ニュースのポイント
中国が主導する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が、最近よくニュースに登場します。欧州の主要国は参加しますが、日本と米国は当面参加しません。なぜだか知っていますか? 少しとっつきにくいテーマだと思いますが、これだけ話題になると、面接で「あなたの意見は?」と聞かれるかもしれません。これを読んでおけば、ちょっとした意見くらいは言えますよ。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、オピニオン面(15面)の「耕論/アジア投資銀ショック/傍観してもゲームは消えぬ/慌てず米中関係を見極めよ」です。日本も参加すべきだとする大庭三枝・東京理科大教授と、参加に慎重な元財務官の榊原英資(えいすけ)・青山学院大教授の意見を紹介しています。概要は――。
【大庭さん】日本抜きでアジアの枠組みづくりが進むのを避けるためにも、日本は加盟する方向で交渉に加わったほうがいい。AIIBは中国の台頭によるアジアの地域秩序の変動を示す現象のひとつ。中国の提案に問題があれば内側から関与して、ふさわしい姿に近づくよう意見を言うべきだ。中国はアフリカなどで環境や人権を無視する単独援助をしてきた。こうした暴走を許すより多国間の枠組みで縛るほうが国際社会にはマシだ。
【榊原さん】日本が慌てて飛び乗る必要はない。AIIBがどんな銀行になるのか慎重に見極めてからでも遅くない。中国の二国間援助のように自らの国益優先で動く銀行なら入ってはいけない。英国など欧州が入ることで、AIIBの統治の健全性、事業の透明性が確保されるなら入ればいい。今後AIIBについて米中が妥協する可能性がある。日本だけが拒否することにならないよう米国と密接に意思疎通すべきだ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
今日の同じオピニオン面「私の視点」にはシンガポールの研究者の「日本不参加は戦略的誤り」との意見が載っています。いま国内外で日本のAIIB不参加をめぐり、賛否両論が飛び交っています。
AIIBは「Asian Infrastructure Investment Bank」の略。普通の銀行ではなく、多くの国がお金を出し合い、アジアの途上国のインフラ建設向けに低い金利で融資する国際金融機関です。道路や港、鉄道といった大きなインフラをつくる場合、巨額のお金が長い期間必要で返してもらえない恐れもあります。民間の銀行の手に余るため、こうした国際機関が必要なのです。中国が創設を提唱し、日米を除く50以上の国・地域が参加を表明。本部は北京で、年内の開業をめざしています。
世界にはすでに、世界銀行、国際通貨基金(IMF)のほか、各大陸に同様の国際機関があります。アジアには「アジア開発銀行(ADB)」があり、日本が一番多くお金を出し、歴代総裁も日本人が務めています。しかしアジアにはまだインフラが不足している国が多くあります。ADBは2010年から20年までに約8兆ドル(約950兆円)が必要と試算していますが、ADBが毎年貸し出せる額の合計は200億ドルくらいなので、とても足りません。そこで、世界2位の経済大国になり豊富な資金をもつ中国がAIIB創設を打ち出しました。世銀、IMF、ADBなど、これまでの国際金融機関は米欧日などの先進国主導だったため、中国をはじめとする新興国は、高まってきた経済力に見合う発言権がないことに不満をもっていました。こうした国際金融をめぐる主導権争いも背景にあります。
米欧日はAIIBの組織の透明性などに疑問があるとして参加に慎重な姿勢でしたが、3月に入って英国が参加表明すると、多くの国が参加になだれを打ちました。カナダも参加を検討しており、このままだと、G7(日米英独仏伊加)で日米だけが取り残されることになりそうです。参加国には、対中関係重視に加え、参加しないと巨額のインフラ事業に自国の企業が加われなくなることへの懸念など、経済的な実利を求める思惑もあります。
AIIBがどんな組織になるのか、日本が今後参加するかしないかは、日本の企業にも大きな関心事です。インフラ関連の企業にとっては今後の事業受注に影響しかねません。さらに、マスコミの筆記試験のほか、金融機関の面接などでも話題に出るかもしれません。そのときに「AIIBって何ですか?」とならないよう、今後のニュースにも注目してください。
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