2016年03月10日

東芝の医療子会社をキヤノンが買収へ 業界地図の変化に注目!

テーマ:経済

ニュースのポイント

 東芝の医療機器子会社「東芝メディカルシステムズ」を、キヤノンが買収する方向になりました。富士フイルムホールディングス(HD)、コニカミノルタとの三つどもえの競争に勝って、傘下に置くことになりそうです。いずれも、もとはカメラやフィルムの会社ですが、医療機器分野に力を入れています。電機、精密機器、医療機器などの業界地図の変化に注目してください。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、経済面(8面)の「キヤノン、東芝メディカル買収へ/7000億円超で全株取得/医療を成長の柱に」です。
 記事の内容は――不正会計問題を受けて経営立て直しを進める東芝は9日、医療機器子会社「東芝メディカルシステムズ」の売り先についてキヤノンに独占交渉権を与えると発表した。買収額は7000億円超になる見通し。この分野では国内最大級のM&A(企業の合併・買収)となりそうだ。キヤノンは、2020年に売上高5兆円という成長戦略を掲げる。15年12月期は3兆8000億円だが、主力のカメラや複合機・プリンターなどは大きな伸びが期待できず、今回は「千載一遇のチャンス」(田中稔三副社長)だった。今の医療機器事業の売上高は眼科用カメラなど1000億円弱。買収で、将来は医療機器を成長の柱に据えたい考えだ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 東芝の不正会計問題は知っていますね? 2014年までの約7年間に2000億円超の利益の水増しをしていたことが昨年わかり、歴代3社長ら経営陣10人が引責辞任しました。2016年3月期の純損益は7100億円の赤字になる見通しで、経営を再建するために事業の見直しを進めています。東芝メディカルの医療事業は好調で、一時は電力、半導体に並ぶ成長事業の「3本柱」の一つに位置づけたほどでしたが、「早く確実に売れる優等生」(東芝幹部)だったために、早く資金を得るために売却することになりました。成長が期待されるとあって、当初は3000億~4000億円とみられていた売却額は跳ね上がり、7000億円超を提示したキヤノンが買う方向になったというニュースです。

 今回の売却で東芝の事業の柱は、原子力発電などの電力・社会インフラと半導体などのデバイス事業になります(上のグラフ参照)。東芝については、「東芝の大リストラで電機業界を知ろう」(2015年12月22日)、「日立と東芝の明暗なぜ?ライバルを比べよう」(8月19日)、「東芝不正 これからの対応策に注目」(8月22日)など「今日の朝刊」でこれまでも書いているので、復習してください。

 東芝メディカルは、CT(コンピューター断層撮影装置=上の写真)の世界シェアが2位、X線を使わない超音波診断装置MRI(磁気共鳴画像装置)など画像診断装置にも強みがあります。その最終的な入札で東芝メディカルを買いたいと名乗りを上げたのは、キヤノンのほかに、富士フイルムHD、英国の投資ファンド・ベルミラと組んだコニカミノルタの3陣営でした。いずれも、元来カメラやフィルムのメーカーなので画像には強みを持っていますが、そもそもは医療が主力の会社ではありません。各社のホームページなどで、創業以来の事業の変遷を見てみてください。これも大事な企業研究です。

 今回の買収では、最後は3陣営のうちキヤノンと富士フイルムの一騎打ちになりました。キヤノンは、まだ医療機器分野の規模は1000億円弱とあまり大きくありません。記事にあるように、主力のデジタルカメラと事務機器は市場が伸び悩んでいて、医療機器を成長の柱に据えたい考えです。一方の富士フイルムは、医薬品や医療機器を含むヘルスケア部門の売上高が約4000億円。2018年度までに1兆円に引き上げる目標を掲げています。CTやMRIはもっていませんが、診断画像の表示や分析といった「医療IT」分野では国内首位で、世界でも米国のゼネラル・エレクトリック(GE)に続く2位です。両社にとって、東芝メディカル買収がいかに魅力的かわかりますよね。

 当初、富士フイルムが有力との見方もありましたが、キヤノンが買収額を積み増したうえ、まだ医療分野の売り上げが小さく、事業の重複が少ないキヤノンのほうが独占禁止法の審査が短くてすみ、早めに決着するとの見通しが決め手になったようです。7000億円超という巨額に見合う果実を得られるかどうかはまだわかりませんが、東芝メディカルの売上高は約4000億円なので、キヤノンの1000億円弱と合わせると、画像診断装置では国内トップ級に躍り出ます。

 医療機器は、世界では米GE、ドイツのシーメンス、オランダのフィリップスといった欧米のメーカーが先行している市場です。しかし2013年に40兆円弱だった医療機器の市場は、先進国の高齢化や新興国の経済成長で2018年には約50兆円になるとの試算もあるだけに魅力的です。テルモのような専門メーカーだけでなく、日立製作所やソニーといった大手電機メーカーも力を入れています。しっかり業界・企業研究をすることをお勧めします。(富士フイルムについては2013年11月18日の今日の朝刊「富士フイルムの大変身 変われる企業の強さ」を読んでください)。

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