人事のホンネ

株式会社講談社

2017シーズン 【第10回 講談社】
仕事が面白くてつい「激務」に 求めるのは自分から動ける人

総務局人事部副部長 山崎英文(やまさき・ひでふみ)さん

2016年03月30日

■採用数、エントリー数
 ――2015年4月の新入社員の数と、2016年度入社予定の内定者数を教えてください。
 2015年は20人で、内訳は総合職19人、校閲職1人です。2016年入社の内定者も20人ですが、この年から総合職で「編集」「営業」の部門別採用を始めました。編集14人、営業4人、校閲2人で、男女比は7対3です。理系の学生は内定者の1割程度。理系が不利とか有利とかはまったくありません。
 その前の2014年入社は全体で12人でした。この年は辞退者が出て少なくなりましたが、毎年20人を目安に内定を出しています。

 ――なぜ総合職を「編集」と「営業」に分けたのですか。
 営業部門に配属された社員が編集への異動を希望するケースがあって、営業志望者を採用することにしました。これまでの総合職一本のときも、営業志望と編集志望の人材をある程度分けて採用していたので実質は変わらないのですが、社会人としての第一歩をどの職種でスタートするのか、入社前に決めて覚悟をもってもらうのは、学生にとってもいいのではないでしょうか。

 ――採用ホームページ(HP)で選考過程や通過者数を詳細にオープンにしていますね。
 公開するようになったのは2年前から。ネットで「○人残ったらしいぞ」などいろんな情報が錯綜していました。別に出して都合の悪い情報はなく、むしろ「エントリーシート(ES)選考の通過率はこんなに高いんですよ」と伝えたほうが、学生のモチベーションが上がるんじゃないかと思ったんです。学生には評判がいいので、やってよかったですね。

 ――2016卒採用の本エントリーは2789人だったそうですが、増減は?
 4年連続でWEBエントリーも本エントリーも減っています。本エントリーに関しては年に200~300人ずつ減っている感じです。出版不況などネガティブなイメージを持たれていることもありますが、まず「忙しさ」を嫌う学生が目につきますね。説明会に行くと、学生から必ず「激務」という単語が出ます(笑)。あと、出版業界の採用って「無理ゲー」(クリアできないゲーム)の印象が強いんだと思います。頑張ってもどだい無理だろうという思い込みがある。手書きのESを4枚も書けない、頑張って書いても筆記で落とされる、苦労しても報われないから諦めよう、という学生が多いように感じます。
 我々の時代と比べて就活の作業の負担がすごく大きくなっているので、当たりもしない宝くじのために汗水たらすのは割に合わないと思われている。つまるところ、我々の業界や会社が、それを乗り越えようと思うほど、学生に魅力的に映っていないということでしょうね。

 ――学生に男女の違いは感じますか。
 女子のほうがきちんと準備して臨んでいますね。就活する男子すべてとは思いませんが、出版を目指す男子は準備をしてないというか、自然体で面接に来る人が多い。ただ、自然体が悪いわけでもないし、準備もし過ぎれば逆に弱点にもなり得ます。
 準備をしてきた女子の場合、面接の中でどれだけ本音を聞かせてくれるかがポイントです。完璧に準備したマニュアルトークだけで面接を続けられても評価に困りますしね。
 自然体の男子の場合は、面接でどれだけ成長するかですね。面接の前半より後半、前回の面接より今回の面接ほうが良くなったと思えるかどうか、準備していない分、伸びしろがあると思うので、ポテンシャルを見ています。

■採用スケジュール
 ――2017年卒採用はスケジュールが変わりますが、選考フローは2016年卒と同じですか。
 選考のフローはだいたい同じです。ESを2月から配布し、4月の連休前までに締め切って5月中には筆記試験をし、6月から面接――という流れに大きな変更はありません。「8月1日選考解禁」だった昨年も、うちは6月から面接を始めましたし、就活前倒しによる大幅なスケジュール変更は考えていません。
 ただ、実際に採用できる学生の傾向には多少影響するかもしれません。昨年は新聞社の選考が遅かったために、ジャーナリズム誌志望の学生の応募が結構多かったのですが、今回は新聞社も同時期のスタートになりそうなのでどうなるか。

 ――会社説明会は?
 説明会は2月下旬からですが、会社全体を説明するのではなく、特定のジャンルの社員を呼んで、コミックの仕事、書籍販売の仕事など具体的に説明します。人事より現場で活躍している社員のほうが学生も働くイメージを持ちやすいし、同じことを言っても説得力が違いますから。
 各部門の社員が2人ずつ来て、20~30分ずつ話をして、本の企画やプロモーション案を考えてみようとか実際の仕事に近い体験をしてもらい、最後に質疑応答です。学生は一回あたり100人で1日200人。今年は7日間開きました。説明会に参加できるかの抽選はありますが、採用には関係ありません。

「本が好き」は当たり前 ESに模範解答はない 「悪ノリ」して楽しんで書いて

■ES
 ――ESはA4で4枚もあるんですね。
 楽しんで書いてほしいのですが、学生にはかなりつらいようですね。私自身は就活のときノリノリで書きました。当時も4枚ぐらいでしたが、人に読んでもらうものを書くのって楽しいじゃないですか。たぶん今の学生はESを「テスト」と誤解しているんです。ESの設問に対し我々が模範解答を用意していて、それにどれくらい近いかで評価されると思っている。でも、同じ解答をしても人によって評価されたりされなかったりするし、就活は大学受験的な価値観でやらないほうがいいと学生には言っています。

 ――「志望するにあたっての決意」を書く欄がありますが、狙いは?
 キャッチコピー的なものですね。短い文章のほうがその人らしさが出る。マニュアル的な書き方ではなく、本人の言葉を引き出したい。
 やりたい仕事を具体的に書かせるのも同じ理由からです。単に志望動機を聞くと「本が好きで本に携わる仕事がしたい」といった個性のないものを書く人が出てくるので、最初から「成し遂げたいことは何ですか」と聞いています。

 ――「本を好きになったきっかけの一冊」という質問は出版社ならではですね。
 出版社の自己PRや志望動機で「本が好き」というのは当たり前で、それだけだと何も言ってないのと同じです。なんで本を好きになったのかを聞きたい。きっかけを聞くことで、その人らしさを引き出せる。苦労して一冊を選ぶと思うし、そこにその人らしさが出てきます。他にもお気に入りの作家や、その人に執筆を依頼する企画まで書いてもらいます。これも、あなたはどんな人に興味を持っているどんな人なの?と聞いているつもりです。

 ――「社会に出ることに対しての不安」という設問は?
 働く心構えとか覚悟を知りたい。期待する答え、模範解答はまったくありません。できるだけ就活マニュアルのテクニックが通用しない質問にしたくて設けている項目ですね。

 ――「面接でこれだけは絶対聞いてほしいという質問」を書かせる意味は?
 面接での会話のとっかかりでしょうかね(笑)。特定の能力や資格をアピールする欄を設けると、「○○重視」と誤解されるので設けていませんが、アピールしたい能力や資格がある人はここでアピールしてほしい。

 ――写真と文章で「自分を表現して」という設問もありますね。
 証明写真ではない素顔を知りたい。実際には会わないとわかりませんが、書類の段階でも本人の匂いみたいなものを感じたいんです。送られてくるものには、サークル活動の写真や旅行の写真もあるし、漫画の編集志望だと、漫画を部屋に並べてその上で自分が寝転がっている写真なんていうのもありました。

■誤字脱字OK?
 ――印象に残っているESは?
 ほぼないですね。マニュアルのせいでESが没個性化しています。良い意味で「悪ノリ」して、読む側を楽しませてやろうというような肩の力の抜けたものを期待しているのですが……。ESの通過率は昨年実績で約7割なので、良いものを「選ぶ」というよりは、どこか良いところを見つけて「残す」感じです。光るもの、ひっかかるものがあれば、少々ダメなところには目をつぶって、できるだけ筆記試験に進めます。

 ――誤字脱字は即アウトですか。
 程度によりますが、多少の誤字は許容しています。1文字でもあったら不合格としちゃうと、我々見る側も1文字も見落としちゃいけないことになる。膨大な作業ですよ(笑)。ESで誤字脱字は絶対ダメという会社の場合も、ある人は誤字で落とされて、ある人の誤字は見逃されるという不公平があるんじゃないですか。まあ、それも就活といえば就活なんでしょうけれど。
 ESの誤字のエピソードで言えば、キャッチフレーズ(決意)のところで、「週刊少年マガジンを3000000万部売ります」と書いてきた学生がいました。300万部かと思ったら、「300万」万部だから3兆部。最終面接で社長が気付いて、「そりゃキミ、桁が大きすぎだろ」と笑い話になりましたが、そのESを書いた人物は、うちで働いています。
 あまりにも誤字脱字が多いとか、何十カ所も修正液というのはどうかと思いますが、丁寧な対応なら大丈夫です。締め切りギリギリに誤字が見つかっても最初から書き直すのは無理だし、「もう心が折れたから出すのをやめた」なんてことはしないで、というメッセージです。

 ――手書きのESにこだわるわけは?
 「字を見れば人となりがわかる」などと言うつもりはありませんが、手書きというハードルを乗り越えることで志望度が測れるのは間違いない。それに、良いところを見つけていくためのESなので、書く要素が多いほうが救えるし、次に進めてあげられる。もしESでバッサリという方針なら、設問ももっと絞りこむというのもありだと思いますが。

 ――これだけ多いと読む方も大変ですね。
 はい、数人で読むので正直大変です。でも、読む人数を多くすると選考は楽になりますが評価にバラつきが出ます。学生一人ひとりの人生がかかっていますから、その意識をもって選考できる人間が少数で読むべきだし、それが人事のたしなみだと思います。

 ――ひと目で落とすESは?
 枚数不足とか、証明写真や最後の写真を貼り忘れたものは通せません。ESを書き上げた最後に写真を貼る学生も多いので、貼り忘れは毎年あります。手元に残すためコピーしたときに間違えて、1枚目が2枚あって2枚目がなかった、とかも同様です。設問に対する答えがあまりに短いものもマイナスです。「特にありません」とか、スペースの半分も埋まっていないようだと、意欲や志望度に疑問を持ちますよね。あと、締め切りは当然シビアです。

■筆記試験
 ――筆記試験は時事問題がメインですか。
 出版社なので森羅万象、ありとあらゆることがテーマになります。出題範囲が多岐にわたるため、学生には「とんでもなく難しい」と言われているようです。

 ――難問奇問のオンパレードとか。
 そうは思っていませんが、まさかこんなこと聞くの?という問題はあるかもしれませんね。学生には講談社は堅物の会社と思われているようで、漫画の設問とかがあると面食らっちゃうようです。

 ――筆記試験通過の目安は?
 検定試験ではないので、最低この点数取らないとダメ、というラインはありません。手応えがないからと途中で投げ出すのはやめてね、と伝えています。筆記試験は1次面接に進む人を決めるためのもので、1次面接に1000人進ませるとしたら、上から1000番目までを選ぶだけのことです。みんなが80点取れるテストで上位1000人選ぶのと、平均30点のテストで上位1000人選ぶのとでは手応えが違う。簡単にすると8割取れても落ちるから、ショックじゃないですか。今は全然手応えがなかったのに受かっちゃった、となります。だから難しいというだけで毛嫌いしてほしくない。簡単にしようという意見もあるが、平均60点くらいの問題にしようとして、ほとんどの人が満点だったら試験としては失敗ですよね。順位付けをきちんとするにはある程度難度を上げるしかないのかなと。いろんな学部の人に受けてほしいので特定の勉強をした人に有利にならないようにも心掛けてます。

 ――平均点は50点くらいのイメージですか。
 どうでしょう、もう少し低いのかも知れませんね。問題ごとの正答率を取っていて、90%台のものもありますが、何問かは一桁台なので、そういうのは減らさないといけないと思っています。

憧れだけじゃなく覚悟、心構えあるか 面接では掘り下げない 自ら発信して

■面接
 ――HPには1次面接は「一緒に働きたいと思える人物かどうか」を見るなど、面接ごとの視点が書かれていますね。
 1次面接をする現場社員には「一緒に働きたいと思える人物かどうか」で見てもらっています。そこに細かいルールを設けているわけではなく、個々の社員の感性に任せている部分はありますが、多様な人材がいていい会社なので、そのぐらいの基準で丁度よいのではないでしょうか。

 ――山崎さんが見るポイントは?
 私がかかわるのは3次面接ですが、ここを通るとほぼほぼ内々定なので、志望の度合いが本物か、出版という仕事を正しく理解しているか、働く覚悟や心構えができているかを見ています。憧れだけじゃなくて、自分の職業としての本、雑誌をちゃんと理解しているか。本や雑誌が好きといっても実際はそこに載っている何かが好きなはずで、本や雑誌を通じて伝えたい何か、そういう「好き」を持っているか、それに対する熱量も含め見ています。

 ――以前、就活イベントで、「本が好き」だけではダメで、「なんで好き」「いつから好き」みたいな問いを3回は掘り下げてと話していましたね。面接では掘り下げて聞きますか。
 そうでもありません。「なんで」「なんで」とこちらが掘り下げないと自分らしさが出せないような人は出版の仕事はしんどいんじゃないですかね。作家さんの秘めた思いとか、埋もれている才能を引き出すのが編集者の仕事。編集者が自分の思いや腹の内を他人から掘り下げてもらわないと出せないのでは困ります。だから面接では案外掘り下げないかもしれませんね。いろんな業界の人が参加する模擬面接のイベントで、いつものやり方で面接していたら、他の企業の人事の方に「うちはこんな掘り下げない面接だと評価できない」と言われました。別の企業の方の面接を見て、逆にこちらは「どうしてここまで掘り下げるんだろう。優しくする必要があるんだろう」と思いました。引き出してあげていたら、いつまでたっても自分から出せないだろうと思ったんですが、世間的には引き出してあげるほうがスタンダードみたいですね。

 ――あえて掘り下げない?
 業界や会社によって求める人材が違うんだと思います。出版社の社員は表現する側なので、自分の将来がかかった一世一代の舞台で、自分から発信できないのはいかがなものかという考え方ですね。あとは、講談社の社員として必要な資質があるのかどうか。会社が手取り足取り面倒見てくれるわけではないし、マニュアル化できる仕事でもない。編集はもちろん、販売も取り扱う商品が一つひとつ違うので、自分で考えて自分で動くしかないし、そうしないとスキルも上がらない。周りから何かしてもらうことで自分が行動を起こすのではなく、自分から動ける人間でないと、うちの会社で成長するのは厳しいと思います。

 ――とすると、自ら発信できない学生の面接では沈黙が続く?
 面接官は1人じゃないのでそうはなりませんが、一問一答形式みたいにはなりがちですね。我々が段取りしてあげるのではなく、面接される学生が面接の場の空気を演出して作り上げていくのが理想ですね。結果として、ただの世間話をして終わっちゃったという印象をもつ学生もいるようですが、それでいいんですよ(笑)。

 ――HPに面接時の服装は自分で考えてと書いてありますが、実際は?
 私服もいますが、就活スーツが多いですね。2016年卒採用は暑い時期ということもあって、少し私服が増えた気がします。服装はほぼ見ていませんが、私服でいいと言うと学生は私服じゃなきゃいけないと思うかもしれない。そうすると、うちの会社の前後にスーツでないといけない会社の面接があった場合、両方持っていかなきゃいけませんよね。我々が重視していない部分(服装)で学生を振り回すのは本意じゃないので、スーツでも私服でもお好きにどうぞと言っています。ファッション誌の志望でも同じです。

■配属
 ――面接で時事問題などのニュースについては聞きますか?
 志望ジャンルによって違いますね。「週刊現代」や「フライデー」志望であれば当然そういう質問もありますが、コミック志望の学生には時事問題でもカルチャーとか芸能とかの話が多くなるのではないでしょうか。

 ――面接の時点で、この学生はジャーナリズム、文芸、コミックとジャンルを決めているんですか。
 各ジャンルで何人くらい内定を出そうというイメージはありますが、当初の志望通りに配属するわけではないし、全体で20人ぐらい採れればいい。本人はこっちの志望だが、明らかにあっちのほうが向くということもあります。このジャンル以外には適性がないという人はあまり評価されないかもしれないですね。総合出版社なので、幅広く活躍できる人が望ましい。実際に働いてイメージが違ったというとき、この仕事しか道はなかったとなるとお互いに不幸です。それに、年齢を重ねるうちにやりたこいことや価値観は変わってきますし。

 ――何でもできるほうがいい?
 私の場合もずっと「漫画畑」でしたが、ある年齢のとき「漫画編集者としての旬は過ぎたかな」と感じたんです。50歳とか定年間近で漫画の編集をやっているイメージを持てなかったので、それなら早めに別の新しいことに挑戦したほうがいいと思いました。もちろん定年ギリギリまで漫画編集をする人もいます。人それぞれなんでしょうが、道は複数あるほうが本人のためではないでしょうか。せっかくの総合出版社なのですから。

 ――新人が配属されない部署もありますか。
 行きやすい部署、行きにくい部署はありますが、ルールとして新入社員を配属させない部署はありません。新人はデジタル部門やライツ部門(著作権ビジネス)に行かないという話が学生の間でまことしやかに流れていますが、今までなかっただけ。実際、デジタル部門には2015年に新人が配属されました。

 ――最初は「フライデー」で修行するイメージもあります。
 週刊誌は経験が積みやすい面はあります。毎週企画を出して取材して、入稿、校了と打席に立てる回数が書籍や月刊誌より多いのでルーティンの仕事を身につけやすいですね。もちろん、いきなり書籍に行く人もいますが。

■SNS活用
 ――facebookやTwitterで採用情報を熱心に発信していますね。
 SNSは双方向でやりとりできるし、生身の人間がそこにいると学生に感じてもらいたい。昨年度はES締め切りの数日前にtwitterで「なかなか重い腰が上がらない人で、尻をたたいてほしいという人はそうリプライ(返信)をしてくれたら思い切りたたいてあげますよ」と書き込んで、実際にリプが来ると「バチーン!」と返すとか。「カレー食べながらESに向かっているのですが一向に筆が進みません」という人に、「それはキミがスプーンを右手で持っているからだ」とか、延々とやりました。そういうノリを許容してくれるのもうちの会社の魅力だと思います。

 ――面白そうですが大変では?
 通り一遍の事務的なTwitterなら面倒な負担が増えるだけと思うんでしょうけど、学生の生の声が聞けたり出来るので結構ハマります。うちの会社いいなと思ってもらいたいわけではなく、ちょっとした学生の気分転換になればと始めたんですが、割に評判いいので続けています。盛り上がって、ES締め切り当日の明け方4時ごろまで学生とTwitterで話していたこともあります。

■激務?
 ――「出版=激務」という話がありましたが、現実は?
 かつては紙の雑誌や本を作っていればよかったが、メディアミックス、海外展開、電子書籍など、出版社がやらなければならない仕事の量は増えました。漫画編集者でも、今まではなかったアニメのシナリオチェックから、アフレコの収録立ち会い、キャラクターグッズの監修まで、仕事は確実に増えています。

 ――昔も忙しかったが、さらに忙しくなった?
 どうでしょう。出版の仕事がしたくて入社した人間の集まりなので、仕事が減ってもその時間をかけてより良いものを作ろうとするのかもしれないですね。それに、インターネットがなかった時代は、いつ来るかわからない作家さんの原稿を待って会社にずっといなきゃいけない、朝になっても来なくて結局帰ったということもあったが、今は作家さんとのやりとりもメールや携帯でいつでもどこでもできるようになりました。直接取りに行くのが当たり前だった原稿も、今はデータで送ってくる作家さんもいます。デジタル化で負担が軽減された部分もあるので、その時間を新しい仕事にうまくあてこんでる場合もあるでしょう。

 ――「激務」を気にする学生にはどう説明しますか。
 激務は激務ですが、みんな出版の仕事がしたくて入社し、本当にやりたい仕事ができているので、イヤイヤ働いている人はいません。これで十分なのにもっと良いものがつくれるはずだと頑張るから自ずと労働時間が長くなる。仕事を切り上げて家に帰ればもっと楽しいなら早く帰ると思うが、目の前にある仕事のほうが面白いからついつい頑張っちゃうのがこの仕事の一番の特徴なんじゃないか、という話をしますが、そこをあまりに気にする学生には無理に勧めないです。

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■求める人材
 ――競合するのは出版社ですか。
 そうでもなくて、出版社、金融、メーカー、ゲーム会社、映画会社、新聞社もあって、本当にいろいろです。複数の内定を持っている学生もいますが、講談社以外どこも内定がもらえなかった、という学生も多いですよ。

 ――求める個性が違うということですか。
 会社ごとに求めているパーソナリティーに違いがあるんでしょうかね。同じ出版業界内でも、うちは内定したが、よそはESで落ちました、という学生もいるし、逆も珍しくないと聞きます。

 ――講談社が求めるパーソナリティーは?
 自分から発信できる、自分から動ける、自分から仕事を作れる人間ですね。誤解をおそれずに言えば、うちの会社は自由な社風なので、ずるい人間が入社してしまうと、必要最低限の仕事だけして給料もらって定年までいることもできる「ぬるま湯」的なところもあります。そのぬるま湯を自分で熱々のお湯に変えられるくらいの人でないとダメ。だから、能力はあっても尻をたたかないと動けない人は難しい。逆に、能力は少し劣っていても、自分を奮い立たせて打席に立てる人は伸びるチャンスがあるし、そういう人のほうが向いています。
 総合出版社なので、真面目な人間もいればやんちゃな人間もいていいんです。人物像を絞り込みたくない。自分から仕事をつくれる人、働くことに対する覚悟ができている人、腹が据わっている人であれば、性格も頭の良し悪しも価値観もいろいろあっていい。そうじゃないと、うちの会社の多様な出版物は作れないと思います。

 ――出版社ならではのやりがいと厳しさとは?
 漫画編集者だった経験から言うと、作家さんと編集者って、本当に人と人との付き合いです。取引先と会社を代表して接するんじゃなくて、あくまでも個人と個人。作家さんからは、恋愛相談とか、引っ越しの手伝いとか、ときにプライベートなところまで求められます。腹を割って話し合って仕事していくので、波長の合わない作家さんを担当しちゃうと正直つらい部分もありますね。
 でも、それって厳しいだけでもありません。毎週のように作家さんに怒鳴られたこともありますが、振り返って思い出すことって、その瞬間にはつらいと思っていたことだったりする。後になると、楽しかったことは意外と覚えていなくて、記憶が鮮明なのは「あのときは本当に死ぬかと思った」みたいな話なんですよ。そういう経験があるから成長できているとも感じます。仕事が楽しいだけのときって、実はあまり自分に負荷をかけず余力を残して仕事をしているから、伸びてないのかもしれませんし。
■山崎さんの就活と仕事
 ――ご自身の就活を振り返ってください。
 20年以上前ですが、出版社中心に受けました。幸い、わりと早期にメーカーの内定が一つ取れたので、あとは総合出版社をメインに出版社に絞って受けました。なぜ講談社かというと、出版社は講談社しか僕を選んでくれなかったから(笑)。結果的にうちの会社にすごくフィットしていたと思うし、いま採用担当を任されているのも会社との相性が良かったのからだと思います。選考のときはたぶん、こいつムスッとしているけど、話すと意外に可愛いヤツじゃん、くらいに思われてたのかな。ノリノリでESを書いたのは、それも相性なんだと思います。他社のESはそこまでノリノリで書いた記憶がありませんから。

 ――どんなESを書いたんですか。
 当時、講談社が私の好きな「三国志」のフェアを大々的に展開していたので、ESのすべての項目を三国志の登場人物に絡めて書いたんです。最終面接で強面のオジサンのうち1人が「キミのこの書類さ、面白いよ」って言ってくれて、「ああ、これってアリだったんだ」とすごく嬉しく思いました。でも、この話が一人歩きすると困るんで学生には言わないようにしています。同じように書けば通るってものじゃないですから。

 ――もともと講談社が一番好きだった?
 どこが一番というのはなかったですね、総合出版では大手3社か文春、新潮に入れたらいいなと思っていました。

 ――文春、新潮も受けたということは、漫画志望ではなかった?
 漫画志望というわけではないですね。就活を始めたとき、自分は文系学生だったので、普通に会社に入るときっと営業職だろうと思ったんです。でも営業って自分に向かなそうだな、売る側ではなくて何か作る側になれないかなと考えたとき、「そうだ、本や雑誌なら作れるか」ということで出版を志望したんです。だから出版志望の学生にありがちな「○○(部門)志望」というのはなくて、本や雑誌を作れるならジャンルに強いこだわりはありませんでした。ただ、自分が読み手としてイメージできるものがいいので、女性誌とか女性コミックは違うかな、ジャーナリズム誌、男性コミック誌、男性向けファッション誌、文芸がやりたいと言っていたような気がします。

 ――志望業界を絞れたのはいつごろ?
 固まったのは3年生の終わりか4年の始めごろで、それまでは就活なんて意識せず、ダラダラ過ごしていました。ただ昔からものを書くのは好きで、小学生のときはふざけた内容の学級新聞を、中学のときは国語の教科書に出てくる小説や古文をパロディーにした小説もどきを父のワープロで書いていました。潜在的に記者とか編集者が向いているんじゃないかと思っていて、周囲の大人にも「新聞記者とか出版社がいいんじゃないか」と言われていました。でも就職に関しては、周囲が就活を始めて、慌てて自分も意識し始めたくらいです。

 ――入社後はどんな仕事を?
 まず「ヤングマガジン」の編集部で8年間、漫画、グラビア、記事、ほぼすべてやりました。その後、デジタルコンテンツ部でオリジナルのコンテンツを作ってネットで有料配信する仕事をしましたが、時代を先取りし過ぎてまったく売れず4年で異動に。「モーニング」編集部に移って6年間、漫画の編集だけをやりました。その次に採用担当になって5年になります。

■出版業界のこれから
 ――これからの出版業界、講談社の未来像を教えてください。
 本をつくって売ってそれでおしまい、という時代ではありません。物語やキャラクター、ブランドイメージといったコンテンツを、どう世の中に広げていけるかを考えるのが出版社の今後のあり方ですね。映画やドラマなどの映像化なのか、ファッションなどのイベント事業なのか。あるいは「進撃の巨人展」みたいな展覧会、遊園地のアトラクションといろいろある。これをやっちゃダメというものはなくて、コンテンツを軸足にいろんな会社を結びつけて、どんどん発信していく。紙媒体以外のいろんなツールを使って、我々のコンテンツをお客様に届けていく。そんな時代だと思います。ですから、これからは何でもできる総合エンターテインメント産業になっていくと思っています。

 ――出版業界の未来は明るい?
 出版不況と言われますが、我々が作っているものが時代遅れとか、世の中にそっぽを向かれているわけじゃなく、お客様に届ける方法が時代に合わなくなってきているのかもしれません。そこを再構築できれば、この業界は伸びていけると思っています。逆に言うと、今の学生はすごく良いタイミングで入社できてうらやましい。自分の能力や可能性を際限なく試せる時代だし、そのための環境が整っている会社であることは間違いありません。

みなさんに一言!

 面接やESで落とされても別に悲観することはありません。むしろ、入っちゃいけない会社に間違って入らなくて良かったと思ってほしい。自分を正しく表現し続けて、その正しい自分を高く買ってくれる、評価してくれる会社に行けばいい。リアルな自分が活躍できる会社を見つけるのが就活なので、内定を取るために自分を変えたり、マニュアルで守りを固めたりして、本当の自分を出せないのが一番やっちゃいけないこと。不採用やお祈りメールで落ち込む気持ちはわかるし、私もそのときは良い思いはしなかったが、会社との相性が否定されただけで、能力や人間性まで否定されたわけではありません。そこは間違えないでほしい。就活生だけが一方的に企業に選ばれているんじゃなくて、みなさんも志望の業界や会社を決めるとき、当然シビアな目で見ていますよね。みなさんの就職活動、企業の採用活動は、学生と企業が対等な立場でお互いを見せ合うもの。そういう視点で臨むと良い就活ができると思います。

株式会社講談社

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 1909年創業の講談社は、雑誌・書籍・コミックのすべてを手がける総合出版社です。近年では紙媒体の編集・発行だけでなく、電子書籍事業や各種メディアミックス、海外への進出など新たな事業にも果敢に挑戦しています。新しい時代の、新しい出版というビジネスを我々と一緒に「再発明」してくれるみなさんを募集しています。