2016年06月28日

英EU離脱!なぜ市場が動揺すると円高になるの?

テーマ:経済

ニュースのポイント

 英国の国民投票で、EU(欧州連合)離脱が決まり、世界経済の混乱が続いています。今日28日も日経平均が一時1万5000円を割り込みました。円相場も1ドル=101~102円前後と円高傾向が続いています。世界経済が動揺するとなぜ円高が進むのでしょうか。(副編集長・奥村 晶)

円高基調で企業の収益が悪化

 今日取り上げるのは、総合面(3面)の「円高基調 企業が懸念/為替介入、当面は困難か/英離脱決定 市場の動揺続く/ダウ一時300㌦下落」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
 英国のEU離脱決定で、日本国内の主要企業の想定レートより円高基調が続き、採算悪化が懸念されています。アベノミクスは、金融緩和による円安で輸出企業の収益を増やし、株価を上げて、投資や消費を促してきました。2015年は1ドル=120円台で推移していましたが、その効果が徐々に薄れたころに、追い打ちをかけたのが今回の「EUショック」でした。24日には一時、2年7カ月ぶりに99円台をつけ、株価も暴落しました。

 主要企業の2017年3月期の想定レートは1ドル=105~115円。115円を想定していた企業はもちろん、2015年より多少の円高になると予測して105円としていた企業にとっても、想定を超える収益悪化が待っています。

なぜ、借金大国ニッポンの通貨が「安全」?

 そもそも、世界経済が混乱すると、なぜ円高になるのでしょうか。今回の記事の中にも「先行き不安から『安全資産』の円が買われやすい状況が続いている」という表現が出てきます。国民総生産(GDP)の約2倍、1000兆円もの借金がある日本の通貨がなぜ“安全”なのでしょうか。そのポイントが「対外純資産」。企業や政府、個人が外国に持つ資産から、外国から国内への投資(負債)を差し引いたものです。この残高のトップ5は、日本、中国、ドイツ、スイス、香港。そのうち国際通貨としての信頼を得ているのは、円、ユーロ、スイスフランの3通貨です。しかし、今回のEUショックで、ユーロは「震源」、いわば不安材料の当事者になってしまいましたから、安全資産にはなりえません。

先手を打ったスイス

 世界の国を見渡してみると、平和な国ばかりではありません。ひとたび紛争でも起きればその国の通貨の価値は下落し、経済発展もストップしてしまいかねません。日本は政情が安定していて、突然のクーデターやテロで相場が下落するという危険性はあまりありません。一方、スイスは英国の国民投票前から、為替介入の用意があるとほのめかしていました。「みなさんが買っても、こっちが大量にばらまいて価値を下げますよ」ということです。

消去法で「最強通貨」になった円

 日本だってスイスのように為替介入すればいい、と思うかもしれません。しかし、一つの国だけで為替相場を変えるためには莫大な元手が必要です。1ドル=75円台だった2011年10月には、1カ月間で9兆円を超えるドル買い円売りをして、円安に誘導したこともあります。しかし、いまのアメリカは自国の景気の足を引っ張りかねない「ドル高」に対して厳しく警戒しており、日本は為替操作上の「要監視国」5カ国に指定されています。円高を止める手立てが限られていることを見越して、消去法で円が選ばれているのです。

いつ使う?「伝家の宝刀」

 1ドル=100円前後の段階で、一方的な為替介入をすることは、アメリカはもちろん、他の国にもなかなか理解されにくいでしょう。為替介入は「伝家の宝刀」ですから、使える回数も限られています。政府・日銀がどう動くかは、今後の為替相場にもよりますが、とりあえず今すぐ大規模な為替介入に踏み切る可能性は低い、と市場からはみられているのです。

 世界経済が混乱するとなぜ円高になるのか、その仕組みを理解していれば、「EUショック」に限らず、世界経済の動向がいかに日本の景気と深く関わっているか、腹落ちするでしょう。EU離脱の就活への影響については、6月14日付「今日の朝刊」で詳しく説明していますので、こちらもぜひ目を通してください。

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