ニュースのポイント
ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)が米国の排ガス規制を逃れるために不正なソフトを搭載したディーゼル車を売っていたという驚くべき不正が明らかになりました。さらに、欧州でも同様な不正をしていたことが分かりました。ほかの自動車メーカーにも、不正の疑いが出ています。世界で1、2を争う巨大自動車メーカーの不祥事だけに、巨大な問題になりそうな気配を感じます。世界経済だけでなく日本経済にも悪影響を与える可能性があり、就活生は要注意です。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、1面の「VW欧州でも不正/BMWにも疑惑報道」です。
記事の内容は――独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が米国で売ったディーゼル車に排ガス規制を不正に逃れるソフトを載せていた問題で、ドブリント独運輸相は24日、VWが欧州でも同様の不正をしていたことを認めたと明らかにした。ディーゼル車が多い欧州でも不正が発覚し、経営に大きな影響が出る可能性がある。ドブリント氏はほかの自動車メーカーも調べる方針を示した。一方、独自動車専門誌「アウトビル」は同日、国際的な調査機関による道路での試験で、独BMWのディーゼル車の排ガスからも欧州基準を大きく上回る規制物質が検出されたと報じた。BMWは「排ガス試験をごまかすことはない」と否定した。メルセデス・ベンツなどを展開する独自動車大手ダイムラーは「不正に制限する装置は使っていない」と声明を出した。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
これは大変な経済事件です。VWといえば、今年上半期の世界での新車販売台数が世界一になった巨大メーカーです。もともとヒトラーが「国民車構想」を描いて作った会社で、フォルクスワーゲンという言葉自体がドイツ語で「大衆車」という意味です。第2次世界大戦後、イギリスの管理のもとに再建され、やはり大衆車で大きくなってきました。ドイツにはたくさんの有名企業がありますが、世界の人に最もなじみのあるドイツ企業はフォルクスワーゲンと言っても過言ではないでしょう。
こうしたドイツを代表する会社が、排ガス規制を逃れるために不正なソフトを載せていたということですから、単なるリコール事案とは異なり、意図的で悪質です。そして対象車は世界で1100万台もあります。こうした車を回収して修理したり廃車にしたりする費用や米国から課される制裁金、ユーザーから求められる賠償金などを合わせると、損害は何兆円にもなると見られます。フォルクスワーゲンは、2014年の営業利益が約1兆7000億円ありますが、その利益は吹っ飛び、経営の屋台骨が揺らぐ可能性が高いと見られます。さらに、ディーゼル車を作っているほかのメーカーにも同様な不正があったとすると、影響はさらに広がります。
この問題の先行きにはまだ不透明なところがありますが、ドイツの経済に大きな悪影響があることは疑いがありません。好調だったドイツ経済がEU経済を支えているわけで、ドイツ経済の不調はEU経済の不調につながります。現在大きな課題となっているシリア難民の問題も、ドイツ経済が悪くなれば出口がますます見えなくなってきます。
日本への影響ですが、ライバルの失速を喜ぶわけにはいきません。VWに供給している部品メーカーは直接的な被害を受けますし、欧州経済の悪化が日本からの輸出の足を引っ張ります。何より、世界の自動車業界全体の信用失墜により、自動車全体の売れ行きに影響が出ることも心配されます。
ばれればこんなに大問題になる不正を、VWともあろう大企業がどうしてやったのでしょうか。まだはっきりしたことは分かりませんが、「世界で新車販売1000万台達成」を掛け声に猛烈に販売攻勢をかけていたことが背景にあると思います。ここ10年で販売台数を2倍にした裏には、「不正をしてでも売る」という姿勢があったと見られても仕方のない事態です。東芝の利益水増し問題をさらに悪質にしたガバナンス問題が横たわっている気がします。
就活生にとって気になる日本経済ですが、アベノミクスの行き詰まりなど、このところよくない材料が目立っています。このVW不正の悪影響もその一つに加わります。就職氷河期の氷が解けて3,4年になりますが、そろそろまた氷が張り始める予感もしてきます。遠い世界で起こっているような気のする問題も、自分と関わりがあるということに気づいて、関心を持つようにしましょう。それが社会人になるということです。
※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。