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ビール大手のアサヒグループホールディングス(HD)が、ベルギーの世界最大手アンハイザー・ブッシュ(AB)インベブから、東欧5カ国のビール事業を買収することで合意しました。買収額は73億ユーロで、日本企業による海外ビール事業の買収としては過去最大です。背景にあるのは、高齢化などによる国内市場の縮小。国内ビール大手4社は海外に活路を見いだして競っています。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、経済面(9面)の「アサヒ、東欧で8883億円買収/ビール製造・販売8社/『ドライ』現地生産も」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。
世界1位による2位買収の影響
買収するのは、チェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアの5カ国で事業展開するビールメーカー5社と販売会社など3社の計8社。いずれもABインベブが買収した英ビール大手SABミラー傘下の企業です。これが世界1位による2位の買収だったため、シェアが高い国では
独占禁止法(独禁法)に触れる恐れがあり、ABインベブは欧州などの会社の売却を進めてきました。ABインベブによるSABミラー買収については、昨年10月に
「ビールの世界覇権、日本メーカーへの影響は?」で書きました。今回のアサヒの動きはこの流れの一環です。日本企業による酒類事業買収では、2014年のサントリーHDによる米蒸留酒大手ビーム社買収(約1兆6500億円)に次ぐ規模となりました。
アサヒの売上高、キリンに迫る
チェコは1人あたりのビール消費量世界一の「ビール大国」。5カ国の販売量は、アサヒが日本で売るビール系飲料の1.5倍の規模です。買収先には日本でも主流のピルスナービールの元祖とされるチェコのブランド「ピルスナー・ウルケル」など各国の有力ブランドが多く、アサヒは高い収益を期待しています。加えて、チェコなど5カ国には11カ所の工場があり、自社ブランドのビール「スーパードライ」を生産して欧州各地で売り込むことも検討します。
アサヒは10月にも、ABインベブからイタリアの「ペローニ」、オランダの「グロールシュ」など、西欧のビール関係企業4社を約3000億円で買収したばかり。相次ぐ買収で、アサヒの売上高は2兆円を超え、医薬品なども含めて約2兆2000億円(2015年12月期)のキリンHDに迫ります。
「業界地図」で世界の動向調べよう
海外企業買収の背景にあるのは、国内市場の縮小です。発泡酒、第3のビールも合わせたビール系飲料の出荷量は11年連続で減り、ピークだった1994年の4分の3に落ち込んでいます。高齢化、若者のアルコール離れが進み、ワインなどお酒同士の競争も激しくなったためです。そんな中で会社が成長するには、海外の企業を買収して取り込む戦略が不可欠。図にあるように、国内の大手4社とも積極的に海外展開を進めています。
キリンHD、サントリーHDは、売上高に占める海外事業の割合が3割を超えています。アサヒは国内のビール系市場で4割近いシェアを持っていますが、海外事業の割合は2015年12月期で13%。早いうちに2~3割に引き揚げる方針で、今後アジアでも買収を検討しているようです。
ただ、海外進出はリスクもつきものです。サッポロHDのベトナムでの事業は赤字が続き、キリンHDのブラジルでの事業は2015年12月期に巨額の損失を計上しました。今回、アサヒが投じた買収額は、中国のビール会社や欧米ファンドとの競争で当初見込みから大幅に増えました。13日の買収発表後、財務体質の悪化を懸念して、アサヒの株価は急落しました。今後の事業展開に注目してください。
ビール業界だけでなく、多くの企業が海外に進出し世界の企業と競争しています。世界の業界の動向や世界市場での日本企業のシェアなどを市販の「業界地図」などで調べてみましょう。業界研究の視野が広がりますよ。
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