ニュースのポイント
内戦が続く中東シリアから、大量の難民が周辺国やヨーロッパ諸国に殺到しています。日本は島国ですし、中東と物理的距離は決して近くはありませんが、これまでに約60人が日本で難民申請をしています。しかし、現時点で難民として認定を受けることができた人は3人。シリアからの難民を含め、日本では昨年約5000人の難民申請がありましたが、認定されたのは、それ以前に申請した人の分も含めて11人です。割合にすると0.2%と、他国から日本が「難民に厳しい国」といわれる理由にもなっています。一方、難民受け入れに積極的なドイツの場合、昨年だけで10万人以上受け入れています。シリア難民が殺到している今年は、その数はさらに増加するでしょう。欧州連合(EU)では今後2年で難民12万人の受け入れを加盟国で分担するとしています。日本は今のように「対岸の火事」のままでよいのでしょうか。(副編集長・奥村 晶)
今日取り上げるのは、総合面(1面)の「『難民受け入れ 積極的平和主義の一部』/元国連難民高等弁務官/緒方貞子氏」とインタビュー詳報を掲載した国際面(9面)の「島国根性でやっていけるのか/人道的な考え方 広めないと/リスクの可能性 議論がない」です。
記事の内容は――緒方貞子・元国連難民高等弁務官は朝日新聞の取材に応じ、「難民の受け入れくらいは積極性を見いださなければ、積極的平和主義というものがあるとは思えない」と話し、日本政府の姿勢を改めるべきだと訴えた。1991年から2000年まで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトップとして難民問題に対処した緒方氏は「当時から日本に難民を受け入れてもらうのに苦労した。変わっていないのは情けない話だ」と指摘した。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
SNSで拡散されたシリア難民の男児の遺体の写真などをきっかけに、シリア難民について興味をもった人も多いだろうと思います。「難民」と「移民」。どちらもニュースや教科書などで見かけるは言葉ですが、実際に「その違いを教えて」と言われて答えることができるでしょうか。国際的なルールに基づいて説明すると、移民とは、自身や家族の将来の展望のために移り住もうとする人たち。いわば「自己都合」で住む国を変わる人のことです。一方、難民は、戦乱や、差別、迫害を逃れて自国から脱出した人です。ポイントは自国に帰還する場合に命の危険があるかどうかだと言われています。
日本の難民認定制度は欧米と違い、難民本人が自分が難民であることを立証しないといけないことや、提出書類が膨大であることなどが認定へのハードルになっています。良く言えば法律に忠実、悪く言えば杓子定規といえるかもしれません。緒方氏は、難民条約をベースに、「人道的な配慮」や「政治的な問題」などを加味して、より柔軟に対応することを求めているのです。日本はどうしてそこまで難民に厳しくしているのか。難民認定すると国際法で保障された保護を与える責任が国に生じ、受け入れた国の政府が相応のコストを負担しないといけない、という側面もあります。
一方、移民であれば、受け入れ国はその国の法律に基づいた処遇をすることが認められています。とはいえ、日本は移民受け入れそのものにも現時点では積極的ではありません。
「日本で稼ぎたい」「治安の良い国に住みたい」という移民を安易に受け入れてしまうと、言葉や文化の違いによる軋轢(あつれき)が生じたり、日本人の働き口が奪われたりしてしまう、という批判もあります。その一方で安倍政権では成長戦略の一つとして、労働力人口の減少を移民受け入れで補う、という政策も提案しています。政府の方針では年に20万人程度を想定しており、難民とは比較にならない大きな規模です。
安価な労働力としてなら移民を歓迎し、受け入れ国がより多くのコスト負担を迫られる難民は最小限に、という姿勢でいいのかどうか。今日の紙面には国際面(7面)に難民が殺到する欧州連合の対応についての記事もあります。
こういった白黒がはっきりつけられないニュースほど、グループディスカッションや小論文のテーマになりやすいです。難民を積極的に受け入れている国の現状と緒方さんの意見など、双方を読んで、ぜひ自分なりの意見を言えるようにしておきましょう。
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