ニュースのポイント
イラクで政府軍と戦闘を続ける武装組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」が、隣国シリアにまたがる「イスラム国」樹立を宣言しました。勝手に宣言しただけで国際的には認められるものではありませんが、イラクは分裂の危機に陥っています。ISISは「反欧米・反シーア派」を旗印に民主主義を敵視する過激派組織ですし、イラクは世界8位の産油国でもあり、世界に大きな影響が及びます。今日はイラクをとりまく情勢について勉強します。
今日取り上げるのは、国際面(10面)の「『イスラム国』テロ温床に/ISISが樹立宣言/反欧米・反シーア派鮮明」です。
記事の内容は――ISISが「カリフ制イスラム国」の樹立を宣言した。スポークスマンは「神が定めた法と正義が完全に実行される」と声明。イラク北部のモスルでは、「市憲章」が発表され腐敗の一掃や刑法はイスラム法に基づくと明記された。「麻薬、アルコール、たばこは禁止される」としたほか、女性については「貞淑でなければならず、髪を覆い、長衣を着て、外出が必要な時以外は家にとどまるべきだ」と女性の社会進出を抑える方針が示された。
宣言は反欧米・反シーア派を明確にしており、ISISに従うスンニ派武装勢力は、シーア派が主導するイラクのマリキ政権、シーア派系が主導するシリアのアサド政権への攻撃を強めるとみられる。ISIS指導者のバグダディ師はイスラム国の「カリフ」を名乗り、イスラム教徒に「自分の宗教と信仰にもどれ。西洋はあなたたちに降伏するだろう」と呼びかけている。宣言文は「民主主義、自由主義、民族主義を信じてはいけない。それは西洋の考え方であり、くずだ」とし、民主主義を敵視する姿勢だ。ISISには欧州や中東・北アフリカ諸国から多くの義勇兵が参戦、この地域がテロの温床となることは避けられない。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
中東情勢は日々新聞やテレビで報じられていますが、複雑でなかなかとっつきにくいですよね。歴史、宗教、民族問題が絡み合っているので、きちんと理解するのは大変だと思います。でも、基本的な構図とキーワードを押さえたうえで日々のニュースに接すれば、少しずつわかるようになりますよ。
伊藤忠商事会長で日本貿易会の小林栄三会長は「海外でビジネスをするときには、相手国の政治・経済情勢だけでなく、歴史や宗教などもしっかりと学び、その国の価値観に配慮した付き合い方を心掛けることが肝要」と語っています。中東情勢は企業に、そしてみなさんの就活にも大いに関係があります。
【スンニ派とシーア派】7世紀にイスラム教を始めたムハンマドの死後、後継者をめぐって違いが生じた。シーア派はムハンマドとの血縁を重視し、ムハンマドのいとことその子孫を指導者としてきた。スンニ派は信徒の総意を大切にし、ムハンマドが打ち立てた「慣行(スンナ)」や教えを受け継ぐことを重視。世界のイスラム教徒は約16億人で、その9割はスンニ派。シーア派が多数を占める国もあり、イラクは6割、イランは9割がシーア派。
【ISIS】国際テロ組織アルカイダの流れをくむスンニ派反米勢力が2006年に集まってできた旧「イラク・イスラム国(ISI)」が前身。米軍の掃討作戦でいったん弱体化したが、シリア内戦や米軍撤退などで2011年ごろから息を吹き返し、2013年に今の名称に変わった。カフェやモスクなどでシーア派住民を狙った自爆テロを繰り返し、拘束者を斬首したり銃殺したりする動画をネットで拡散。「最強で残忍」との印象を定着させ、イラク西部とシリア東部に勢力圏を築いた。今はアルカイダ指導部とは対立している。最高指導者のアブバクル・バグダディ容疑者は2010年にトップに就任。「第2のビンラディン容疑者」とも言われ、米国は拘束につながる情報提供に1000万ドルの懸賞金をかけている。
【カリフ】アラビア語で「後継者」の意味。イスラムの開祖ムハンマドの死後、イスラム共同体を政治と宗教の両面で率いる指導者を選び、カリフと呼んだ。1922年にオスマン帝国が滅亡しカリフ制も終わった。イスラム主義者には穏健、過激にかかわらず「カリフ制再興」を唱える声が根強くある。
【クルド人】トルコ、イラク、イラン、シリアなどに分断されて暮らす少数民族。3000万人おり、「国を持たない世界最大の民族」とも呼ばれる。イラクの人口の2割を占め、イラクはアラブ人シーア派とスンニ派、クルド人の3勢力の微妙な均衡の上に国家が成り立っている。イラク大統領はクルド人だ。
【米国の関わり】イラク戦争で旧フセイン政権を倒しイラクを占領したが、2011年末に撤退。今回は軍事顧問を派遣してISISと戦うイラク軍を側面支援する。ただ米国内では「対テロ戦争」への厭戦(えんせん)気分が強い。
ISISの台頭で、イラクは宗派や民族で国が分裂しかねない瀬戸際にあります。イラク情勢の悪化で原油価格は高騰しており、国内のガソリン価格が先週5年9カ月ぶりの高値を記録するなど日本にも大きな影響が出ています。今後の情勢に注目してください。中東については、2013年9月12日の今日の朝刊「3分で読める中東現代史」で基本的な構図を説明しました。こちらも読んでみてください。
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