
望遠鏡などの天文機器や、その技術を応用した産業機器、医療機器などを開発している三鷹光器(本社・東京都三鷹市)。社員数約70人、創業まもなく50年です。スペースシャトルに搭載された観測機器などきわめて高い精度が求められる機器を手がけ、「組み立てからアフターケアまで大手企業なみの質の高さで提供しています」と中村勝重社長(71=写真)は言います。
この会社では約30年前から、新卒生の採用で面接試験の他に三つの課題を出しています。それは「ペーパーテスト」に「模型飛行機作り」と「電球のデッサン」。三つあわせて試験時間は8時間です。美術部の入部試験?と思ってしまいますが、兄とともに会社を設立した中村社長の考えはシンプルです。
「うちは『ものづくり』の会社。誰も作ったことのないものを作り出す創意工夫が私たちの武器ですから、ものづくりに興味があって創意工夫ができる人が欲しい。面接すると見た目や話し方の印象にひっぱられるし、創意工夫の力は学問では身につきません」
たとえば、主力商品の望遠鏡は夏でも冬でも外気にさらされ、レンズを支える金属部分が膨張したり縮んだりします。それでも観測に影響がでないように全体を組み立てる工夫が求められるわけです。
創業後しばらくはいろいろな人の紹介などで学生を採っていましたが、「頭はよくてもものづくりの資質が……」という子が多かったといいます。兄とも相談を重ね、試行錯誤の末に生み出した試験方法が「模型飛行機作り」と「裸電球のデッサン」。そこから会社の業績は上向いていきました。
毎年、高卒から大学院卒まで数十人の学生が応募してきます。採用されるのは数人ですが、必ずしも高学歴の学生が採用されるとは限りません。
「ものづくりの基本は『教えてはいけない、やってみせる』ともうひとつは『よく見る、もっと見る、さらに見る』ことです」
その「見る力」を判断するために行っているのが、電球のデッサン。デッサンの時は、裸電球を使います。裸電球にはまわりのものも映り込みますが、それをどれだけ丁寧にデッサンできるかが大切です。
「電球だからこういう形だろうとさっさと描き終えてしまうようなタイプは、優秀な学歴の学生でも落とします」
裸電球のまわりのゴミまでデッサンしてきた、大きさがわからないので自分の手と一緒にデッサンした、消しゴムを駆使してガラスの感じを出した——-。これまで入社してきた学生のデッサンは、いずれもきちんと対象と向き合う資質を感じるものだったと中村社長は振り返ります。
模型飛行機はその場でキットを渡して組み立ててもらいますが、ここでは手先の器用さと「素直さ」をみます。
「上手に作れるかどうかというより、神経細やかに作っているか、適当に完成させるのではなくどこまで細かく徹底して作ろうとするか、という姿勢を見ます」(中村社長)
ちなみに営業担当社員についても、「ものづくりの苦労をわかってもらう」という趣旨で同じ試験を課しています。