ニュースのポイント
大企業の本社は東京に集中しています。上場企業をみると、だいたい半分が都内に本社を置いています。2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災をきっかけに、賃料が安いとか危険分散になるという理由で東京から地方に本社を移す動きがありましたが、最近は再び東京回帰が始まっているようです。バブル経済のころにもあったことですが、景気が良くなると賃料や危険分散を考えるより、情報が集まる東京の魅力が勝つということでしょう。ただ、東京に本社がある企業が勝ち組で地方に本社がある企業は負け組なんてことは決してありません。地方には特徴があって着実に伸びている企業がたくさんあります。生活のしやすさなどを合わせて考えると、東京以外に本社のある企業をもっと見直してもいいと思います。特に、京都や愛知にある企業に注目です。（朝日新聞教育コーディネーター・一色清）
今日取り上げるのは、総合面（6面）の「企業、『東京回帰』進む／本社転出、7年ぶり低水準 帝国データバンク調査」です。
記事の内容は――東京都内から本社機能を移す企業が、7年ぶりの低水準になったことが帝国データバンクの調査で分かった。同社が約146万社の企業情報を元に、2005～14年の計10年間の本店所在地の移転状況を調べた。それによると、東京からの転出は7773件、転入は5674件。転出のピークはリーマン・ショック後の2009年の875件だった。その後、景気の持ち直しとともに転出は減り、2014年は675件と2007年の666件以来の低水準となった。同社は「好況化では企業の一極集中が進むことが改めて確認された」と分析。政府が今国会に法案を出した地方に本社機能を移す企業向けの減税制度について、「企業移転の効果は未知数だ」と指摘している。
（東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から）
就活アドバイス
企業選びの際、東京で仕事をしている自分をイメージしている人が多いのではないですか。特に大企業をめざしている人は、大企業=東京と思いがちです。でも、地方（東京以外）に本社を置く企業は思った以上に多くて、しかも日本を引っ張っているような企業が見受けられます。その代表格が、愛知県豊田市に本社のあるトヨタ自動車です。発祥の地だから形だけの本社を地方に置いているという企業も最近は少なくありませんが、トヨタは正真正銘の本社です。周辺にたくさんある工場をあわせて、トヨタに入れば愛知県で勤める期間が長くなるでしょう。トヨタに勤める友人に聞くと、平均して30代前半には豊田市周辺に一戸建てを買う人が多いと言います。安定した会社のため、先々までの収入にめどが立ち、地価は安いので若くして家を持つ人が多いというわけです。
愛知県にはトヨタ関連の大きな会社がたくさんあります。ほかにも、いい土がとれることから発達した窯業の大手もたくさんあります。日本碍子、ノリタケ、日本特殊陶業なども歴史のある大企業で、技術力にも定評があります。
愛知県の人々は、堅実だと言われます。その県民性を企業も映しているようで、地味で堅実ながら、日本のモノづくりを支えている会社が目立ちます。
京都も注目です。京都の人口は260万人ほどで、全国で13位にすぎません。しかし、京都に本社のある有名企業は思いのほかたくさんあります。ハイテク系では京セラ、村田製作所、堀場製作所、オムロン、日本電産、島津製作所、任天堂、ローム、ジーエス・ユアサなどです。どの会社も日本の最先端を切り開く技術力のある会社です。このほかにも、下着メーカーの「ワコール」やバイオテクノロジーの「宝ホールディングス」といった特徴のある企業がいくつもあります。
どうして京都に力のある企業がたくさんあるのか、という疑問に対してはいくつかの説があります。京都には京都大学のほか、たくさんの大学があって産学の協力が簡単だし、人材が集まりやすかったという説。京都は古い町なので、お金持ちが多く、潤沢な資金を持つ京都信金など地元の金融機関がお金の面倒を見たという説。東京や大阪と同じ土俵で競争する意識が薄く、わが道を行くという気風があったという説。いずれにしても、地方企業ならではの余裕がプラスに働いたと考えられます。
どうですか、大企業=東京のイメージは薄らぎましたか。生活も含めた総合点として、地方で特徴のある企業はお薦めだと思います。
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