命名されました。
がん治療に期待
大隅さんは「研究成果が数年単位で薬になるという短絡的な考え方はしないでほしい」と、長い目で見た基礎研究の大切さを語っていますが、就活生は産業界や企業への影響を考える必要があります。
今回の受賞決定をことさら歓迎しているのが製薬会社です。
経済面の記事によると、製薬大手のアステラス製薬は2014年から、英国の研究機関と共同で、オートファジーに関連した膵臓(すいぞう)がんなどを防ぐ抗がん剤の研究を始めています。オートファジーを制御する因子を見つけてがん細胞の増殖を防ぐことで、治療に役立てる研究です。
試薬大手のタカラバイオ(滋賀県草津市)は、数年前からオートファジーの働きを観察するための研究用試薬を販売しています。同社は「受賞で注目されれば、研究の裾野が広がる」(広報担当者)と期待を語っています。
老化予防にもつながる?
ほかにも研究用試薬の輸入販売や開発をしている企業があります。バイオ専門商社のコスモ・バイオ(東京都江東区)、バイオベンチャーの医学生物学研究所(名古屋市)などがオートファジー関連企業としてがぜん注目されています。
武田薬品工業やノバルティスファーマといった大手の薬にも、オートファジーを止めたり、活発化させたりすることがわかっているものがあり、研究が進んでいます。
オートファジーはパーキンソン病やアルツハイマー病、神経疾患などとも関係しているとみられていて、これから様々な病気の解明や治療法の開発につながると期待されています。
大隅さんは10年前の朝日新聞の記事で「オートファジーのしくみが解明されると、神経疾患の治療や老化の予防につながるだろう」と話しています。活性化が老化予防につながる可能性があるのです。「オートファジー」は今年のキーワードの一つになりそうです。
大隅さんは4日の記者会見で、きちんと食事ができていないことを「昨日の昼からオートファジー状態」と表現して笑わせました。こんな使い方がはやるかもしれません。難しい理論ですが、最低限ここで書いたことを押さえておけば、面接などで話題になっても少しは語れますよ。
※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから。