2023年09月01日

WBC、バスケ、ラグビー……スポーツのビッグイベントきっかけに企業研究深めよう【イチ押しニュース】

テーマ:スポーツ

 2023年は日本で開催されたバスケットボールのワールドカップ(W杯)や世界水泳をはじめ、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)ラグビーW杯など世界的なスポーツイベントが続きました。WBCでは優勝を果たし、バスケW杯では日本がはじめて欧州勢(フィンランド)に勝つなど、日本勢が結果を残したことで国内も盛り上がりました。

 オリンピックでも明らかになりましたが、大きなスポーツイベントを開催するということはそれだけ大きなお金が動く、ということでもあります。そこには、さまざまなビジネスが関わってきます。一見スポーツに無縁そうな会社でも、スポンサーなどでビッグイベントに関わったりすることもあります。スポーツイベントを契機に、企業や業界研究を深めることもできます。バスケW杯をもとに考えてみましょう。(編集部・福井洋平)

(写真・バスケW杯、フィンランド戦でシュートを打つ河村勇輝選手=2023年8月27日、沖縄県沖縄市)

中国のバスケ熱がスポンサーの数に反映

 日本代表がフィンランド戦に続き、ベネズエラ戦でも見事な逆転勝利をおさめて話題となっているバスケットボールW杯。テレビ等で観戦した人も多いのではないでしょうか。

 試合を見ていると、コートの脇に企業の名前がうつしだされていることに気づきます。バスケW杯はFIBA(国際バスケットボール連盟)主催ですが、FIBAの活動全般を支援する「FIBAパートナー」が10社あり、いわばトップスポンサーとしてコート脇などの目立つ位置に広告を出しているのです。スポーツ用品メーカーのナイキや試合で使うボールなどを手がける日本企業のモルテンのほか、目立つのが中国系企業。ミネラルウォーターブランド「百岁山」や乳製品メーカーの「伊利」、IT大手企業の「テンセント」、家電メーカーの「TCL」に企業グループの「万達集団(WANDA)」が名を連ねています。中国はバスケットボールが盛んで、前回W杯も中国で開催。日本でバスケットボール人気に火をつけた漫画「スラムダンク」は中国でも大人気で、今年公開された映画も大ヒットしているといいます。スポンサーの名前からも、中国のバスケ熱のすごさが伝わってきますね。TCLは日本でもテレビ市場でシェアを伸ばしつつあり、テンセントは日本でも採用活動を行っているので、企業名を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。

(写真・アニメ映画「スラムダンク」のプレ上映イベントに集まった中国のファンたち=2023年年4月、上海市)

日本生命はバスケの地域密着に魅力

 日本の企業はFIBAパートナーのモルテンのほか、W杯の「イベントスポンサー」としても数社が参加しています。なかでも、日本代表のユニフォームに名前が入っているのが日本生命ソフトバンクです。日本生命は、バスケの国内リーグであるBリーグの年間王者を決める大会でタイトルパートナー(特別協賛)をつとめるなど、バスケットボールとの関わりが深い会社です。朝日新聞が運営するスポーツ情報サイト「4years.」の記事(こちらから読めます)では、日本生命はJBA(日本バスケットボール協会)の「バスケで日本を元気に!」という理念に共感してBリーグのパートナーになったとあります。それに加えて、Bリーグは日本各地にクラブがあり地域密着を大事にしている点でも日本生命との親和性が高い、と言います。日本全国にある日本生命の各支社が地域のクラブを応援する体制を確立しつつあり、2022-23シーズンは30クラブに45支社が協賛しているそうです。

 生命保険は、営業職員による販売額が代理店窓口やインターネット経由の販売額を抑え、全体の半分以上を占めています(2021年「生命保険に関する全国実態調査」)。地道な営業活動が企業の主軸となる業態では、地域密着スポーツの応援は地域住民や地方企業とさまざまな接点が持てる点で大きなメリットがあると考えられます。バスケW杯で競技全体が盛り上がれば、さらにメリットも大きくなるでしょう。ちなみに、第一生命はプロダンスリーグの「Dリーグ」に協賛、明治安田生命はサッカーのJリーグに協賛しています。

ソフトバンクはホークスで大成功

 一方のソフトバンクは、2016年のBリーグ発足時に最上位スポンサーにあたる「トップパートナー」に就任。Bリーグや日本代表戦の試合が見られる「バスケットLIVE」というサービスを提供しています。高校日本一を決める大会にも協賛するなど、こちらもバスケットボール全体を応援する姿勢を見せています。

 ソフトバンクといえば、2004年にプロ野球球団のホークスダイエーから買収。当時は携帯電話事業に乗り出す前で、ソフトバンクの知名度も今ほど高くはなく、球団を持つことによる宣伝効果は大きかったと考えられます。また、球団の売上高はコロナの影響がなかった2020年2月期に過去最高の約325億円を計上しています。大きな要因となったのが、本拠地である福岡ドーム(現在は「福岡PayPayドーム」)を2012年に買収したこと。日本のプロ野球はチームによっては本拠地の球場が球団とは別会社で運営され、球場の広告や売店からの収入が球団に入らないことがあります。ホークスは球場を買収したことで、座席の改修や球場内の演出もスムーズにできるようになり、来場者数の増加につなげることができました。(ちなみに同じくプロ野球チームの北海道日本ハムファイターズは、昨年まで本拠地だった札幌市所有の札幌ドームを離れ、今年から自前の球場であるエスコンフィールド北海道に移転しています。)

(写真・約4年ぶりにホークスの本拠地・福岡PayPayドームでジェット風船が舞った=2023年7月)

スポーツとの関わりを見て企業の研究深めよう

 すでに高い知名度があるソフトバンクにとって、バスケットボールへの支援は広告目的以上に、大きな先行投資と考えられます。「バスケットボールキング」が2017年に行ったインタビュー(こちらから読めます)で、ソフトバンクの担当者は「野球やサッカーを見る方たちの年齢層が上がっている中で、バスケットボールは若い方たちが子どもを連れて見に来ている」とバスケットボールの魅力を説明し、「バスケットボールに携わって良かったなと思えるようなものをインターネットを使って作っていきたい」と意気込みを語っていました。日本代表の活躍をきっかけにバスケットボールがアメリカや中国なみに人気のスポーツに成長すれば、配信ビジネスなどで大きなメリットを得られるようになるかもしれません。

 このように、スポーツ大会のスポンサーをチェックするだけでも、その企業の方針や考え方を知るためのさまざまなヒントを得ることができます。特に消費者へのPRが必要なBtoC企業を志望する方は、企業とスポーツイベントとの結びつきを意識するとより深い企業研究ができると思います。ちなみに9月に開幕するラグビーの日本代表のトップパートナーは、「リポビタンD」でおなじみの大正製薬です。同社の主力事業は、薬局やドラッグストアで買える「OTC医薬品」や健康食品など一般の消費者向け事業で、いわばBtoC企業。武田薬品工業アステラス製薬第一三共といった、医薬品を開発して医療機関に販売する「BtoB」に近い事業を主軸としたメーカーとは業態が異なります。こういったことも、企業とスポーツイベントとの関わり方を通して見えてくると面白いと思います。

(写真・ラグビー日本代表のユニフォームには大正製薬の主力商品「リポビタンD」と書かれている=2023年7月)


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