ニュースのポイント
若者向けの商品を開発したり、携帯ショップで販売を始めたり、生命保険会社が若者の取り込みに懸命になっています。以前は「保険のおばちゃん」(生命保険のセールスレディ)が会社の中を自由に歩き、新入社員を見つけると言葉巧みに勧誘したものです。最近は、会社のセキュリティーが厳しくなったこともあり、あまり見られなくなってきました。ものの売り方には
「プッシュ型」と
「プル型」があります。販売員がお客さんに迫るのがプッシュ型で、お客さんが販売拠点に買いに来るのがプル型です。時代は、プッシュ型からプル型に動いています。依然としてプッシュ型だけで売っている会社は、やや時代遅れと考えていいかもしれません。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、8面の「生保、若者取り込み懸命/携帯ショップで販売/少額加入も可」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)。写真は、9月1日から保険の販売を始めた東京・世田谷のドコモショップでの光景です。
「保険のおばちゃん」は職場にいた
生命保険の売り方は大きく変わってきました。今の中高年のほとんどは、「保険のおばちゃん」にすすめられて加入したはずです。私の知る限り、1970年代から90年代半ばくらいまでは、大きな会社や役所には何人もの「おばちゃん」が出入りし、建物内を自由に動いていました。私も1980年代、農林水産省担当記者の時に、同省に出入りしていた「おばちゃん」と知り合って生命保険に入りました。その後自動車業界担当の時にも、記者クラブに出入りしていた「おばちゃん」に勧められ別の保険に切り替えました。
若者の数が多く、加入率が低かった時代には、彼女らのセールス力が生保の生命線でした。当時の各社の保険は、内容に大きな差がありませんでした。しかも、「入るのは当然」という空気はあっても、「今すぐに入らないといけない」という商品ではありません。だから、加入するにはきっかけが大事だったのです。そのきっかけを作るのが、「おばちゃん」の勧めで、プッシュ型営業が成功する典型例でした。
プッシュ型が時代に合わなくなった理由
この頃は、自動車などもプッシュ型営業が普通でした。営業マンが外回りをしながら、得意先や知り合いを通じて、時には飛び込みで、新しいお客さんを開拓するのが一般的でした。
こうしたプッシュ型の売り方が、時代とともにプル型に変わっています。職場に来る「生保のおばちゃん」が減ったのは、企業が社員以外の出入りを厳しくチェックするようになったことも要因かと思います。ただ、ほかにもプッシュ型の営業が時代に合わなくなった理由は挙げられます。
・各家庭の安全意識が高まり、訪問セールスを受けつけなくなった
・営業担当者のコスト(人件費や交通費)がかさむ
・営業担当者に精神的なタフさが求められる
・ウェットな人間関係が嫌がられるようになった
・個人情報を保護する考えが強くなった
・インターネットが発達した
などです。
就活生が注意深く見るべきポイント
このため、生命保険も自動車も、お客さんに販売拠点に来てもらったり、インターネットや電話で申し込んでもらったりするプル型の営業をするようになっています(写真は保険を扱うドコモショップの店内)。このやり方のほうが、コストはかかりませんし、トラブルも少ないでしょう。ただ、ビジネスは受け身の営業だけでもうかるほど甘い世界でないのも事実です。実態はプッシュ型とプル型が混在しているのが現状でしょう。
就活生の皆さんに覚えて欲しいのは、時代がプッシュ型からプル型に流れている、ということです。いまだにプッシュ型一辺倒だったり、プッシュ型を強化したりしている会社は、流れに逆らって無理をしているといえます。「経営内容は問題ないか」「社員の働き方に無理はないか」といった点を注意深くみたほうがいいと思います。
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