人事のホンネ

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【特別編 Part7】
「面接はありのままで」の落とし穴!万全の準備で初めて「自然体」に

2019年05月14日

 「人事のホンネ」は今回からしばらく、これまで6年間にお話を聞いた延べ80社のインタビューをテーマ別にまとめる「特別編」をお届けします。企業は自社に合う学生を採用するためにそれぞれ工夫を凝らす一方、各社に共通することもあります。まずは、今がピークの面接に臨む姿勢の話です。企業は「ありのままで」と強調しますが、そこには落とし穴が……。(編集長・木之本敬介)

(写真は、昨年の「面接解禁日」に面接会場で順番を待つ学生たち=2018年6月1日、東京都渋谷区)

面接直前対策などに役立つ、過去の「特別編」はこちら――。
【Part1】「好き」だけじゃダメ!ただの「ファン」を卒業するには?
【Part2】「未来」知るため「過去」を深掘り 面接に向けガクチカ磨け!
【Part3】 GDってどこ見るの?自分の得意な役回りで勝負せよ!
【Part4】企業が最重視する「コミュ力」って? 面接ではここに注意
【Part5】面接で聞かれる!チームへの適性 「周りを巻き込む力」ある?
【Part6】面接ごとにポイントは違う!最終面接前にやるべきこと

自然体で、素のままで…

 面接の大事なポイントを聞くと、多くの採用担当者から出てくるのが、「自然体で」「ありのままで」「素のままで」といった言葉です。

KADOKAWA】(面接で大事なポイントは)「自然体」かどうか。いつもの自分で勝負できるかってことです。「変わったことを考えている人に見せよう」とか「斜めから発言して頭が良さそうに見せよう」とかではなく、自然体でぶつかってこられる人は強い。無理して自分の思いとは違う働き方をしたり、価値観を押しつけられて働いたりするより長続きすると思います。「好き嫌い」や「価値観」に触れる仕事なので、無理をするのは良くありません。ぜひ自然体で面接に臨んでください。

阪急阪神百貨店】自分をよく見せようとか覚えてきたことを正確に言おうとかではなく、自然体で自分らしく選考に臨み、自分らしい結果を出して欲しいと思います。変に武装しようとせず「丸腰」で。皆さんがこれまで20年間積み重ねてきたことは、今更大きく変えられるものでもありませんので、それを素直に、自信を持って、自分らしく出してほしいと思います。

自分の言葉で

 面接では、自分を良く見せようとして、ついつい難しい、借りてきたような言葉を使いがちですが、かえって評価を落とします。「自分の言葉」もキーワードです。

カルビー】(面接では)自分のことを自分の言葉で語れる人が記憶に残ります。必ずしも雄弁が良いとは思いません。言葉の重みですね。

伊藤忠商事】お仕着せの言葉ではなく、自分の言葉で語れる人が輝いて見えますね。これまでの人生経験で培われた価値観と、今後の人生でやりたいことがきちんと結びついているか。そしてそれが弊社の価値観と重なり合う部分はあるのか。それを見ています。

丸紅】自分の言葉で話せているかどうかも重要です。中には内定を取った先輩の志望動機や自己PRを正解と思って真似をしたり、会社が求めている人物像に無理やり自分を近づけてみたりする人もいると聞きます。自らの内面から湧き出たことではないことを話している学生の回答は、マニュアル的に聞こえたり、人となりが見えなかったり、感じるキャラクターと合致しなかったりするものです。是非面接では自然体で自分の言葉で話すことを心がけてほしいと思います。

安川電機】自ら考え皆と協力しながら新しいことに果敢にチャレンジし続けられる人材を求めているので、自分で考えて意見を言える人に「○」をつける傾向はあると思います。マニュアルどおりの答えをする人ではなくて、自分の言葉で自分の意見が言える人。マニュアル通りという学生、結構いるんですよ。

鎧を脱がないと判断できない

東京海上日動火災保険】特に気になるのは学生がありのままの自分を話してくれず、合うかどうかの判断がつかないケースが増えていることです。自然体で面接をするのではなく、日ごろ着ない鎧(よろい)を着たり、帽子をかぶったりして、本人じゃない姿を装って話しているケースです。
 うちの会社と合わないという判断で残念な結果になった学生より、自分のことを語ってくれずに残念な結果になった学生が圧倒的に多い。面接ではその場で考えたり、思い出したりしてもらうんですが、それができず、質問に合わないのに準備してきた答えをかたくなに繰り返す学生です。「いや、こういう風に考える人もいるよね」と自然な形で聞くんですが、こう答えなきゃいけない、何かを試されているんだ、みたいな心境で答える学生は、残念な結果になってしまいます。

 素を見せずに身構えていると、本当はどんな人か判断できないから、落とさざるを得ないということです。実にバカバカしいですよね。企業も素を見るためにいろいろ工夫しています。

日鉄物産】TPO(時間や場所にふさわしい対応)はしっかりしてもらいたいですが、自分を就活用に取り繕い内定だけを目指す、つまり、その先の「働く」ことを忘れている人がいます。そうではなく、素直にありのままで、納得いかなければ面接でも「それは違うと思います」と言ってくれる学生のほうがいい。僕は、取り繕って鎧を着た人が面接に来ると、まずそれをはがせるような(その人の素が見られるような)質問をしていきます。「○○をしました」と言ったら、「どうしてやろうと思ったの?」「いつも○○をしているの?」とその人の本質にアプローチする質問をして、素に近い状態を探ります 。「本当はこういう方じゃないのかな?」という予想を立て、質問を通じて仮説検証をしていくこともあります。

オリエンタルランド】これまで長時間の個人面接で学生の「素」を見ようとしてきましたが、面接ではしっかり話せたのに、入社して研修や仕事が始まると意外と行動できない人がいました。そこで、最終面接の前段階で終日のグループワークをして学生の行動を見ることにしました。テーマはオリエンタルランドの理解を促すもので、グループごとに発表してもらい、そのプロセスを評価します。午前10時から午後5時まで1日がかりです。終日グループワークをすると、普通の面接では分からない面が見られます。1次面接ですごく評価が高くて「内定間違いなし」と思った学生が終日グループワークでは全然話せなかったり行動できなかったりしたため、残念ながら不合格にしたこともあります。1日観察しても動けないということは、優秀だけど行動が伴わないということだと思います。

着飾っての内定はお互いに不幸

カゴメ】着飾って内定をもらっても、入社してずっと着飾るわけにはいかない。自分にとってつらいでしょうし、企業にとってもあまりいいことじゃありません。

資生堂】ありのまま本音で語ってほしい。作った自分で入社してもミスマッチになってしまうので、ありのままの自分で受けていただきたい。合っているか合っていないか、こちらも選ぶけれども、学生さんにもしっかり見極めて選んで欲しい。

講談社】面接やESで落とされても別に悲観することはありません。むしろ、入っちゃいけない会社に間違って入らなくて良かったと思ってほしい。自分を正しく表現し続けて、その正しい自分を高く買ってくれる、評価してくれる会社に行けばいい。リアルな自分が活躍できる会社を見つけるのが就活なので、内定を取るために自分を変えたり、マニュアルで守りを固めたりして、本当の自分を出せないのが一番やっちゃいけないこと。不採用やお祈りメールで落ち込む気持ちはわかるが、会社との相性が否定されただけで、能力や人間性まで否定されたわけではありません。みなさんの就職活動、企業の採用活動は、学生と企業が対等な立場でお互いを見せ合うもの。そういう視点で臨むと良い就活ができると思います。

 面接は、企業と学生のお見合いです。ありのままの自分が受け入れられなかった会社は、「自分には合わなかった」ということです。開き直り、割り切りも大切です。

「ありのまま=何もしなくていい」ではない

 ただし、「ありのままで」の言葉に甘えてはいけませんよ。何の準備もせず面接に臨んだら、おそらく厳しい結果が待っています。面接は誰でも緊張します。自然体で臨むのは実は簡単なことではありません。「ありのまま」は何もしないでいいということではありません。
 ある先輩内定者はこうアドバイスします。「面接では会話を楽しみながら素の自分を出すことができた。のびのび臨めたのは、自分ができる最大限の準備をして、落ちても後悔しないと思えたから。その場の雰囲気、面接官との相性で何が受けるかは変わる。話を誇張したりウソをついたりせず、自然体で答えるのが一番です」

 マニュアルに頼って、自己PRや志望動機を丸暗記して話すのはもってのほかです。出だしと締め、キーワードを押さえて自分の言葉で語ること。企業研究を深め、精いっぱい準備をして初めて自然体で臨めるのです。就活は準備で決まります。あとは自信をもって臨んでください。

みなさんに一言!

 採用担当者の中には、「その会社を選んだのは、自然体でいられたから」という人もいます。
森永乳業】森永乳業に決めたのは、「人の魅力」でした。面接や選考中の質問会で会うどの社員とも自然体で話せ、面接でも楽しく会話ができました。「こういう人たちと一緒に働きたい」と思ったんです。理屈ではないですね。
【日鉄物産】私も受けたとき、この会社が一番自分らしくいられる気がしました。

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