ニュースのポイント
石油元売り大手の出光興産と昭和シェル石油の合併に、出光の創業家が待ったをかけました。統合や合併は業界で勝ち抜くために競争力を強める戦略ですが、基本方針や企業文化の違いがあつれきを生むこともあります。統合や合併といった業界再編は経済界では最大級のニュースです。その業界の置かれている事情がよくわかるだけでなく、各企業の社風なども報じられますよ。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、経済面(8面)の「昭和シェルとの経営統合/出光創業家、合併は反対/『企業体質違う』主張」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
「統合」「合併」ってなに?
「経営統合」は大きな意味では経営を一体化することですが、二つ以上の会社が共同で持ち株会社(ホールディングス=HD)を設立し、その傘下に入るときによく使われます。「合併」は資本や組織も一体化して一つの会社になること。最近よく聞くM&A(Merger and Acquisition)は「合併・買収」を意味し、買収はある企業が別の企業を買い取って傘下に置くことです。
創業家はなぜ反対? どうなる?
今回の「出光+昭和シェル」のケースでは、両社は2015年7月に「経営統合」に合意した後、統合の方式として「合併」することで合意していました。出光の創業家は、昭和シェルを傘下に収める形の統合はやむを得ないが、合併はだめだと主張しています。理由は①経営理念や社風が違い効率的な経営ができなくなる②出光はイランと、昭和シェルはイランと対立するサウジアラビアと関係が深い――などを挙げています。ただ、合併で全体の株式数が増えて創業家の影響力が小さくなることを懸念しているのではとの指摘もあります。
臨時株主総会で合併の承認を得るには議決権の3分の2以上の賛成が必要。創業家は出光文化福祉財団など公益財団を含めて33.92%を持つと主張しますが、出光側は財団の持ち株は議決権を行使できないとしていて、創業家の議決権率は21.2%にとどまるため合併は可能としています。どうなるかはまだ見通せません。
企業文化・社風の違い?
出光は1911年に出光佐三氏が創業。定年も労働組合もなく社員を家族とみなす「大家族主義」を掲げるユニークな経営で知られています。佐三氏をモデルにした小説「海賊とよばれた男」(百田尚樹氏著)はベストセラーに。一方の昭和シェルは、昭和石油とシェル石油が合併して1985年にできた会社です。
統合相次ぐ石油業界の事情は?
石油元売り会社は、原油を輸入してガソリンや軽油、重油などの石油製品を生産・販売します。高度成長期には十数社ありましたが、価格競争の激化や欧米系の国際石油資本(メジャー)による世界的な業界再編もあって、統合が進みました。2000年代になって人口減少や省エネの普及でガソリンの需要が減り、さらに統合が加速。今は図のように大手5社に集約されました。
業界最大手のJXHDと東燃ゼネラル石油も2017年4月に統合する予定。実現すると、売上高は「出光+昭和シェル」の2倍の規模になります。
こうしたニュースからは業界や企業の最新事情を知ることができます。人口減少とグローバル化が進む時代、統合、合併はどの業界でも起こる可能性があります。志望業界、企業の動きに注目してください。
※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから。