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社員が学生時代に借りた奨学金の返済を支援してくれる会社が注目されています。いまや2人に1人の学生が奨学金を借りていますが、卒業後の返済が大きな負担となって延滞が社会問題化しています。そんななか、企業には目立つ制度で優秀な人材を確保する狙いがあります。それだけで就職先を選ぶ人はいないでしょうが、企業選びの際の魅力的な要素の一つにはなりそうです。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、経済面(8面)の「社員の奨学金返済 支援/人材確保狙う・延滞解決の一助?」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
今の奨学金、実態は「学生ローン」
まず、日本の奨学金の実態について――。文部科学省が所管する日本学生支援機構の奨学金の2015年度の利用者は134万人で、10年間で35万人増えました。学費が上がる一方、親の収入が減ったためです。2015年度末の3カ月以上の延滞者は16万5000人で全返済者の約4%を占めます。労働者福祉中央協議会の調査では、奨学金の借入総額は1人あたり平均312万9000円で、月の返済額は1万7000円だといいます。
奨学金は本来、出身による格差を改善して、教育の機会均等を実現するための制度です。でも、日本の場合、国の奨学金制度は貸与型だけで、返す必要がない給付型はありません。先進国の中では異例です。奨学金とは名ばかりの「学生ローン」「教育ローン」との批判が強まり、安倍政権が掲げる「1億総活躍社会」の中で文科省が来年度予算に「給付型奨学金」を要求した段階です。
手当や一時金で支援
給付型奨学金が実現するのはまだ先ですから、いま貸与型奨学金を利用している人にとっては、一部でも返済を「肩代わり」してもらえたら助かりますよね。今日の記事から具体例を紹介します。
◆不動産のシノケングループ(福岡市) 来春入社する社員を対象に、奨学金返済を支援。5年間、月の返済額の5割を手当として支給。10月からは入社5年未満の社員も対象に。
◆ブライダル業のノバレーゼ(東京) 来年、44人の社員に初めて支給する。勤続年数5年と10年の社員に、それぞれ上限100万円の一時金を出す。
シノケンの役員は「優秀な人材の確保も目的の一つ」と語っています。「売り手市場」が続く中、学生にPRしようという狙いです。企業にとっては、こうした手当や一時金という形で支給すれば、給与水準を上げるよりは負担が少なくてすむメリットもあります。
ほかにも、IT関連のクロスキャット(東京)、眼鏡チェーンのオンデーズ(東京)などが奨学金返済支援制度を導入しています。
実現するか?「給付型奨学金」
記事の最後には、専門家の「奨学金返済が若い人に重くのしかかっている現状が問題であり、まずは給付型の導入など制度の改善を進めるべきだ」(奨学金問題に詳しい中京大の大内裕和教授)とのコメントが載っています。
給付型奨学金の実現は、今年の参院選で与野党ともに公約に掲げたテーマです。これから本格化する来年度の国の予算編成で実現するかどうか。実現しても、支給対象が少なければ格差縮小への効果は小さいでしょう。今後の議論に注目してください。
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