あきのエンジェルルーム 略歴

2016年01月21日

国会議員(♂)も育休取るべし! ♡Vol.62

 いつも心にエンジェルを。

 自民党の男性衆院議員が「育休」を宣言し、国会議員の規則を変えようとしていることに賛否両論が巻き起こっています。みなさんはどう思いますか。
 新聞やテレビでも取り上げられていますので、おおよその話は知っている人もいると思いますが、簡単におさらいしてみます。昨年末、宮崎謙介衆院議員(京都3区)が、同じく衆院議員である妻の第1子出産(2月予定)に伴い、1~2カ月程度の育児休業を取ると意思表明しました。衆議院規則には育休の規定はないため、その見直しを求める提言書を正月明けの国会召集の日、衆院議長に渡すことにしていました。しかし、自民党の国会対策委員会の幹部から「国会議員全体の評判を落としている」「子どもを使った売名だ」などと注意されるに至ります。

 この「育休宣言」については、子育てで夫婦が協力するのは当然、よく言った!と応援する人、国会議員は一般労働者と違う、有権者の一票を託されたのに長期間休むのはおかしい!と批判する人、意見が真っ二つに分かれています。2016年1月20日の朝日新聞の声欄(オピニオン面)でも、読者からの両方の意見を取り上げています。

 新聞などのメディアは、「中立」の意見を求められることも多いのですが、ここ「エンジェルルーム」では、スタンスを明確にして、「育休取るべし!」と声を大にして言わせていただきます。
 
 それは、夫不在の子育てがいかに大変か、そして、一番大変な時期に子育てにコミットしない夫がその後もいかに「使い物にならないか」を実体験として知っているからです。そのことを社会の枠組みを決める機会の多い政治家に知ってもらうことの重要性を感じているからです。
 先日都内で、当事者の宮崎謙介議員本人もまじえて、「どうなる?議員の育休~永田町が変われば、日本の子育て・WLBが変わる」と題された緊急フォーラムが開かれ、私も参加してきました。父親の育児参加や、部下のWLBに配慮できるイクボスの普及に取り組むNPO法人ファザーリング・ジャパン(FJ)主催の集会ということもあって、パネリストのほとんど全員が「育休取るべし」派でしたが、宮崎議員がたびたび「ノーコメント」と沈黙を守る姿に、風当たりの強さがうかがわれました。

 現在、男性が制度などを使って育休を取得するのは対象者の2.3%(2014年度、厚生労働省調べ)。女性にも社会に出て働いてほしい、という現政権は、それを2020年までに13%まで上げたい、としています。もちろん、育休の制度を使わず、有給休暇などを使って、子どもの出産などに立ち会った夫もいるでしょう。そういう「隠れ育休」も把握してみようと、FJは2015年6月に調査しました。妻の出産時に有給を取った夫の割合は45%、2011年の同じ調査では47%でした。増えていないどころか減っています。つまり、妻の出産という人生でめったにない大イベントですら、半数以上の夫は休めていないわけです。そして「休んだ」という人にしても、期間を聞くと、その7割は「3日以内」。これでは赤ちゃんの顔を見た、ちょっと抱っこした程度で、とても子育てを経験したとはいえませんね。
 男性はそもそも育休なんて取りたくない、仕事したいんだ、と言う人もいるかもしれませんが、厚労省の調査では約3割の男性が「育休を取りたい」と回答しています。
 ちなみにFJによると、アンケートで育休取得した男性に、「なぜ育休を取れたのか」をたずねたところ、一番多かった答えが、「上司に妻の妊娠を伝えたときに、『育休はいつ取るのか』と、取ることを前提に聞かれた」ことなのだそうです。2番目に多いのが、育休制度の案内など、人事や職場からの働きかけといいます。
 社会的評価を気にする日本人男性ならではですね。パネリストとして登壇されていた男性の多くは、過去に育休などを取得した経験があり、職場では、「男性でも取れるの!?」「帰ったら席ないんじゃない?」などというパタハラ(パタニティ-・ハラスメント)を受けたといいます。

 男性が(女性でも、ですが)、人生の一時期(しかも、多くの男性の場合、かなり短期間)、自分の子どもを優先する、と表明するだけで、仕事を疎かにする、キャリア競争から降りる、とみなされるこの風潮をなんとかしない限り、男性の育休取得は増えないでしょう。パネリストの間からは「企業に、男性の育休取得を義務化するぐらいにならないと、男性は育休を取らないのでは」という極端な意見も出ていました。
 いまの日本は、一言でいうと「育児も介護も妻(人)任せでなんとかなった」という男性(オジサン?)たちが作った社会です。そのルールの中では、モノを作ったり、お金を稼いだりする仕事が一番えらくて、家事など日々の営み、育児、介護といった、「お世話をする」仕事の地位が著しく低い、という傾向があります。なぜか。家族がやれば「ただでしてもらえる作業」だからです。いま、保育や介護に携わる人の賃金が安すぎる、と問題になっていますが、根っこには、そういったマッチョな男性たちの価値観があるような気がします。

 その社会、そのルールにおいては発言力の小さい女性たちだけが「夫も育児を」と叫んでいても社会は変わりません。子育ては女の仕事、と思い込んでいる男性の意識をいきなり変えるのは無理としても、せめて内心、「もっと子育てに参加したいな」と思っている男性が、堂々と、そして社会的な不利益を受けずに休める、ということが肝心なのだと思います。
 民間の男性が育休を取るのは結構、でも国会議員はダメ、という論調も見かけますが、国会議員の仕事は「義務」ではなく「権利」です。国会議員は、国会(衆議院や参議院)に「雇用」されているわけではありません。歳費は、日本国憲法第49条で保障された権利で、「労働」、つまり議会活動の対価ではありません。大切な一票を投じた有権者の期待に背く、という人もいますが、そう思ったなら次回の選挙で落とせばいいのです。一度も国会を欠席せず、こまめに地元に帰ってくるだけで有権者は満足するわけではないでしょう。期待にどう答えるか、その方法は議員それぞれで考えていけばいいのです。

 また、国会議員は恵まれているのだから、率先して育休を取るのではなく、国民生活に育休が定着するまでは全力で働き、その後で取得すべし、という意見もありました。これには、「発言力があり、恵まれているとされる国会議員ですら取れないものを、より弱い立場に置かれている労働者、民間の男性社員が取れますか?」と聞きたいです。
 国会議員は自営業みたいなものだから(自分がスケジュール調整できる)、あえて育休を取らなくても子育てはできるはず、という意見もあります。そうでしょう。実際、育休と言わずにこっそり育児にコミットしていた男性国会議員もいると思います。そもそも制度はないのですから。でも、それだと、そのパパ議員自身は、子育てを満喫できるかもしれませんが、男性の育休取得促進にはつながりません。宮崎議員本人も「女性の社会進出を推進している日本において出生率を上げるためには男性の育児参加が必須です。そして、その第一歩は男性の育休取得なのです。(男性が育休を取りにくい日本の)風土、雰囲気を一新させるために今回、一石を投じたかった」とはっきり言っています。
 パネリストの育休取得男性たちからは、少数派だけに、当時、社会的にはさまざまな不利益を受けたけれど、後悔はなく、「育児がどれだけ大変で大切な仕事かわかって、妻との関係もよくなった」「子どもとの絆が強まり、人生の幅も視野も広がった」という肯定的な意見が多くありました。また、本を出したり、講演したり、職場とは別のフィールドでの社会的地位が上がったという人もいます。
 いってみれば、彼らも、NHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」で、主人公あさに、洋行帰りの元薩摩藩士でのちに実業家になる五代友厚が名付けた呼び名「ファーストペンギン」の一人なのです。女性に学問なんていらない、商売なんてもってのほか、と思われていた時代に、炭鉱を買収したり、銀行をつくったり、というチャレンジ精神旺盛な女性にぴったりの愛称ですが、男性にだって使える愛称だと思います。

 で、どうしてペンギンなのかというと、ペンギンは群の中の一匹が海に飛び込むまでみんな氷上に留まって動きません。どんな危険があるか分からない海の中に最初に飛び込むのはとても勇気のいることで、餌となる魚がたくさんいるかもしれませんが、シャチなどがいて喰われてしまうかもしれません。群れの中で最初に海に飛び込むペンギン(ファーストペンギン)が無事に戻ってきて、はじめて他のペンギンは海に飛び込みます。もし、どのペンギンも飛び込まなければ群れごと飢え死にです。そのペンギンの習性が転じて、ファーストペンギンは英語圏で、「リスクを恐れずに勇気を持って新しいことにチャレンジする人」を指す言葉になったのです。
 ファーストペンギンにあるのはリスクばかりではありません。最初に海に入るわけですから、他のペンギンと競争せずに獲物をたくさん取れるというリターンがあります。飛び込むのが遅いペンギンほど、獲物が少なかったり、魚に気付かれて逃げてしまった後だったりする可能性があるのです。

 ファーストペンギンになるのはだれでもいい。でも、あえていうなら目立つ人のほうが、より社会に対するインパクトは大きい。今回の騒動で、宮崎謙介議員が批判を恐れて育休を取るのをやめたら、社会全体に「男性の育休、やっぱり風当たり強いなあ」「妻に任せたほうが無難だなあ」という意識が蔓延(まんえん)しかねません。そうしたら、前回書いたような「女性活躍推進」などというものは、絵に描いた餅、単に、女性を過重労働にさせるだけの仕組みになります。

 そんな未来、私はごめんこうむりたいです。

 周囲に公言して、育休を取った男性国会議員がまだ一人もいなかったことで、今回は大きな話題になりました。宮崎議員が「永田町のファーストペンギン」になれるかどうか、注目していきたいと思います。

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