人事のホンネ

神奈川県

2020シーズン【第12回 神奈川県庁】(後編)
秋は「専門試験」なし 「どんな公務員になり何したいか」考えて

神奈川県 総務局組織人材部人事課 課長 河鍋章(かわなべ・あきら)さん

2019年03月12日

 人気企業の採用担当者インタビュー「人事のホンネ」2020シーズンの最終回、神奈川県庁の後編です。秋季チャレンジは難しい「専門試験」なしですから、民間志望者にもチャンスがありそう。一方で「公務員になりたい」だけの人はNGだとか。志望動機のポイントを聞いてみました。(編集長・木之本敬介)
前編はこちら

■1次試験
 ──選考について教えてください。
 夏の1次試験は「教養試験」「専門試験」からなる筆記試験、2次では論文試験、グループワーク、面接を行います。

 ──筆記試験はかなり勉強しないと受かりませんよね。
 地方公務員法第20条で「採用試験は、筆記試験その他の人事委員会等が定める方法により行うものとする」と書かれていますから筆記試験は行っていますが、学校の勉強だけではなく、専門学校にも通う「ダブルスクール」の人が多いようですね。
 ただし、秋季チャレンジでは専門試験をなくしました。確かに専門試験は難しいですが、教養試験だけなら独学でも勉強できると思います。

 ──秋季チャレンジで専門試験をなくしたのは、いろんな人が公務員を目指せるように?
 はい。代わりに自己PRシートを出し、面接では最初の5分程度で「意欲・向上心・行動力」をプレゼンテーションしてもらいます。この点は普通の公務員試験とは違います。

■GDと論文
 ──2次試験のグループワークは、いわゆるグループディスカッション(GD)ですね。
 8人ほどで約1時間、グループワーク形式で実施しています。事前にテーマを与えて考えてきてもらい、その場で議論してグループとしての意見をまとめ、発表してもらいます。
 面接だけでなく多面的に人物を見ます。どういう人で、どういう役割か、人物特性を見ています。組織での立ち居振る舞いも見ます。

 ――2019年卒の夏試験のテーマは「18 歳までに身につけておいた方がよいことは何か、グループで3点挙げ、優先順位をつけた上で、その理由について説明しなさい」でした。事前にテーマを示すのはどうしてですか。
 事前にテーマを伝えることで準備をしてもらい、当日は活発な議論をしてもらうためです。

 ──最近はGDの訓練をしてくる学生が多いと思います。
 かなり慣れていますね。役割分担を含めて、すべて自由に進めてもらいます。
 発言内容にもよりますが、極端に発言が少ない人は評価が難しいですね……。

 ──過去の論文のテーマは「人工知能(AI)」「SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)」など比較的オーソドックスですね。
 論文試験では思考力、創造力、論理力、柔軟性を問うことにしています。県職員はたくさん文書を書かなくてはいけないので、基本的な文章の作成能力があるかどうかが大切ですね。分かりやすい文章が書けないと話にならないので。

人間性・意欲・印象みる 神奈川県の課題に向き合う意識持って

■面接
 ――面接の形式は?
 個別面接2回で、若手による面接と幹部面接です。若手面接は面接官2対学生1。面接官は必ず男女のペアです。若手の年齢は20代半ばから30代半ばくらいです。若手面接では、出してもらった自己紹介の書類「面接票」を参考に面接をします。

 ──面接で重視するのは?
 見るのは人間性。目的意識ややる気が大事です。若手面接官には「組織で一緒に働けるかどうかを見て」と言っています。4月から隣に来て一緒に働けるかどうかですね。
 幹部面接には課長級の職員も入ります。こちらでは、人間性、意欲、印象を見ます。今度は「自分の部下としてやっていけるか」「仲間と調和してやっていけそうか」を見ています。

 ──「責任感」はどうやって見極めますか。
 責任感が問われる状況について質問して答えを見ています。

 ──県の施策を勉強してこないと答えられない質問も?
 神奈川県の施策を聞くことは当然あると思います。ただ知っているだけでなく、自分の意見を述べられるといいですね。

■志望動機
 ──「アグレッシブ」かどうかはどこで判断しますか。
 態度に表れると思います。ベラベラしゃべり続ける人がアグレッシブなのではなく、たとえば自分の意見を簡潔にまとめて言える、こちらがその答えを深掘りしたときにきちんと返せる、なおかつ県職員になったら「こういうことがしたい」と明確に言える人はアグレッシブだと思います。

 ──多種多様な仕事がありますが、「○○がしたい」と言ってもその部署に行けるとは限りません。「どんな仕事でもいいから神奈川県で働きたい!」ではダメですか。
 「何でもやります」もいいが、「神奈川県にはこんな課題がある」という指摘もいい。課題に向き合う意識を持つことが大事です。

 ──面接票を書くとき何も調べずに「何でもやります」と書くのと、しっかり調べたうえで「この仕事もこれも面白そう。だから何でもやります」と書く人の違いですね?
 そうです。「公務員になりたい」は大事ですが、それだけじゃダメということです。これからは少数精鋭でやっていかなければならない。一歩進んだ人を求めています。「どんな公務員になりたいか」「公務員になって何をしたいか」を考えてほしい。逆に「○○をしたいから公務員になりたい」でも構いません。

 ――どんな仕事をしたい人が多いのでしょう?
 多い答えは「観光」です。「では、観光でどんなことをやりたいの?」と聞くと、その後が続かない人がいます。あるいは県の役割でないことを答える人がいます。
 「どんな施策をしたい?」と聞くと、勉強している人は「県として」という言葉が出て来たりします。「県としてこういうことがやりたい」と自分の考えを具体的にしっかり答えてくれるといいと感じます。

 ──印象に残った学生は?
 一度学生をやめて、アメリカでホームステイをして帰国した人が受験しました。公務員的な奉仕の考え方を持っていて、日本の政策の問題点をアメリカと比べて熱く語れるし、語学も堪能なようでした。意欲、能力、人間性も優れていて公務員としてはまる。一緒にぜひ仕事をしたいと思い内定を出しました。

新聞の批評・批判読むのは「公務員のアンテナ」 神奈川は「日本の縮図」

■新聞
 ──神奈川県を受ける人にニュース、新聞は必要ですか。
 県のホームページを見ているだけではなく、新聞などで世の中の動きを知ることも大切だと思います。ホームページは県がやりたいことを中心に載せていますから。もちろんそれを知るのも大切ですが、神奈川県がどう思われているかを知ることも大事です。一般的な時事ニュースも大切ですが、神奈川県に関するニュースは批判的なものも含めて知っておいてほしい。

 ――アンテナを張るということですね。
 何でもかんでも幅広くアンテナを張ればいいわけでもありません。企業には企業のアンテナがあり、公務員には公務員のアンテナがあります。新聞の批評・批判を読むのは公務員のアンテナです。神奈川県の職員になりたい人が、他の都道府県ではこんなことをしていると知るのもアンテナです。たとえば、「福祉、教育なら長野県」とか。新聞は読んでください。

■神奈川ならでは
 ──公務員と民間の最大の違いは?
 全体の奉仕者としての責任感と倫理観ですね。

 ──県が市区町村と違うところは?
 「広域自治体」であることです。「基礎自治体」とは役割を分けています。県で施策を決めて、基礎自治体にやってもらうこともあります。たとえば未病の施策を県が打ち出し、「うちもやりたい」という市町村があれば住民にもっと身近な施策になります。
 さらに、これからは人口減少社会になるので、いま市町村がやっている業務を一つの自治体だけでは担いきれなくなるかもしれません。そのときには、県が支援していかなくてはいけません。

 ──神奈川県職員ならではの魅力を教えてください。
 全国で唯一、横浜、川崎、相模原と三つの政令指定都市を抱えて東京都のような都市的な課題がある一方で、海も山も観光地もあり、西の方は人口も減っていて地方的な問題もあります。「日本の縮図」といえます。
 東京オリンピック・パラリンピックでは、神奈川県の江の島でセーリングがあります。横浜市でサッカーの決勝もあるので、オリンピックを契機にインバウンドをどうしていくかも課題です。そうした魅力を、県としてどういかしていけるか、考えてみてください。

■河鍋さんの就活
 ──河鍋さんは、なぜ神奈川県庁に入ったのですか。
 入庁は昭和61(1986)年です。父親が神奈川県警で、弟は自衛隊工科学校に入って自衛官になろうとしていました。弟が自衛隊なら、私は普通の行政マンになろうと思いました。公務員一家ですね。大学は中退しましたが、当時あったⅡ種を受けて入庁しました。

 ──仕事の経歴と印象に残った仕事を教えてください。
 一番印象に残っているのは学校事務ですね。他県では県立学校の事務は学校事務だけの採用試験を行っているところが多いので、まさか行くとは思っていませんでした。辞令交付で集合したとき、私ほか数十名だけ教育委員会の建物に連れて行かれて、そこで辞令交付されたのを覚えています。学校事務は社会人として必要な庶務の仕事を身に付けられることが大きい。給料の支払い、物品購入の会計、職員の福利厚生など総務課の事務を何でもやります。「ここの仕事はどこに行っても使えるよ」と当時の事務長に言われましたが、確かに大きかったですね。
 その後は教育委員会の県立図書館、高校教育課を経て、人事課には都合19年いますが、県立高校の事務をやればどこでもやっていけることを実感しました。

(写真・小暮誠)

みなさんに一言!

 人口減少社会は待ったなしにやってきます。神奈川県は「SDGs(持続可能な開発目標)未来都市」に国から選定されました。今後、市町村はフルセットの業務を諦めたり、県と業務を共同化したりするかもしれない。その中で県としての立ち位置をしっかりし、持続可能な神奈川県をつくっていくために、神奈川のために働きたい人、公務員になってやりたいことがある人、意欲の高いアグレッシブな人材が必要です。常日ごろから神奈川県の情報に触れておくことが、採用への近道だと思います。

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 「いのち輝くマグネット神奈川」を基本理念とし、地域の魅力を最大限に生かし、人々が何度も訪れてみたい、住んでみたいと思うような、人を引きつける神奈川、県民のいのちを輝かせ、誰もが元気で長生きできる神奈川の実現を目指しています。また、県民、NPO、企業、団体、市町村などと情報や目的を共有しながら、神奈川の総力を結集し、「未病の改善による健康長寿」の取り組みや特区を活用したロボットとの共生などのような独自の施策により、神奈川モデルを創っていきます。