2016年06月24日

英国のEU離脱で、金融のお勉強!(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:国際

ニュースのポイント

 イギリスが欧州連合(EU)から離脱するか残留するかを決める国民投票が行われました。この記事は、開票作業が進んでいる最中に書いています。まだ結果はわかりません。読んでいる皆さんは結果が分かっているでしょうが、ここは結果のいかんにかかわらず、離脱の場合、残留の場合の金融市場に与える影響について考えてみましょう。金融市場というのは、経済をしっかり勉強した人以外にはやや難しいかもしれませんが、会社に入れば否が応でも関心を持たざるを得ないところです。ある事象に対して金融市場がどう動くかを予測できるようになれば「できる社会人」になることができます。イギリスの国民投票を練習問題に金融市場の勉強をしてみましょう。(朝日新聞教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、経済面(13面)の「英国の選択/金融市場 高まる緊張/離脱でポンド安懸念も/シティーは戦々恐々/市場 残留織り込み?」です。
 記事の内容は――英国のEUからの離脱を問う国民投票が23日始まり、世界の金融市場で緊張が高まっている。英金融街シティーでは、離脱決定時の急激なポンド安を懸念する声が上がり、日本では外国為替証拠金取引(FX)の一部で取引を制限する動きが出ている。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

(写真はマンチェスターでの開票作業)

 金融市場とは、為替市場株式市場、債券市場(国債や社債を金融機関などで売買すること)などを総称しています。市場の主なプレーヤーは、世界の金融機関や巨額のお金を運用しているヘッジファンドですが、お金の余っている一般の会社や大金持ちの一般投資家もプレーヤーの一員です。ここで、ドル、円、ポンドなど為替の値段や株や債券の値段も決まります。プレーヤーは、社会を動かす出来事があると、経済に与える影響を考え、それぞれの価格を予想して、売ったり買ったりします。みんな経済のプロのため、大きな方向性は同じになることがほとんどです。その方向性がすぐにわかるようになることが、ビジネスパーソンにとっては大事なことなのです。

 イギリスの問題に引きつけて考えてみましょう。EUからの離脱派が勝つと、イギリスの通貨であるポンドの価値は下がります。大陸側ヨーロッパとの貿易が細ることでイギリスの経済が悪くなると考えられるためです。一方で、高くなる通貨の代表と考えられているのが円です。もともと実態以上に円安になっているという認識があるうえ、世界の中で相対的に不安材料の少ない日本経済に通貨が避難してくるからです。ですから、ポンドやユーロに対してだけでなくドルに対しても円高になるとみられています。

 株価はどうでしょう。イギリスの株価は下がります。おそらく世界中の株価が下がるとみられます。イギリスの経済が悪くなることが世界の経済を悪くするという連想が働くからです。日本の株価は、そうした中で円高が加わります。円高は輸出企業にダメージになりますし、物価も下落させる方向に働きます。デフレからの脱却をうたうアベノミクスには大逆風ですから、世界の株価の中でも日本の株価の下がり方は大きいと予想できます。

 債券市場は微妙なところもありますが、教科書通りなら、イギリスの債券は価格が下がって金利が上がるでしょう。債券の償還に不安が生まれるからです。一方で、アメリカや日本の債券はどうでしょう。日米は比較的安心だと日米の債券が買われて、一段と債券は高くなり、金利のマイナス幅は広がると考えるのが普通かもしれません。ただ、日本の場合は国内総生産(GDP)の倍になる借金を抱えていますので、世界的大不況になったときに、日本国債への不安が噴き出してしまって、債券価格が暴落して、金利がはね上がるという逆のケースもないとはいえません。

 一方、残留となると、金融市場の緊張は一気に緩みます。離脱の可能性も織り込んで安くなっていたポンドは値上がりし、円はポンド、ユーロ、ドルのいずれに対しても安くなるでしょう。株価は安心感から世界的に上がるでしょう。債券市場も大きな変化はないでしょう。

 金融市場は、世界中のお金とつながっています。イギリスがくしゃみをすると、世界中が風邪をひくという構造になっています。私は、日本では8年おきにバブルが生まれ、バブルが崩壊していると考えています。1992年に日本のバブルが崩壊し、2000年にはITバブルが崩壊し、2008年にリーマンショックが起きました。そして今年はリーマンショックから8年後です。イギリス発の大ショックが起きなければいいのですが。この記事を書いている最中に結果が出るかと思っていましたが、まだ結果は出ていません。さてどうなることやら、です。

追伸 24 日の午後12時44分、NHKが「離脱 多数確実」というニュース速報を出しました。記事では「離脱すると大変だ」と書きましたが、心のどこかでイギリス国民はそんな結果を求めないだろうと思っていました。でも、結果は離脱のようです。これは本当に大変なことになりそうな気がします。

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