ニュースのポイント
日産自動車が
プラグインハイブリッド車(PHV)を初めて売り出します。傘下に収めた三菱自動車のシステムを利用します。日産・ルノー連合は三菱自動車がグループに加わったことで、世界の年間販売台数が1000万台近くになり、トヨタ自動車、ドイツのフォルクスワーゲン、米国のゼネラル・モーターズ(GM)のトップ3に迫っています。11月の国内新車販売では30年ぶりにトップになるなど、日産の攻勢が目立ちます。自動車業界の勢力図の変化と、各社の
エコカー戦略に着目します。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、経済面(9面)の「日産、PHV発売へ/傘下の三菱自の技術活用 エコカー多角化」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。
EV、HV、PHV、FCV
日産は今年、燃費のデータ不正事件で経営危機に陥った三菱自動車と資本提携し、傘下に収めました。今回のPHVは、両社の提携効果が具体化した最初のケースになります。
表を見てください。次世代エコカーには電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)があります(11月18日の今日の朝刊「マツダ、米国でEV販売へ/トヨタが協力、環境規制強化に対応」「マツダ、米国でEV販売へ/トヨタが協力、環境規制強化に対応」も参照)。新たな技術開発には多額の資金がかかるため、これまで社によって力を入れる分野に違いがありました。ここに各社の戦略が見えてきます。
30年ぶりに国内首位
日産は2010年に「リーフ」を発売するなど、EVに注力してきました。しかし一度の充電で走れる距離に限りがあることなどから、なかなか普及しません。そこで今年、まずはHV市場に参入しました。第1弾が11月に発売した「ノート」です。11月の販売台数が前年同月比2.4倍の1万5784台にのぼり、トヨタのHV「プリウス」「アクア」を抜いて日産車としては「サニー」以来30年ぶりの首位になりました。
日産は、ルノーと合わせれば日本ではトヨタに次ぐ自動車メーカーですが、実は国内市場では苦戦してきました。国内販売台数でみるとトヨタ、ホンダ、スズキに次ぐ4位から、2011年にダイハツ工業に抜かれて2012年以降5位が定着。シェアも2011年度の13.8%から2016年度上半期は9.2%に落ちていただけに、ノートの首位に日産は沸いています。
三菱自との提携の成果
プリウスなど従来のHVは車輪を動かす動力としてエンジンを使いますが、ノートのHVはエンジンは発電のためだけに使い、EVと同じようにモーターだけで走るのが特徴です。リーフで培った技術を生かしたそうです。
今回、さらに一歩進めてPHVを投入するにあたり、SUV「アウトランダー」でPHV市場をリードしてきた三菱自動車の技術を使うことにしました。「アウトランダーPHEV」の次期モデルに使うシステムを、日産のSUVにも搭載する予定です。PHV開発費を使わなくて済む日産には、資源をEV開発に集中させるねらいもあるようです。今年度内に技術移転の契約を終えるという段階ですが、日産の主力SUV「エクストレイル」などに搭載されそうです。
「HVのトヨタ」はEVに
これに対し、FCVを次世代エコカーの「本命」と位置づけてきたのがトヨタです。2014年に世界初の市販車「ミライ」を発売しましたが、これまでに2000台ほどしか売れていません。米国のカリフォルニア州は、2018年モデルから、トヨタが得意なHVを「エコカー」に認めなくなります。このため、トヨタは出遅れたEV開発を強化し、2020年をめどに量産化する方針に転換しました。「EVの日産」がPHVに取り組み、HVが得意で将来はFCVを主力と見定めるトヨタがEVに乗り出すという構図です。クリーンディーゼル車に強かったフォルクスワーゲンも昨年発覚した排ガス不正後、EVに軸足を移しました。
車は国によって売れ筋や環境規制が異なるため、どれか1種類だけでは世界市場に対応できません。まだどのエコカーが主流になるか見通せない中、世界の自動車メーカーはときに連携しながらエコカーの多角化を進めています。今後の各社の戦略に注目してください。
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