人事のホンネ

株式会社講談社

2017シーズン 【第10回 講談社】
仕事が面白くてつい「激務」に 求めるのは自分から動ける人

総務局人事部副部長 山崎英文(やまさき・ひでふみ)さん

2016年03月30日

■採用数、エントリー数
 ――2015年4月の新入社員の数と、2016年度入社予定の内定者数を教えてください。
 2015年は20人で、内訳は総合職19人、校閲職1人です。2016年入社の内定者も20人ですが、この年から総合職で「編集」「営業」の部門別採用を始めました。編集14人、営業4人、校閲2人で、男女比は7対3です。理系の学生は内定者の1割程度。理系が不利とか有利とかはまったくありません。
 その前の2014年入社は全体で12人でした。この年は辞退者が出て少なくなりましたが、毎年20人を目安に内定を出しています。

 ――なぜ総合職を「編集」と「営業」に分けたのですか。
 営業部門に配属された社員が編集への異動を希望するケースがあって、営業志望者を採用することにしました。これまでの総合職一本のときも、営業志望と編集志望の人材をある程度分けて採用していたので実質は変わらないのですが、社会人としての第一歩をどの職種でスタートするのか、入社前に決めて覚悟をもってもらうのは、学生にとってもいいのではないでしょうか。

 ――採用ホームページ(HP)で選考過程や通過者数を詳細にオープンにしていますね。
 公開するようになったのは2年前から。ネットで「○人残ったらしいぞ」などいろんな情報が錯綜していました。別に出して都合の悪い情報はなく、むしろ「エントリーシート(ES)選考の通過率はこんなに高いんですよ」と伝えたほうが、学生のモチベーションが上がるんじゃないかと思ったんです。学生には評判がいいので、やってよかったですね。

 ――2016卒採用の本エントリーは2789人だったそうですが、増減は?
 4年連続でWEBエントリーも本エントリーも減っています。本エントリーに関しては年に200~300人ずつ減っている感じです。出版不況などネガティブなイメージを持たれていることもありますが、まず「忙しさ」を嫌う学生が目につきますね。説明会に行くと、学生から必ず「激務」という単語が出ます(笑)。あと、出版業界の採用って「無理ゲー」(クリアできないゲーム)の印象が強いんだと思います。頑張ってもどだい無理だろうという思い込みがある。手書きのESを4枚も書けない、頑張って書いても筆記で落とされる、苦労しても報われないから諦めよう、という学生が多いように感じます。
 我々の時代と比べて就活の作業の負担がすごく大きくなっているので、当たりもしない宝くじのために汗水たらすのは割に合わないと思われている。つまるところ、我々の業界や会社が、それを乗り越えようと思うほど、学生に魅力的に映っていないということでしょうね。

 ――学生に男女の違いは感じますか。
 女子のほうがきちんと準備して臨んでいますね。就活する男子すべてとは思いませんが、出版を目指す男子は準備をしてないというか、自然体で面接に来る人が多い。ただ、自然体が悪いわけでもないし、準備もし過ぎれば逆に弱点にもなり得ます。
 準備をしてきた女子の場合、面接の中でどれだけ本音を聞かせてくれるかがポイントです。完璧に準備したマニュアルトークだけで面接を続けられても評価に困りますしね。
 自然体の男子の場合は、面接でどれだけ成長するかですね。面接の前半より後半、前回の面接より今回の面接ほうが良くなったと思えるかどうか、準備していない分、伸びしろがあると思うので、ポテンシャルを見ています。

■採用スケジュール
 ――2017年卒採用はスケジュールが変わりますが、選考フローは2016年卒と同じですか。
 選考のフローはだいたい同じです。ESを2月から配布し、4月の連休前までに締め切って5月中には筆記試験をし、6月から面接――という流れに大きな変更はありません。「8月1日選考解禁」だった昨年も、うちは6月から面接を始めましたし、就活前倒しによる大幅なスケジュール変更は考えていません。
 ただ、実際に採用できる学生の傾向には多少影響するかもしれません。昨年は新聞社の選考が遅かったために、ジャーナリズム誌志望の学生の応募が結構多かったのですが、今回は新聞社も同時期のスタートになりそうなのでどうなるか。

 ――会社説明会は?
 説明会は2月下旬からですが、会社全体を説明するのではなく、特定のジャンルの社員を呼んで、コミックの仕事、書籍販売の仕事など具体的に説明します。人事より現場で活躍している社員のほうが学生も働くイメージを持ちやすいし、同じことを言っても説得力が違いますから。
 各部門の社員が2人ずつ来て、20~30分ずつ話をして、本の企画やプロモーション案を考えてみようとか実際の仕事に近い体験をしてもらい、最後に質疑応答です。学生は一回あたり100人で1日200人。今年は7日間開きました。説明会に参加できるかの抽選はありますが、採用には関係ありません。

「本が好き」は当たり前 ESに模範解答はない 「悪ノリ」して楽しんで書いて

■ES
 ――ESはA4で4枚もあるんですね。
 楽しんで書いてほしいのですが、学生にはかなりつらいようですね。私自身は就活のときノリノリで書きました。当時も4枚ぐらいでしたが、人に読んでもらうものを書くのって楽しいじゃないですか。たぶん今の学生はESを「テスト」と誤解しているんです。ESの設問に対し我々が模範解答を用意していて、それにどれくらい近いかで評価されると思っている。でも、同じ解答をしても人によって評価されたりされなかったりするし、就活は大学受験的な価値観でやらないほうがいいと学生には言っています。

 ――「志望するにあたっての決意」を書く欄がありますが、狙いは?
 キャッチコピー的なものですね。短い文章のほうがその人らしさが出る。マニュアル的な書き方ではなく、本人の言葉を引き出したい。
 やりたい仕事を具体的に書かせるのも同じ理由からです。単に志望動機を聞くと「本が好きで本に携わる仕事がしたい」といった個性のないものを書く人が出てくるので、最初から「成し遂げたいことは何ですか」と聞いています。

 ――「本を好きになったきっかけの一冊」という質問は出版社ならではですね。
 出版社の自己PRや志望動機で「本が好き」というのは当たり前で、それだけだと何も言ってないのと同じです。なんで本を好きになったのかを聞きたい。きっかけを聞くことで、その人らしさを引き出せる。苦労して一冊を選ぶと思うし、そこにその人らしさが出てきます。他にもお気に入りの作家や、その人に執筆を依頼する企画まで書いてもらいます。これも、あなたはどんな人に興味を持っているどんな人なの?と聞いているつもりです。

 ――「社会に出ることに対しての不安」という設問は?
 働く心構えとか覚悟を知りたい。期待する答え、模範解答はまったくありません。できるだけ就活マニュアルのテクニックが通用しない質問にしたくて設けている項目ですね。

 ――「面接でこれだけは絶対聞いてほしいという質問」を書かせる意味は?
 面接での会話のとっかかりでしょうかね(笑)。特定の能力や資格をアピールする欄を設けると、「○○重視」と誤解されるので設けていませんが、アピールしたい能力や資格がある人はここでアピールしてほしい。

 ――写真と文章で「自分を表現して」という設問もありますね。
 証明写真ではない素顔を知りたい。実際には会わないとわかりませんが、書類の段階でも本人の匂いみたいなものを感じたいんです。送られてくるものには、サークル活動の写真や旅行の写真もあるし、漫画の編集志望だと、漫画を部屋に並べてその上で自分が寝転がっている写真なんていうのもありました。

■誤字脱字OK?
 ――印象に残っているESは?
 ほぼないですね。マニュアルのせいでESが没個性化しています。良い意味で「悪ノリ」して、読む側を楽しませてやろうというような肩の力の抜けたものを期待しているのですが……。ESの通過率は昨年実績で約7割なので、良いものを「選ぶ」というよりは、どこか良いところを見つけて「残す」感じです。光るもの、ひっかかるものがあれば、少々ダメなところには目をつぶって、できるだけ筆記試験に進めます。

 ――誤字脱字は即アウトですか。
 程度によりますが、多少の誤字は許容しています。1文字でもあったら不合格としちゃうと、我々見る側も1文字も見落としちゃいけないことになる。膨大な作業ですよ(笑)。ESで誤字脱字は絶対ダメという会社の場合も、ある人は誤字で落とされて、ある人の誤字は見逃されるという不公平があるんじゃないですか。まあ、それも就活といえば就活なんでしょうけれど。
 ESの誤字のエピソードで言えば、キャッチフレーズ(決意)のところで、「週刊少年マガジンを3000000万部売ります」と書いてきた学生がいました。300万部かと思ったら、「300万」万部だから3兆部。最終面接で社長が気付いて、「そりゃキミ、桁が大きすぎだろ」と笑い話になりましたが、そのESを書いた人物は、うちで働いています。
 あまりにも誤字脱字が多いとか、何十カ所も修正液というのはどうかと思いますが、丁寧な対応なら大丈夫です。締め切りギリギリに誤字が見つかっても最初から書き直すのは無理だし、「もう心が折れたから出すのをやめた」なんてことはしないで、というメッセージです。

 ――手書きのESにこだわるわけは?
 「字を見れば人となりがわかる」などと言うつもりはありませんが、手書きというハードルを乗り越えることで志望度が測れるのは間違いない。それに、良いところを見つけていくためのESなので、書く要素が多いほうが救えるし、次に進めてあげられる。もしESでバッサリという方針なら、設問ももっと絞りこむというのもありだと思いますが。

 ――これだけ多いと読む方も大変ですね。
 はい、数人で読むので正直大変です。でも、読む人数を多くすると選考は楽になりますが評価にバラつきが出ます。学生一人ひとりの人生がかかっていますから、その意識をもって選考できる人間が少数で読むべきだし、それが人事のたしなみだと思います。

 ――ひと目で落とすESは?
 枚数不足とか、証明写真や最後の写真を貼り忘れたものは通せません。ESを書き上げた最後に写真を貼る学生も多いので、貼り忘れは毎年あります。手元に残すためコピーしたときに間違えて、1枚目が2枚あって2枚目がなかった、とかも同様です。設問に対する答えがあまりに短いものもマイナスです。「特にありません」とか、スペースの半分も埋まっていないようだと、意欲や志望度に疑問を持ちますよね。あと、締め切りは当然シビアです。

■筆記試験
 ――筆記試験は時事問題がメインですか。
 出版社なので森羅万象、ありとあらゆることがテーマになります。出題範囲が多岐にわたるため、学生には「とんでもなく難しい」と言われているようです。

 ――難問奇問のオンパレードとか。
 そうは思っていませんが、まさかこんなこと聞くの?という問題はあるかもしれませんね。学生には講談社は堅物の会社と思われているようで、漫画の設問とかがあると面食らっちゃうようです。

 ――筆記試験通過の目安は?
 検定試験ではないので、最低この点数取らないとダメ、というラインはありません。手応えがないからと途中で投げ出すのはやめてね、と伝えています。筆記試験は1次面接に進む人を決めるためのもので、1次面接に1000人進ませるとしたら、上から1000番目までを選ぶだけのことです。みんなが80点取れるテストで上位1000人選ぶのと、平均30点のテストで上位1000人選ぶのとでは手応えが違う。簡単にすると8割取れても落ちるから、ショックじゃないですか。今は全然手応えがなかったのに受かっちゃった、となります。だから難しいというだけで毛嫌いしてほしくない。簡単にしようという意見もあるが、平均60点くらいの問題にしようとして、ほとんどの人が満点だったら試験としては失敗ですよね。順位付けをきちんとするにはある程度難度を上げるしかないのかなと。いろんな学部の人に受けてほしいので特定の勉強をした人に有利にならないようにも心掛けてます。

 ――平均点は50点くらいのイメージですか。
 どうでしょう、もう少し低いのかも知れませんね。問題ごとの正答率を取っていて、90%台のものもありますが、何問かは一桁台なので、そういうのは減らさないといけないと思っています。