あきのエンジェルルーム 略歴

2015年05月21日

報われる安心感が、社員のパフォーマンスをググッと上げる! ♡Vol.36

 いつも心にエンジェルを。

 社員同士の不公平感をいかに払拭するか。その難題に取り組んでいるのが、前回、名前を挙げたレーザー専門商社の日本レーザー(JLC)です(前回も読んでね)。 
 社員数は約60人。21年前、経営危機に陥っていた同社に、親会社である電子顕微鏡のトップメーカー日本電子から社長が派遣されてきました。それが現社長の近藤宣之さん(71)です。当時、近藤さんは親会社の最年少役員。立て直しのための、いわばエースの投入でした。
 もうかっていない会社が真っ先に手を着けるのが人件費の削減です。しかし、近藤社長は就任早々、「リストラはしない」「雇用を守る」と宣言します。そして、一人も解雇せずに、就任1年目から日本レーザーは黒字に転換、2年目には復配(株主への配当金支払いの復活)も達成しました。
 どうしてこんな魔法のようなことができたのでしょうか。近藤社長に聞いてみました。
 「社員のモチベーションを上げるために、『やってもやらなくても同じ』という待遇をまず変えました。それまでメーカーである日本電子の就業規則や人事制度をそのまま流用していたのです。でも日本レーザーは商社です。個人の能力や努力、貢献度にもっと見合った待遇にしました」
 そこで採り入れたがのインセンティブ制度です。インセンティブとは日本語で「人の意欲を引き出すために与える刺激、誘因」などと訳されます。家族や持ち家があれば自動的にもらえるような「家族手当」や「住宅手当」は、持っていない人に不公平、ということで廃止。一方で、基礎能力手当という、本人の能力に応じた手当を支給するようにしました。基礎能力は現代版の「読み・書き・そろばん」です。 
 同社は海外のメーカー(サプライヤ-)からレーザー機器を輸入して、カスタマイズなどをしつつ、日本企業のニーズに合わせた形で導入するのが仕事です。海外とのやりとりが多いので、英語力は必須。TOEICの点数に応じたインセンティブがあります。500点未満の人は月額手当ゼロ、600点は1万円と上がっていき、900点以上だと2万5000円もらえます。年額にすると30万円、けっこう大きいですよね。もちろん一回900点を取ればよい、というのではなく、更新も必要といいますから、いい点数を取っても気は抜けません。
 パソコンやIT機器の運用能力や対人対応能力も算定します。あいさつ、返事、親切か、お客さんに好かれているか、など態度能力も評価対象です。
 もちろん実務能力も大事です。経理業務、営業担当者の商品知識、修理の技術など、いろんな項目でチェックします。評価に「納得」してもらえるよう、社長の好き嫌いではなく、役員全員で評価したうえ、本人にもフィードバックします。あまりに赤裸々に自分の能力を評価されるのはちょっと怖い気もしますが、この透明性があるからこそ、社員はその評価に納得できるといいます。
 また営業、技術系には粗利(あらり)の3%という成果主義的な賞与もあります。これも、その案件を取ってきた一人の社員に還元するのではなく、それを契約、納入するのにかかわった社員全員で折半します。チーム主義にすることでスタンドプレーに走らず、また周囲の人間も他の社員の「成功」「成果」に積極的に協力しようと思うのだそうです。
 近藤社長(上写真)はいいます。「社員の成長なくして会社の成長なし」。社員の成長を望まない経営者はいないでしょうが、モチベーションの上げ方には工夫が必要ですよね。

 幸先よく黒字転換した同社ですが、近藤社長が「経営の立て直し」を手土産に親会社に戻るのではないか、という風評が流れたこともあり、近藤社長は1年後に親会社の取締役を退任し、さらに2007年には従業員からも出資を募り、親会社から株式を買収して独立しました。2008年以降の新入社員も含め、パート、アルバイト以外のすべての社員が自社の株をもっています。当然、会社が利益を上げれば配当を受け取れますので、自ずと仕事にも前向きに取り組めます。これもまたモチベーションを上げる一つの「インセンティブ」です。たくさん出資した人がたくさん配当を得る、というのはシンプルな話です。
 女性、障害者、高齢者、外国籍の社員がともに働く同社は、小さい所帯のなかでも、ダイバーシティーを実践しています。一般的に経営規模の小さい企業ほど職場での女性活躍推進の取り組みは遅れているといわれますが、日本レーザーの場合、社員全体に占める女性比率、管理職に占める女性比率ともに3割前後でほぼ同じ。まさに規格外の中小企業といえましょう。

 女性社員が活躍するための工夫もいたるところにあります。その一つが「ダブル・アサインメント」、一つの業務を2人で担当する仕組みです。出産や急病で担当のどちらかが不在になっても、残っているもう一人が対応できるので、顧客にも同僚にも迷惑をかけることがありません。ただ、それだけでは人件費は倍になってしまうので、1人の社員が複数の業務をこなせるようになっておく「マルチタスク」を導入しています。社員の努力が不可欠ですが、マルチタスクを担わない社員と、請け負う社員では、もちろん給与に差があり、がんばりが「報われる」ようになっています。
 「そのため雇用契約は十種類以上あります。ゆるやかな働き方も選べますが、当然、給与も安くなる。だから『ずるい』とならないのです。一方で、給与が安くても、社員自身が会社に『大切にされている』と実感できれば社員はがんばります。社員の能力ややる気に応じて配置するので、働き方はパート社員だけど役職は『課長』というケースもあります」と近藤社長。
 モチベーションとともに同社が重視しているのがコミュニケーションです。夜の飲ミュニケーションが難しい女性社員を4、5人ずつに分けて年に1~2回、社長がホテルランチをごちそうしたり、社内のラウンジで一緒にお弁当を食べたりしています(上写真)。周年パーティーや忘年会、社員旅行には本社だけでなく、大阪や名古屋の支店のパートや嘱託社員も招きます。
 パートも嘱託も含め、社員の誕生日には毎年、好きなものを選べるカタログギフト(5000円相当)をプレゼント。逆に近藤社長の古稀(70歳)の誕生日には女性社員一同から寄せ書き(右写真)が届いたそう。
 「社員が70歳を超えても会社都合で辞めさせることはありません。あっちこっちで『生涯雇用』と言っているので社員は増える一方。人件費をコストと考えたら、こんなリスキーな経営はできません」

 結果的に同社では転職を理由とした離職者はこの十年で一人も出ていないそう。スキルを重視し、通年採用している会社なので、新卒採用の門戸は狭いですが、それでも年に1人か2人は採用しています。英語を生かせる仕事をしたい人には向いているかもしれませんよ。