ニュースのポイント
アメリカでは、上場しない巨大なベンチャー企業が増えています。タクシー配車サービスのウーバーテクノロジーズや、個人の空き部屋をネットで仲介するエアビーアンドビーなどです。なぜ上場しないのかというと、金融緩和で投資家から資金を簡単に調達できるからということのようです。日本でも上場していない有名企業はあります。上場企業と非上場企業って、どこが違って、働く人にとってはどちらがいいのでしょうか。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、経済面(6面)の「非上場巨大ベンチャー続々/米シリコンバレー企業価値10億ドル超/ウーバー、Airbnb・・・/緩和マネー流入」です。
記事の内容は――創業から10年もたたずに企業価値が10億ドル(約1240億円)を超える巨大な非上場ベンチャー企業が、米国シリコンバレーで続々と生まれている。「上場せずに非上場のままで企業の成長をめざす」というのがシリコンバレーの新しい流儀になっている。
全米ベンチャーキャピタル(VC)協会などによると、2014年にVCが支援した新興企業の新規株式公開(IPO)は約120件。15年ほど前のITバブル期に比べると半分以下だ。ただ、起業の成功例が減っているわけではない。非上場のまま成長を続け、統計にあらわれない有力企業が数多くある。伝説の生き物になぞらえて「ユニコーン企業」と呼ばれる。
米調査会社のCBインサイツによると、11~14年に企業価値が10億ドルを突破し、ユニコーン企業に分類された新興企業の数は世界で79社。米国内だけで51社にのぼる。米国では、11年より前に成長した新興企業を含めると現在は70社前後あるとみられている。14年は25社がユニコーン企業の「仲間入り」をした。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
会社選びをするときに、上場企業か上場企業でないかを気にしますか。私はかつて、朝日新聞社を第一志望にしていましたが、「上場企業でないのはどうしてだろう」とちょっと心にひっかかりました。
日本でも有名企業なのに上場していない企業はあります。サントリー、竹中工務店、YKK、JTB,佐川急便、森ビルなどがそうです。朝日新聞社だけでなく新聞社はどこも非上場ですし、出版社も講談社、小学館、集英社の「御三家」はじめほとんどは上場していません。
こうした企業がどうして上場していないかを説明するには、その前に多くの企業はどうして上場するのかを説明した方がいいと思います。上場するメリットは、二つあります。一つは、少ないコストで資金を調達できることです。企業活動をするにはお金が必要ですが、株式や債券を買ってもらって調達する方法と銀行から借りる方法があります。前者の方法は、上場、つまり誰でも売り買いができるような市場に株式や債券が陳列されていないとできません。会社がこの市場に株や債券を売りに出して調達するお金のコストは、銀行から借り入れる場合より抑えられます。メリットのもう一つは、知名度と信用力が上がることです。上場するためには、売上高が水準以上であることや赤字企業でないことなどが求められます。つまり、情報を公開してしっかりした企業であることが証明できなければいけません。ですから、上場企業は証券取引所からしっかりした企業だというお墨付きをもらっていることになるのです。
上場していない有名企業は逆に、知名度や信用力がすでにあり資金繰りに困らない優良企業が少なくありません。さらに、証券取引所から細かく情報の公開を迫られるのをいやがる場合や、身内や古くからの株主以外の法人や個人が株を買って大株主になるのをいやがる場合もよくあります。有名非上場会社には創業家がオーナーとして君臨しているところが多いのは、そのためです。みなさんもよくご存じの吉本興業は上場企業でしたが、2010年に「経営判断を迅速化するため」という理由で上場をやめました。新聞社はちょっと特別で、特定の勢力に株を買い占められて報道が歪んでしまうことを防ぐため、株の譲渡を制限できると法律で定められています。
こうみると、一概に非上場企業は信用力が落ちるとは言えません。ただ、「いつでも上場できるのだが、信念で上場しない」といった会社はそう多くはありません。非上場企業のほとんどは、「上場したいが、まだできるだけの水準をクリアできないからしていない」のが実情だと思います。働く人にとっても、いいか悪いかは一概には言えません。非上場の有名会社には優良企業が少なくありませんし、株主を気にしないでいいため、社員の待遇はいい会社が多いと思います。また、成長を続けて今後の上場が期待できるような会社もあります。一方でオーナーの力が強いため、独特の社風の会社も多いように思います。
結論としては、上場企業なら比較的安心できるとは言えますが、非上場企業にも様々な形態があり、会社選びに際して上場しているかどうかはそこまで大きな問題ではない、ということでしょうか。ただ、その会社が上場しているかどうかを調べることで、会社に関する興味をより一層深めることもできると思います。
※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)