ニュースのポイント
プロ野球・北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手が14日の西武戦で、開幕から負けなしの6連勝を達成しました。打者としてもすでに2本のホームランを打つなど、投手と野手の「二刀流」をここまですばらしい形でこなしています。同日にオールスターゲームの開催概要が発表され、パ・リーグの指揮をとる福岡ソフトバンクホークスの工藤公康監督は記者会見で大谷選手の起用法について、全2試合のうち1試合目には投手で、2試合目には打者として使う考えを語りました。投手でも打者でも超一流をめざす大谷選手の二刀流には、張本勲さんから「投手一本でいけ」と「喝!」が入れられるなど、多くの解説者から批判の声が上がっていました。しかし、大谷選手も日ハムの栗山英樹監督も二刀流を崩さず、工藤監督もお墨付きを与えた形になりました。「二兎を追うものは一兎をも得ず」のことわざがありますが、実績で「二兎を追えるものは二兎を得た方がいいに決まってるじゃん」と思わせ始めた大谷はすごすぎます。(朝日新聞教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、スポーツ面(21面)の「崩れぬ大谷 無傷6連勝」につく「球宴で『二刀流』?」です。
記事の内容は――マツダオールスターゲームの開催要項発表があった14日、パ・リーグの指揮をとる工藤監督と、セーリーグの原辰徳監督(巨人)が記者会見に出席し、球宴での選手起用などについて構想を語った。選出が確実視される大谷について、原監督に「投げないときにどう使うかが見どころ」と突っ込まれた工藤監督は「1試合目は先発で、2試合目は守って打ってもらいたい」と笑顔で応じた。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
二刀流は、プロ野球の世界では常識外れだったのでしょう。入団時、「二刀流でやりたい」と表明した大谷にほとんどの評論家が「賛成できない」と言っていました。元プロ野球選手たちですから、「どちらか一つでも一流になるのは大変なのに、両方なんて無理に決まっている。実際、成功した選手はいない」と自分たちの常識で判断したのです。
イノベーションは、常識を疑うことから始まります。
今の日本プロ野球では先発投手は1試合投げると次の試合まで中5日か6日あけて登板する。その間は何をしているかというと、休養と軽めの練習だ。それなら、うち2~3日は打者で使っても何かマイナスがあるだろうか。幸い、パ・リーグは指名打者制度があり、負担も小さい。だいたい、素晴らしい投手は素晴らしい打者の素質を持っている。王貞治もイチローもベーブ・ルースも、高校時代や若手プロ時代は投手だった。もったいない――私など野球の常識にとらわれない者は昔からそう思っていました。栗山監督も大谷自身もそう思って、二刀流を貫いているのだと思います。
今、社会で求められている能力は増えています。たとえば、グローバル化する社会では、英語が話せる能力が当たり前になりつつあります。デジタル化する社会では、IT能力は当たり前になっています。その上にリーダーシップとか教養とか発想力とかコミュニケーション能力とかが求められます。一昔前なら、就活の面接で「得意なものは?」と聞かれ、「英語です」と答えれば、かなり高得点でした。他の能力は大したことなくても、「少なくとも通訳や翻訳者で使えるな」と思われました。でも今は、英語だけを挙げても「ふーん」てなもの。その上にあと一つか二つ目立つものがないと、面接官をひきつけられません。
この4月にパナソニック史上二人目の女性役員になった小川理子さんは、二刀流です。これまでに14枚ものCDを出しているジャズ・ピアニストなのです。東洋経済オンラインのインタビュー記事によれば、3歳からピアノをやっていた小川さんは、音に興味があって音響機器を作っていたパナソニック(当時は松下電器産業)に入りました。入って数年後からオフにはライブハウスで演奏を始め、30代のころには2度ほど、会社を辞めてジャズ・ピアニストとして生活しようと思ったというほどです。でも仕事も好きでやめられずに両方頑張ってきたところ、役員にまで上ったのです。担当には、2014年に復活した高級音響機器ブランド「テクニクス」の事業推進室長も含まれます。二刀流が見事に融合して花開きました。
社会が求めているということばかりではありません。二刀流は、自分の会社人生を幸せに送ることにもつながります。得意なことが仕事に直接結びつかなくても、仕事で疲れた心をいやしたり、会社とは別の人間関係を豊かにしてくれたりする道具にもなります。
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