ニュースのポイント
三菱東京UFJ銀行がスマートフォンで「本人確認」をするシステムをつくり、近く運用を始めます。スマホだけで預金口座を開設し、現金を引き出せるようになります。指紋や顔などの生体認証で確認するため、偽造の恐れがある印鑑やキャッシュカードより安全性が高まるとの判断です。あらゆる機能をスマホに一元化する流れは世界で進んでおり、「スマホが私を証明する」時代がやってきます。便利になりそうですが、スマホをなくしたり故障したりしたら、自分を証明できなくなってしまいます。リスクも含めて考えてみましょう。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、1面トップの「スマホで引き出し 三菱UFJ導入/18年春 大手行で初/本人確認印鑑不要 口座開設は今秋」と経済面(6面)の「スマホで本人確認 加速/生体認証が高機能化」(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
印鑑もカードもいらない生体認証
三菱UFJは、今年9月からスマホで口座を開設できるようにし、2018年春にはカードなしでスマホだけで現金自動出入機(ATM)から現金を引き出せる「カードレス」サービスを大手行で初めて導入する計画です。カードレスサービスの流れは上のイラストを見てください。専用アプリに登録するとスマホをカード代わりにでき、スマホが「身分証明」の役割を果たし、定期預金の解約や住所変更などの窓口での手続きやサービスも印鑑なしでできるようになります。
三菱UFJにとっては、いま約3800万枚にのぼるカードがスマホに置き換わっていけば、大幅にコストを削減できるでしょうし、本人確認のための印鑑が不要になれば手間ひまも省けそうです。
カギは生体認証技術
背景にあるのはスマホのセキュリティー技術の飛躍的な向上。経済面の記事によると、センサーで読み取った指紋や、カメラで撮影した顔や目の特徴で個人を識別する生体認証は、米アップルのiPhoneと米グーグルのアンドロイドの2大陣営が技術開発でしのぎを削り、高機能化が進んでいます。日本では、携帯最大手のNTTドコモが昨年5月から、料金明細や決済サービスのログイン時に指紋や目の
虹彩(こうさい)による本人認証を開始。他にもネット通販サービス、クレジット決済、コンサートのチケットレスなどへの導入が進みそうです
(図参照)。マイナンバー制度への応用も計画されています。
スマホにあらゆる機能が一元化されれば、たくさんのカードや印鑑を持ち歩かずにすみ、便利になります。生体認証はパスワードや暗証番号のように盗み取られる心配はなく、スマホをなくしたりしても他人に悪用されるリスクも減ります。ただ、なくしたり故障で動かなくなったりすれば、取引や手続きができなくなります。爆発的な人気の「ポケモンGO」でスマホの充電池の売れ行きが数倍になったとの報道があります。電池切れでゲームができなくなるだけなら我慢すればいいでしょうが、自分を証明するものが使えなくなったら大変です。大きな災害で通信ネットワークが途絶えたら、システムそのものがサイバー攻撃などでダウンしたり、改変されたりしたら……。
情報一元化には怖さも
日テレ系で日曜夜に放送されているドラマ「そして、誰もいなくなった」では、マイナンバーを模した「パーソナル・ナンバー」を他人に乗っ取られ、「存在しない人間」になってしまった男を藤原竜也さんが演じています。
「スマホが私を証明」する時代には、情報の一元化の怖さも感じないわけにはいきません。
こうしたIT(情報技術)を駆使した新しい金融サービスやビジネスを「フィンテック」と呼びます。ファイナンス(finance=金融)とテクノロジー(technology=技術)を組み合わせた造語です。就活では、金融、IT、流通業界などへの影響、消費者、企業双方にとってのメリット、デメリットを考えることが必要です。
フィンテックについては「金融とIT志望者必見!「フィンテック」は銀行の敵か味方か?」(2015年11月26日の今日の朝刊)を読んでみてください。